9話 死神
「鳩を食べるなんて、あなた! まるでバケモノね、天使としてあるまじき行為だわ!」
「我は鳩を食べているんじゃない。鳩が、我々を食べているんだ。それが、この鳩の力なんだよ。まるで食べられているかように、鳩は我々を食す」
「そんな……鳩にそんな力が……」
俺は、よく分からない展開になってきた漫画「私と天使と鳩」の5巻を勢いよく閉じた。
病院での1件から何も仕事がないまま、体感で2日ほど経っただろうか。
粉をかける仕事は今のところ無いらしく、全く予定のない休日のように、時間を持て余していた。
エルシオは何度かゲートでここを行き来はしていたが、いつの間にか戻ってこなくなり、今はフィロとの二人だ。
「あー、暇だなぁ」
『時間制限のあるこの世界で、どれだけ幸せに過ごすか』そんなことを思っていたのも束の間、既に暇で暇で仕方がない。漫画を1巻から貸してくれるようになったのは良いが、流石に何日も漫画だけの生活は退屈であった。しかも、内容は正直面白くない。ただ、天界での鳩の立ち位置は気になるところだ。
食事も、鍋パ以降は今のところ1度もない。死んだ人間には食欲など無くても良いとは思うが、それはそれで退屈な時間が増えるだけだ。
ふと、何かを思いついたように、フィロは手に持っていた漫画を乱雑に床に置くと、俺の方を見た。
「外、一回出てみる?」
「えー、今眠いしーってえぇ!!?」
唐突に提案されたその内容は、シンプルではあったが、俺にとって予想外すぎる提案だった。
「良いのかよ、ほかの天使に見つかったらやばいって言ってただろ」
「そうね。でも天使と人間なんて翼があるかないかの差よ。少し人間は人間臭いけど」
「人間臭いって……まあ、それならいいか」
フィロの言っている事は、確かに一理ある、フィロやエルシオと初めて出会った時、一目で人間じゃないと思えたわけではなかった。むしろ逆で、人間だと思ったくらいだ。外見にさほど違いはない。
その人間の臭さとやらを考慮すれば、天界を出歩くこともできるのかもしれない。
「まあ、わかる天使には一瞬でバレちゃうような臭いだけどね」
「駄目じゃねーか! 消臭剤とか無いのかよ!」
「そんな便利なものはないけど、正直、臭いだけで人間だとわかる天使は少ないわ。だから大丈夫よ」
「それならいいけどよ」
「それに、今から行くのは星域。よっぽど他の天使は居ないはずよ」
「星域! 私も行っても良いですか!?」
お菓子の袋を大量に両手で抱え込みながら、いつの間にか現れたエルシオが、俺達のデートの予定に割り込んできた。
「いいわよ! 3人でお出かけしましょ!!」
どこか楽しそうな天使2人と、不安が隠しきれない人間1人は、ゲートを開いたエルシオを先頭に、そこへ飛び込んだ。
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気がついた時、俺は草原の真ん中にいた。フィロとエルシオは、目線の先で寝転んで空を見ている。
周りには何も無い。遠くの方に木々が見える程度だ。山や建物なんてものは何一つ見えない。こんなにも見渡しのいい場所は初めてだ。
クレーターのようなものがある。隕石でも降ってきたのだろうか、月の表面を彷彿とさせる。この世界が何処にあるのかはわからないが、きっと昼夜はあるのだろう。ここは暗い。夜の大きな公園にぽつんと立っているかのように感じた。
俺もフィロ達と同じようにその場で寝転がる。
「……」
唖然。出てくる言葉が無い。それと同時に、今まで味わう事など出来なかった底の見えない感動が、俺の胸を踊らせる。こんな事、今までにあっただろうか。やっとの事で出てきた単語、それは「綺麗」しかし、そんな言葉じゃ表せられないほどの光景が、目の前に広がっている。
キラキラしている。あれは星だろうか、七色に輝いている。あれはオーロラだろうか、しかし、星もオーロラも、俺の学んだその言葉の意味の枠には収まっていなかった。
