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翼のない俺たちに幸せの粉を‼︎  作者: 織部りお
第3章 初恋が魅せたもの

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20話 たわまん


 『と言うわけで、今から楓くんと星域に行ってくるのです。星域のじっちゃんが誰のことなのか正確には把握出来ていないのですが、おそらく、ジィのことなのです』


「わかったわ。ジィねぇ……。まぁ気をつけて。死神も居るかもしれないし」


 『分かったのです。あと……おそらく、ジィは楓くんに余計なことをペラペラと話すのです。その時は、ローズベルクのことも、今の天界のことも、楓くんが知ってしまって大丈夫ですか?』


「その時はその時ね。変に気を使わせたくは無かったけど……ジィに会いたいって言うなら仕方ないわ。楓の好きにさせてあげて」


 『はい。じゃあ、行ってくるのです』


 エルシオからの連絡はそこで途絶えた。

 おそらく、楓はシルエトからジィのことを聞いたのだろう。情報を仕入れるのならそこしかない。

 花火の時に、楓の記憶が戻りつつあったことを考慮して、魔法の効果を強めた。魔法を受けた者の脳への負担が大きいため、こう言うことはしたくないのだが仕方がなかった。万が一の保険だ。

 だから、記憶のことに関しては問題ないだろう。ただ、今の天界のこと。そして、私たちが置かれている状況を知った時、楓は何を思うだろうか。

 行列に並んでいたことをすっかり忘れ、私は楓のことを考える。本当に人間に生まれ変われるのか。もしそれが間に合わなかった時、別の生き物にしてあげるべきだろうか。それとも……。


「次の方〜。どうぞ! ラスト一冊ですよ! ギリギリでしたねぇ〜」

 

 私は深く被ったパーカーからできるだけ顔が出ないよう目の前の本を手に取り、軽くお辞儀をする。

 「私と天使と鳩」の最新刊。無表情を保ってはいたものの、流石に笑みが溢れる。これだ。私はこれが欲しくて楓たちをおいて先に帰った。


「……やった!」


 小声でそっと、抑えきれなかった喜びの声を出す。 

 楓のことで頭を回していたことなどすっかり忘れ、私は人目につかない路地裏でゲートを開いた。


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「近くで見るとやっぱりでっかいな! タワマンを見上げてるみたいだ」


「たわまん……? 人間界で言う、肉まんとかあんまんとか、その類のものですか? 美味しいのですか?」


 「あー美味いぞ」そう適当にエルシオをあしらいながら、俺は巨大な木を見上げている。

  目の前にそびえるのは、木、そう呼ぶにはあまりにも途方もない存在だった。幹はタワーマンションのように空へと伸び、滑らかな樹皮は星域の星々の煌めきを浴びて輝いている。見上げれば、首が痛くなるほどの高さの先で、枝はまるで星々を押しのけるように広がっている。

 葉はただの緑ではない。淡く青みがかり、内側から光を宿しているかのように、うっすらと光を発している。星の光を反射しているのだろうか。

 この巨大な木が、星々が、この静寂が、自分と言う存在を包み込む。


「ここにじっちゃん……ジィって天使が住んでるんだよな?」


「はい。そのはずなのです」


 エルシオに星域のじっちゃんのことを話した時、その名前にピンと来たのか、少し驚いた様子を見せた後、すぐに誰から聞いたのかを尋ねてきた。俺は、迷わずシルエトだと答え、それを聞いたエルシオはため息を着いた後、フィロに確認の電話をしていた。

 シルエトの話に対し、半信半疑な部分もあったが、エルシオの反応でここに星域のじっちゃんが居ることを確信した。ここにくる途中で、その天使はおそらく「ジィ」のことだとエルシオから教えてもらい、そして今に至る。

 ジィだからじっちゃんなのか、老人だからじっちゃんなのか定かではないが、それも会えばわかることだ。


「おそらく、1番上の大きな枝に住んでいるはずなのです」


 「枝」というより、「部屋」と言ってもらえた方がわかりやすいほど、巨大な鳥の巣のような物が、木の頂上付近に微かに見える。


「なあ、今更だけど、人間の俺がじっちゃんに会っても平気なのか?」


「多分大丈夫なのです。エフィルロの許可も降りているのです」


「多分って……まあ、仲間みたいなもんってことだな」


「仲間と言われると難しいですが、理解者ではあるのです。こっち側の天使なので」


「こっち側って? おいおいおい! まだ話してるだろうがああああああ!!!」


 エルシオは、なんの前ぶりもなく俺の肩を掴み、タワマン最上階へ急発進した。

 

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「ここですかね」


「これは不幸だ……そろそろ俺にも幸せの粉を……かけてくれ。それか……酔い止めをくれ」


 木々を避けながら進んだため急な方向転換が多く、俺の頭は、ジェットコースターに乗った後のように揺れていて、気持ちが悪い。覚束無い足が触れているのは、さっき下から見上げたあの大きな鳥の巣のような枝。地上を見下ろす勇気は無いが、ここから見渡す景色は絶景だろう。

 柵のない展望台に立たされているようで恐怖を感じる。風が無いのはありがたいが、それでも、俺が高所恐怖症であれば、きっと失神している。

 目の前、方向で言うと木の幹側。いくつもの太い枝を伸ばしている根元付近に、木で作られたドアがある。これほどの太さの木だ。そこに部屋があっても違和感は無い。


「ここにジィが……」


「楓くん!!」


 エルシオがドアノブに手を伸ばした時、ドアの中心を突き破るように、1本の剣がこちら側に貫いてきた。その剣の矛先は、迷うことなくエルシオの後ろに居る俺の方へ向いている。

 一瞬の出来事だった。俺の頭を貫通する勢いの剣を、エルシオはいつの間にか手にした左手の短剣で受け止めた。


「流石じゃのう……」


 ドアの向こうから声が聞こえた直後、2本目の剣が、再び俺を矛先にドアを貫く。エルシオはそれを難なく右手の剣で防いだ。だが、それだけでは終わらない。

 未だ、微かに震えながら攻防を続ける2本の剣の間を縫って、3本目の剣が、今度はエルシオに向けてドアを貫いた。


「何本手があるのですか」


 流石のエルシオも手は2本だ。俺を庇い続けながらこの剣を防ぐことは不可能。

 剣はエルシオの腹部へ向かう。1本目からこの3本目、その間およそ3秒。人間、危機的状況になると物事がスローモーションになると言うが、こう言うことなのだろうか。俺の目は、今にもエルシオを貫くであろう剣をただただ見つめることしかできない。

 そして、エルシオの腹部に剣が触れるその瞬間、何か見えない力に守られたように、その剣はピタリと動きを止めた。

 そしてゆっくりと、ドアの中へそれぞれの剣が引き抜かれていく。俺の心臓は、今にも破裂しそうなほどの鼓動を、体全体に響かせている。


「挨拶にしては、あまりにも殺気を感じたのですが」


 エルシオがドア越しに話しかけると。ゆっくりと木製のドアが開いた。

 長く白い髭を摩りながら、ついにドア越しの声の主が姿を現した。星域のじっちゃん。剣を握っていること以外、そんなあだ名がピッタリの老人が、俺の目に映る。


「本気で殺るつもりでいったからのう。でないと、この人間に対しての対応と、お前さんにかけられた星刻の効果は見れんからのう」


「それで、3本目は?」


「足じゃよ?」

 

 エルシオの問いにそう答えると、片足を上げたジィは、足の指に挟んだ剣をぶらぶらと揺らした。


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