パート09
「野中……二眇?」
……ああ、こんなポカンとした反応が返ってくるとは思ってたよ。
これはまぎれも無く僕の本名だ。小説を書いている時に使っているペンネームとか仮名じゃない。
「もしかして、あなたのあだ名の中二病って……」
その事についても、出来る事なら気付かないで欲しかった。
僕のそのあだ名は授業中にラノベを読んでいるからだけじゃなく、名前からも来ている。野中の最初の部分を取ってしまえば、呼び方はそのまま中二病へとつながる。
だから今まで名前出そうとしなかったのに!
「……それでウーゴ、これから僕たちはどこに向かえばいいんだ?」
無理矢理話題を逸らす為に、僕は肩に乗っているウーゴに話しかけた。
「そうですね。まずはこの世界に慣れて貰う為に、近くにある村に向かいましょう」
モンスターの次は村かよ。まるでどこかのラノベみたいだな……。あるいはRPGか?
とはいえ、それ以外にやる事が無いし、あても無く歩き回るよりはいいか。
「ところで、僕が創造させたあの二つの剣は?」
「あ、それなら私が持ってるよ」
そう言って、斉藤さんはさっき僕が創造で作った二本の剣を取り出した。
それに僕は、ふと疑問に思った。
「この剣って、僕が気絶したら消えるとかそういうのじゃないんだな」
「この世界で創造された武器は、創造した本人が消したいと思えば消えますよ。けれど、最初に決められた設定は変わる事がありません」
「うわあ……」
だから、どれだけ鬼畜な設定なんだよこの世界。ってことは、左の真っ白な剣の『所有者が外にいた場合、膜に受けたダメージは所有者にも受ける』って設定は変わる事が無いのかよ。
「ですが武器を消した後、新たな設定を付け加えて再び創造する事は可能です」
「それはありがたい、のか……?」
まあいつか役に立つかもしれないから、一応覚えておくとするか。
それにあんまり設定を付け加えすぎると、また空白の設定が勝手につきそうだしな。
「……ねえ」
ウーゴとこの世界での創造について聞いていたら、斉藤さんがいきなり僕に話しかけてきた。
「野中君って、初めてこの世界に来たんだよね?」
「そ、そりゃそうだよ」
いかん。女子と話し慣れてないから、どうしてもつっかえつっかえ話しちゃうな。
「なのに、すぐにその武器創り出せたよね? どうして?」
「多分だけど……、よく小説書くときにそういう武器とか考えたりしてたから、かな……?」
「え、野中君って小説書いてるの?」
「しゅ、趣味で書いてるだけだよ」
多分いま僕、ものすごく顔が赤くなってるな……。それほど、自分について話した事がない。
というか、趣味で小説を書いてるなんて変人って思われないかな……?
そう思ってたけど、意外にも斉藤さんの反応は違っていた。
「へーすごいね! でも納得するなー。だからあんなに早く創造することが出来たんだ」
「武器の設定とかは、前に考えてた小説の設定をそのまま創造してみただけだよ」
「それって、どんなお話なの?」
……そこ、聞いてきますか。
いや、話す事は出来るけどさ。うん。
ただ内容があだ名の通り中二病作品なんだよね……。
というか誰かに話すだなんてそんな恥ずかしい事、小心者の僕に出来る訳が無いだろうが。
「……僕が書いてる小説なんて、ただの駄作だから」
「そんなの、私が決めるから。いいから話してみてよ」
結局、僕はみんなが起きるまで斉藤さんの勢いに押されて、自分が書いていた小説について説明する事になってしまった。