花火のように綺麗な星は、生きていた頃見たどの花火や星よりも強く光り輝き、美しかった。この景色はきっと、人間が生きている間に見られる景色ではない。そう悟った。
「星域みたい」そう、エルシオは花火を見た時に言った。確かに似ている。だが、これを見てしまった後では、きっとどんな花火を見てもここに比べれば、と落胆してしまうことだろう。久しぶりに見た星空は、人間界のそれとは比べ物にならない。
そして、まるで宇宙に放り込まれたように、静かで、風の音すら聞こえない。
聞こえるのは俺の鼓動だけ。起き上がり、再度周りを観察してみる。すると、遠くには大きな木が見えた。きっと、あのサイズの大木は人間界には存在しない。巨大なビルが、そのまま木になったレベルの大きさだ。
この感動を、2人に話そうとした、その時だった。
「よりによってこんな時に……」
焦りを見せるフィロの発言を聞き、俺は何事かと当たりを見渡す。
すると正面、俺の方へ駆けてくるフィロ。その奥でエルシオと向かい合うように、何かがいた。
「な、何だあれ」
「楓、下がって私の後ろにずっといて! 一応!」
話し方から、少し焦りの見えるフィロを見て、ただ事ではないと悟る。ただ、一応の一言が少し引っかかる。
「エルシオは何してんだ! って……おいおいあれなんかやばそうだぞ」
「あいつは死神よ。天使を無差別に襲う生き物」
死神。アニメや本で見たそれは人の形をある程度は保っていたが、目の前のそれは違う。
遠くから見ればただ黒い物体としか見えない。今、少し近づいてきたところを見れば、手や足がある事は分かる。だが、得体が知れないことには変わりない。
「死神……それより、エルシオは何やってんだ! 早く逃げなきゃまずいんじゃねーのか?」
「まあ、あのレベルの死神なら、余裕じゃないかしら」
「は? それはどういう」
「私の仕事は死後の面接と、幸せの粉を振りかける事。それと同じように、エルシオにも、私と行動を共にする前には、仕事があったの」
「エルシオの仕事? あの化け物みたいなのを倒すみたいな? いや、でも、なんか思ったよりデカくねーか? だいぶ強そうだぞ」
ある程度距離があるため、まだ気持ちに余裕があるが、エルシオはあの死神とやらの目の前だ。死神のほうを向き、仁王立ちをしたまま動かない。
恐怖で足が固まっていると説明された方が自然なほど、俺の目には恐ろしい状況に映っている。
「大正解。エルシオは、死神を殲滅する部隊、通称天界騎士団の第二部隊隊長。まあ、元だけどね」
「いやちょっとよくわかんないけど、つまりあれか、強いってことか?」
「そーいうこと!」
死神がエルシオに向かって、大きな手を振りかざした。その瞬間。俺の目が捕えたのは、エルシオの両手の中で光り輝く2本の短剣。その光に目を奪われていたせいで、死神が振りかざした大きな手が、既に切り落とされていた事に気がつけなかった。
静かだったこの場所で、うめき声が聞こえた。これはおそらく、死神が発した声だろう。その直後、いつの間にか翼を生やしたエルシオは、勢いよく踏み込んだ足で地面の土を舞い散らかし、死神の足元へ走る。切り刻まれる死神。物凄いスピードで繰り広げられる戦闘は圧倒的な戦力差があった。
勝敗がひと目でわかる戦いをみて、逃げる必要など無いと思わざるを得ない。
「まあこういうこと。あの子強いから、あんまり怒らせない方が良いわよ」
何かが破裂すると音と共に、死神の姿は消えた。振り向きこちらの方へ歩きながら、事が片付いたことに安堵したのか、エルシオは「ふぅ」と一息つく。
「もう少し、星見ませんか? あなたと話したいこともあるのです」
俺の方を見て、そう言い放ったエルシオの両手には、白く輝く剣がまだ残っており、死神の残骸は、星に照らされながらキラキラと消滅した。背中の羽根はいつの間にか消えていた。
