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13話 新たな目的


 「それで、私が会いに行った時には、エルシオは空っぽだった。それでも、今こうして生きてくれてるの。十分すぎるでしょ? でも、もっと欲を言えば……自分の気持ちに正直に行きてほしいと思う」




 フィロは、俺にエルシオの過去を話した。

 今からずっと前、元々はアレシア、エルシオの2人に仕事の手伝いをしてもらっていたこと。その後、エルシオは天界騎士になったこと。アレシアは、死神に殺されたこと。そのせいで、エルシオは塞ぎ込んでしまったこと。

 それでも、アレシアの分まで、強く生きていくと決めたことも。



「死神なんて生まれないように、地獄に落とすなんて辞めちまえば良いんじゃないのか」



「それはできない。ルールなの。人間達の死後を管理する、私たちの義務」



「でも……そんなことしてるから、アレシアのように犠牲が」



「理不尽でしょ? 人間に幸せを与えるのも、罰を与えるのも私たちの仕事。その結果、私たちは死神になった人間に殺されることもある」



 理不尽。そんな一言で、片付けて良い物なのだろうか。人間に幸せを与えていたアレシアは、人間によって殺された。それを知ったエルシオが人間を嫌うことに、それ以上の理由は必要ないだろう。



「でも、エルシオは今、人間に粉をかける仕事を手伝ってる」



「そう。アレシアが居なくなってから、しばらくエルシオは私の家で暮らしてた。もちろん、仕事を手伝ってなんて言えなかった。でも、エルシオは、仕事を手伝うと言ってきた。きっとあの子のことだから、私の家に何もせずに居候するのは嫌だったのかも。それに、あの子は分かってた。アレシアは人間が大好きで、仕事が大好きだったってこと。そして本当は、あの子自身も、人間を幸せにすることが大好きだってことを」



「あいつはやっぱり、苦しんでるんだよな」



 エルシオは、自分の気持ちを必死に押さえ込んで、アレシアを殺した人間を好きにならないようにしている。幸せを与えるときも、溢れ出る嬉しい気持ちに罪悪感を感じている。

 


「だから、私は救ってあげたい。ずっと苦しんでるはずだから」



「ずっとか、エルシオはいつからこの仕事に復帰したんだ」



「んー。人間界で言うと……5、6年くらいかな」



 そんなにも、エルシオは自分の気持ちに嘘をついている。もうすでに、慣れてしまっているのかもしれない。もう2度と、人間と心から素直な気持ちで関われないかもしれない。でも、それをフィロは変えようとしている。それは、俺も同じ気持ちだ。アレシアも、きっとそれを望んでいる。

 エルシオに幸せになってもらいたい。それが、皆の総意のはずだ。



「よしっ! やっぱあいつはあのままじゃ駄目だ! 方法は全く思いつかないけど、このまま友達が苦しんでるのはほっとけない。あいつの苦しみが晴れるまで、俺は生まれ変われない」



 そう意気込む俺を見て、フィロはニコッと笑みを浮かべた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そこからしばらくして、フィロが次の仕事の案内をしてきた。その流れで、フィロはエルシオをアイボーンでローズベルクに呼び出す。

 その後少し経って、ゲートから、赤髪の天使が飛び出してきた。目が腫れている気がしたが、それには触れなかった。


「お待たせなのです〜」



「じゃあ、行こうか!」



 フィロはそう言って、人間界に続いているであろうゲートを開く。

 エルシオの過去について聞いてからどこかしんみりムードだったが、いつまでもこうしては居られない。俺には、ポイントを貯めて生まれ変わること、父の記憶を取り戻すことの他に、新しく最優先事項が増えている。



 新しい目的を胸に、俺は2人に続きゲートに飛び込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「到着」



 ゲートから出て、人間界に到着した一行は、フィロから送られてきた今回のターゲットに目を通す。もう既に、フィロから渡されたアイボーンは俺の私物と化していた。かといって、暇を潰せるような機能は、人間界のあれと違って携えていない。

 アイボーンから目を離し、辺りを見渡す。遠目に少し森らしきものが見えるが、それ以外には自然は少なく、ただの住宅地だ。周りに人は少なく、太陽の位置的にお昼過ぎだと予想がつく。



「ターゲットは今日も1人か……」


 

 フィロから聞いたエルシオの過去。その中で、アレシアを含めた3人での仕事内容もちらっと聞いた。その時は、1日に何人かの人間に粉をかけていたらしいが、俺が天界に来てからの仕事は、基本1日1人だ。幸せは人間界に充実しているのだろうか。俺が生きていた時の記憶からして、そんな風には思えない。

 そんなことを考えながら、再びアイボーンに目を移す。アイボーンの使い方は、使っていくうちに慣れてきた。生きていた頃のパソコンやスマホの操作で培った知識を活かし、器用にアイボーンを操作しながら、送られてきている人間の情報を見る。



「あっちの方の住宅街なのです!」



 そう言って指を指し、その方向に歩いていくエルシオに続き、残りの2人もついて行く。途中で見つけた公園内の時計では、いまの時刻は午後2時。時折すれ違う人間もいたが、歩いているのは買い物に向かう主婦や、散歩をしている老人ばかりで、ターゲットらしい姿は見当たらない。

 今回のターゲットの名前は神内来夏(じんない らいか)。アイボーンの情報によると、高校3年生で、時期的に受験勉強の日々のはずだ。



「ここなのです!」



 エルシオは首から下げたカメラで、目の前のアパートを撮影した。エルシオの視線の先に見えたのは4階建てのアパート。お世辞にも綺麗とは言えないアパートではあるが、本当にここに高校生が暮らしているのだろうか。


 

「で、こっからどうするかだな」



「あれ見れば分かるんじゃない?」



 フィロの視線の先には、小さなポストが大量に並んでいた。アパート特有の、集合ポストだ。その中には、表札のように名前が書いてあるものもある。

 3人でそこに歩み寄り、神内の名前を探す。



「あ、あったのです、403なのです」



 部屋の番号を特定した俺たちは、階段で4階まで向かった。


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