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16話 青髪の王子様


「僕の名前はシルエト。君は……人間だよね?」



 質問の内容は頭に入ってきている。しかし、どう答えるべきか正解が見当たらない。

 シエルトは俺が人間だと既に気づいている。フィロの仲間か聞いてみる事も考えた。だが、もしそうなら、何も話し始めない俺に向けて、シルエトは既にそう伝えているはずだ。

 

 ここで、シルエトの質問に対し、人間だと認めてしまったらどうなるのだろうか。フィロは他の天使に見つかるのはまずいと言っていた。そして違法だとも。

 それに、今はただ過ごすだけではなく、天使の仕事のお手伝いまでしているのだ。



「間違いなくただじゃ済まないだろ……」



「心の声が漏れてるけど……! ほんとに僕何もしないから! そんな怖い顔されても困るから!」



「本当か?」


 ゴホンと咳払いした後、シルエトはこう続ける。



「僕は先輩をしていただけなんだよ。君は? 何故ここに? さっきアイボーン持ってたよね? 人間だったら、多分アイフォ」



「それ以上言うな。分かった、全部話す。だから、少し一緒に目を瞑っててくれないか。そうすると、花の声が聞こえるんだ」



「え! そうなの!」



 そう言ってシルエトは、あまりにも素直に目を閉じた。



「逃げろ逃げろ逃げろおおおお!!」



 全速力で駆け出した俺は、ポケットからアイボーンを取り出し、焦りながらもフィロへ連絡する。



『あ、もしもし~? 今日は鍋よ! もうそろそろ帰ってきても……』



「早くゲートを出してくれ! 変な天使に見つかった!」



『えぇ!? それは不味くない!? ど、どうしよう!』



 早くゲートが開かなければまずい。

 ゲートが開かれた時、近くにシルエトが居た場合、一緒に着いてくる可能性が高い。つまり、ゲートが開くまでは追いつかれるわけにはいかない。

 しかし、流石は天使。人間の俺では逃げ切れるわけもなく。



「変な天使ってひどくない?? ねえ! ひどくない??」



 全速力で走っている俺の斜め上には、翼を生やしたシルエトが居た。額に眉を寄せながら、俺の発言を気にしている。



「くっそぉぉぉぉぉお!!!」



「いやだから! とりあえず話を……グハッ!!」



 ものすごい勢いで電信柱にぶつかったシルエトは地面に落下し、頭を抱えて涙目になっている。



「だ、大丈夫……なのか? あと、話って」



「僕はノーダメージ! 話を聞いてくれ! 僕は悪い人間と良い人間の区別がつく天使だ。君は悪い人間じゃない。僕は、君にはなにか事情があると見た! だから君を天界に連れ去って裁くなんて事はしない! さあ! 事情を話してみよ!」



ーーーーーーこいつを信じてもいいのだろうか?



 俺が良い人間だからといって、天使の仕事をしている俺を見過ごして良いはずが無い。このまま事情を話したところで、俺はきっと天界法なんちゃらで裁かれ、今もってるポイントで蟻やらミミズやらに生まれ変わるか、地獄に落とされるかしてしまうのだろう。そもそも俺は今、何ポイントほど貯まったのだろう。

 それより、今はシルエトだ。



ーーーーーーどうする?



ーーーーーーもし、俺を匿っている事がばれたら、フィロやエルシオはどうなる? あいつらにも被害が及ぶはずだ。



ーーーーーーでも……



 シルエトの微笑みには、嘘偽りはない。

 俺は、シルエトの笑顔と言葉を信じる事にした。

 シルエトからは、少しの悪意も感じられない。ただの良い奴。そうとしか思えなかった。


 俺はアイボーンで、フィロに一旦迎えは大丈夫だと連絡をした。



「自己紹介まだだったな。俺の名前は片山楓」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 落ち着いて話せる場所に行こうと、俺達は先ほど出会ったローダンセの前にある、硬いベンチへ腰掛けた。



