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夜会の顛末  作者: 豆狸


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最終話 海賊と姫

「あんたの元婚家への慰謝料は、そのままでも良かったんだぜ?」


 ジェローン様の家で彼に言われ、私は首を横に振りました。


「それでは私が新しい男に乗り換えただけの尻軽女になってしまいますわ」

「あんたが本当に尻軽女なら俺も楽なんだがな」


 そう言って、新しい夫が笑います。

 正直なところ私は彼のことを愛してはいません。

 婚家の圧力に負けて私を嫁がせた実家へ帰るよりも、ジェローン様と再婚したほうがマシかと考えただけなのです。表向きはハイス様(元夫)の家が事業で負債を抱え込んだので妻を離縁し、妻の再婚先がたまたま負債を肩代わりしてくれたということになっています。元夫とアルメ様の不貞は(おおやけ)になっていませんが、あの夜会に出席していた人間はみんな知っていますので、事の顛末にも気づかれていることでしょう。


「ジェローン様は私が再婚相手でよろしいのですか? 地味でつまらなそうな女ですよ?」

「ははは、あのときは俺が見損なってた。そういやアルメのことも見損なってたな。もっと強くて悪い女だと思ってたんだ。俺はそういう女が好きなんだよ。でもアルメは第二王子の言うままに、生け贄の男達にも体を開く弱い女だった。……残念だよ」


 あの夜会での茶番は、私とニナ様が計画したことでした。

 第二王子殿下は上手く隠していたつもりだったようですが、ニナ様は学園時代から彼の不貞に気づいていました。

 おふたりの婚約は王命によるものだったので、波風を立てられなかっただけだったのです。


 当然私も結婚後も続くハイス様の裏切りに気づいていました。

 けれど、ただ離縁を申し出ただけでは、婚約解消を申し出たときのように受け入れられないこともわかっていました。

 なにか決定的なことが必要だったのです。


 そんなときニナ様が自宅の第二王子殿下の部屋であの手紙を見つけました。

 便せんに水を零したので反故(ほご)にしたものの、濡れていたので暖炉に入れても燃えなかったようです。

 おかげで私達は素晴らしい証拠を手に入れることが出来ました。


 人間というのは自分のことは見えないものです。

 アルメ様の不貞相手達は、第二王子殿下以外は互いの存在に気づいていませんでした。

 そこでハイス様の出席出来ない夜会で、アルメ様が落とした風に装ってスコルテン子爵令息にあの手紙を拾わせたのです。まあ、さりげなく近くでニナ様と会話して思考を誘導したりもしましたけれどね。上手く事が進んで良かったです。


 ジェローン様に黒幕だと見抜かれて、求婚されたのは予想外でした。


「女侯爵閣下も頭は切れそうだが、主犯はあんただろ? ふたりで目配せしてたときにわかったぜ」

「さあ、どうでしょう?」


 確かにあの手紙を王家に提出して、第二王子殿下と離縁すると息巻いていたニナ様を止めたのは私です。

 なにしろ宛名も差出人も書いてない不貞の手紙でしたからね。

 侯爵家に自分達の血を入れたい王家に手紙を見せても、交渉出来るとは思えませんでした。だからせっかくの素晴らしい証拠を活かすためには、少しでも多くの人を巻き込んだ大ごとにしてしまわなくてはいけないと考えたのです。……ニナ様とふたりで、ですよ?


「俺に交渉して慰謝料を無くしてやるほど、あの不貞男が好きなのか?」

「あら、嫉妬ですか?」

「おう嫉妬だ。アルメが俺を睨み返せたのは、自分が第二王子の女だったからだ。だが、あんたは違う。夫に裏切られて、自分ひとりの力で俺を睨み返してきたあんたの瞳を見たときから、俺はあんたに惚れてる。前言撤回だ。あんたは地味でつまらなそうな女じゃない。強くて悪くて……良い女だ」

「ふふふ、ありがとうございます」


 私はハイス様の守るべき姫ではありませんでした。

 ですが私は、騎士であろうとする彼が好きだったのです。

 いつかアルメ様ではなくて私が、彼の姫になれるのではないかと夢見ていたのです。なれませんでしたけど……まだ私の心は、騎士伯爵から海賊伯爵へ乗り換えられていません。


「慌てる野郎はなんとやら、だ。気長に待つよ、奥方様」

「ええ。今のジェローン様は色恋どころではありませんものね。今も昔も伯爵夫人の私が、新米伯爵様に作法と礼儀を教えて差し上げましてよ」

「よろしく頼むぜ、俺のリア姫」


 新しい夫にはまだ内緒ですが、彼にそう呼ばれるのは、悪い気分ではありません。

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