「俺は死んだ直後の面接で0ポイントだった。だから、こうやって良いことしてポイント稼いでるってわけよ。もちろん、法を犯してるってことは知ってるぜ」



「0ポイント? かえちゃんそれはまずいよ?? ねえ?? 草にもなれないよ!」



 どこか煽られている気がしたがとりあえず無視して、俺は、シルエトに自分が何故ここに居るのかをすべて話した。

 一応、ローズベルクの事や、フィロやエルシオの名は伏せ、2人の天使と称したが、シルエトが嘘をついているならば、2人の天使の罪がバレるのも、時間の問題だろう。

 あと、かえちゃんってなんだ。



「大体分かった! まあ、頑張ってポイント貯めなよ。かえちゃんを見つけたのが僕じゃなかったら、今頃どうなっていたか……」



 沈んだ表情でそう俺に心配の声をくれたシルエト。俺には、シルエトが嘘をついている様には思えなかった。

 見つかったのがシルエトで本当に良かったと安堵する。



「てかもしかして、かえちゃんを匿ってるのって……星域のじっちゃん?」



 シルエトは人差し指を立て、ズバリ当てたかのようなドヤ顔でこちらを見つめている。



「え? いや、誰だそれ」



 一瞬言い当てられるのかと思いヒヤヒヤしたが、かなり的外れな名前が出た。じっちゃんともなれば、流石にフィロやエルシオのことではないだろう。

 いや、正確な年齢と性別を知らない以上、可能性は0ではないが。



「あ、違うのかあ。まあ、何にせよ、あの人には会った方が良いよ。なんでも知ってるから」



「え、いやだからその……誰?」



「だーから! 星域のじっちゃん!」



「いや誰なんだよ!!」



「まあ、会えば分かるさ。星域っていう場所の、一番でかい木の上に住んでるよ」




ーーーーーーあの木か……




 星域に初めて行った時、遠目に見えたあの木のことを言っているのだろう。確かに、人が住めるような大きさではあった。



ーーーーーーそういえば……



 星域に行った日、ローズベルクから出る際にフィロから言われたことを思い出した。フィロの言う事が正しいのであれば、人間は臭うらしい。だが、人間と天使を判別できる天使は少ないと言う話だ。



「なんで俺が人間だって分かったんだ? 普通の天使じゃ分からないって話しだったんだけど」



「そんなの、臭いでバレバレだよ」



「やっぱり臭いか……」



 シルエトは、臭いで人間と天使を判別できる天使。つまり、普通の天使ではない。

 だが、こうなっている以上、いまさら警戒してももう遅い。



「い、いや! そんなに臭いわけじゃないから!」



「そんなに、ってことは多少は臭いのか」



「ち、違ーう! そうじゃないんだよ!」



 必死に否定してくれる辺り、本当に優しい天使なのだろう。あの2人には見習ってほしいものだ。

 俺は、シルエトが顔の前でブンブンと手のひらを左右に振り、失言を訂正しようとしているのを横目に、目の前の花畑を眺める。



「しかし、ローダンセ。なんでこの花を写真で……」



 沢山の綺麗な花が咲いている中、なぜあえてローダンセを撮影し、エルシオと見に行く約束をしたのだろうか。

 俺は、まだ読み切れていなかったローダンセの説明を読もうと立ち上がる。



「どうしたの? なんか悩み事?? 顔怖いけど」



 ひょこっと、俺と同じく立ち上がったシルエトは、そう俺に問う。



「この花を写真に収めるってのはどんな意味が込められてると思う?」



「収める……? それはどう言った行為?」



「カメラ、いや、こんなくらいの大きさで」



 手振りで大きさを伝え、花に向けてパシャッと一言つけると「あぁ!」と、手を叩くシルエト。



「聖刻機の事?」



「聖刻機?」



「あ、星刻機と言うのは、天使の見た物事や情景をその天使の魔力を送り込む事で保存することが出来る代物だよ。あれ、すごく珍しいんだよ!」



 エルシオからカメラを見せてもらった時の違和感。それに今やっと気がついた。レンズだ。カメラを見た時、レンズっぽい部分が無かったように思える。

 あれはカメラではなく、星刻機と言うらしい。

 星刻機の機能について、シルエトは続ける。



「でも、星刻機の機能はそれだけじゃないんだよ! 星刻機にはもっと凄い機能があるんだよ、1度だけしか使えないんだけどね」



「勿体ぶらず教えてくれよ。その機能ってのはなんなんだ?」



「星刻機は1度だけ、願いを叶える事ができるんだ!」



「願い?」


 

 幸せの粉は人を幸せにする代物だ。そして今度は、願いを叶えるときた。1度だけとは言え、かなりのチートアイテムだ。



「願いって……何でもか?」



「ノー。何でもっちゃ何でも何だけど、その機能の使い方が何とも皮肉気味ていてね」



「と言うと?」



「星刻機の、1番最初の所有者が亡くなる時、その亡くなった天使が生きている間に一番強く願ったことが、本体に保存されるんだ。そして、その願いを放出させる場所は、天界で、一番星が綺麗に見える場所。さっきのじっちゃんの時に出てきた、星域って場所さ」




 皮肉。そうシルエトは表現した。それもそうだ、願いが叶うのは、自分が死んだ後。その機能に、あまり意味がある様には思えなかった。ただ、もしアレシアが何か願いを残していたら、星域でそれを放出し、願いを叶える事ができる。

 おそらく、エルシオはあれにそんな機能がついていることを知らない。星刻機と言う名前がついていることも知らなかったくらいだ。

 ただ、持っていくだけで願いが叶うとは思えない。それで良いのであれば、エルシオは何度も星域に星刻機を持って行っているはずだ。いつの間にか願いが放出され、叶っている可能性もあるが。



「どうやったら願いを放出できるんだ? その、星域って場所に持ってくだけで良いのか?」



「ははっ、良い質問だね! そう、ただ持ってくだけじゃだめ。ただ、簡単だよ。星域で、最初の所有者を呼ぶんだ」



「呼ぶ? 呼ぶって言ったって、もう……」



「大丈夫。最後の願いは、星刻機に刻み込まれてる。やってみたらいいよ」



 刻み込まれている。あまり理解できてはいないが、おそらく、アレシアの願いが星刻機に刻み込まれている。願いを放出した時、アレシアは生き返るのだろうか。まさかそんなことはあり得ないだろう。ただ、アレシアの最後の願いを、エルシオは知るべきだ。それによって、何かが変わるかもしれない。



「な、なにその希望に満ちた目! 空を見上げすぎだよ!!? かえちゃん! 大丈夫??」



「あーごめん。何か分かるかもって思ってここに来たんだけど、こんなにも良い情報が手に入るとは思わなかった。ありがとな、シルエト」



 希望に満ちた目。その言葉にピッタリ収まる目を、俺はシルエトに向ける。



「こちらこそ! 久しぶりに人間と話せて楽しかったよ! それに、僕が探してた先輩の手掛かりも、かえちゃんに教えてもらったしね!」



 シルエトは、申し訳なさそうな目で俺に笑顔を向けている。



「は? それは、どういう……まさか」



 カメラ、天界では星刻機と呼ばれているそれは、シルエトが言うにはかなり珍しいもの。

 もし、その星刻機が天界に限られた数しかなく、その所有者が割り出されているとしたら。



「そのまさかだよー! 基本的に星刻機だったり、星剣だったり、いわゆる星具と言われるものは、1個ずつしかないんだよ」



 星剣、星具。俺の知らない単語が並べられ深掘りしたい気持ちに駆られるが、今はそれどころではない。敢えて話していなかった事を、知られてはまずい天使に知られた気がしている。



ーーーーーーまずい。シルエトの探している天使。それは……



「まだ名前しか言ってなかったよね! 僕は、天界騎士団第二部隊隊長、シルエトだよ。そして、僕が探してるのは、行方不明中の元第二部隊隊長!」



 以前星域でフィロが言っていた。俺の記憶が正しければ、エルシオは元天界騎士団、第二部隊隊長だ。そして、エルシオは星刻機も持っている。シルエトは、間違いなくエルシオのことを言っている。



「行方不明中って、あいつが?」



「そ! 星具を2つも持ってるって言うのも探してる理由ではあるんだけど、今僕達人手不足なんだよね〜。それで、エルシオさんに戻ってきてほしいな〜ってわけ。あんなに強い天使、なかなか居ないからね」



 行方不明中と言うのがよく分からないが、もし、ローズベルクに滞在していることをエルシオとフィロが隠しているのであれば、それだけは言ってはいけない。ただ、もうすでに俺がエルシオと関わっていることはバレている。この状況はなかなかにまずい。



「だから、できればなんだけど……僕をエルシオさんに合わせてくれないかな」



 返答に困っていたその時、俺の目の前に、今まで何度も見てきた次元の裂け目が姿を表した。ゲートだ。

 ゲートから、勢いよく風を切るように飛び出した赤髪。

 


ーーーーーー最悪のタイミングだぜこりゃ……



「心配だから見てきてと言われて来てみれば……久しぶりですね。変な天使さん」



「かえちゃんに頼むまでも無かったってわけだ! 久しぶりですね、とりあえず、その物騒なものを仕舞っていただけますか?」


 

 ゲートから出てきたエルシオは双剣を構え、俺を庇うようにシルエトと向かい合った。

 

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