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「じゃあ、私は先に帰ってるね」
エルシオの発言を聞き気をきかせたのか、フィロはゲートを開き、そこに吸い込まれていった。
俺の元へゆっくりと向かってきたエルシオは、俺の横で地面に尻を付けて座った。
そして、俺に「座りな」と声を出さず手で合図する。
「お前、強いんだな。すごかったよ。今の戦い」
「私、賢いだけでなく強いのですよ? 天才かもしれないのです。人間のあなたとは比べものにならないのです」
相変わらずの軽口に、おもわず俺は苦笑する。
「話したい事がある」そうは言っていたものの、少し言いづらい事なのか、妙な間が会話の中で垣間見える。こういうときこそ、年上の俺が気を効かせるべきだと、何か会話の話題を考える。本当に年上なのかは謎だ。
「また面接会場に帰るのかよ。フィロは」
「あそこはほぼエフィルロの家なのです。それに、あなたを1人にはできないと思っているのではないですか? エフィルロはあー見えて優しい天使なのです」
「そうか、まあそうだよな」
これまで、鍋を持ってきたり、マンガを借りてきたりする所を見ると、自分の家の方が居心地がいいのではと思う節もあった。薄々気が付いてはいたが、家にほとんど帰らないのは、フィロの優しさなのだと再確認する。
0ポイントの俺の居場所など、本当なら天界には存在する事など無かったはずだ。
時間が経過すれば地獄に落ちるのであれば、わざわざポイントを貯めて生まれ変わる提案などせず、その辺に俺を捨てて、時間経過だけを待つ事だってできたはずだ。その気になれば、他の天使に俺を渡して、珍しい0ポイントの人間だと晒し者にだってできたはずだ。
そんな俺の居場所をくれたフィロは、死んではいるものの、命の恩人なのだ。
ーーーーーー感謝しないとな。
そう、心の中で自分に言い聞かせる。生きていた頃には味わう事の出来なかった、友人からの優しさを感じながら、そんな厚意を無駄にしてはいけないと、心に刻んだ。
「あの、死神? あいつは何でこんな所にいるんだ。そんで何者なんだよ」
「んーそうですね」と前置きしたエルシオは、顎に手を当て考える素振りを見せた後、丁寧に説明を始める。
「ここは、天界に近い場所ではありますが、天界ではないのです。天界の近くある、星域という所なのです。なので、結界が張られていないのです。だから、死神が侵入する事がたまにあるのです。あ、もちろん天界には結界が張ってあるので基本死神は入れないのです。ちなみに、あなたが今住んでいるローズベルクも、ギリギリ天界じゃないのですが、あそこは、エフィルロが結界を張っているため安全なのです。何者かに関しては……私が話したいことにつながるのです」
「なるほどな。じゃあ、そろそろ聞かせてくれよ」
深刻そうな表情を見せるエルシオ。それを見た俺は、薄々勘付いてはいたが、事の重要さを察し姿勢を正す。そして、双方真剣な眼差しを向かい合わせる。
「この間、あなたはお父さんが人間に殺されたと私に話してくれたのです。それを聞いて、私も……これを話そうと思ったのです」
一呼吸置いて、エルシオは再度話し始めた。
「私も……親友が、人間に殺されたのです」
思いもよらぬ発言に、俺は驚き目を見開く。
「人間に? いや、でもどうやって?」
人間を天使が殺すことは可能なのではないかと、何となく考えることが出来る。なぜなら天使は人間を幸せにできる立場にある。ならば、逆も然りだと考えられるからだ。
しかし、人間が天使を殺す事なんて出来るのだろうか。俺には想像もつかない。
「さっきあなたが見た死神は、地獄に落ちた人間なのです。絶えず苦しみが襲いかかる地獄に居ることで、あの様な姿になり、精神を蝕むのです。そして、地獄に落とされた恨みが、天使を襲うトリガーになり、なんらかの方法で地獄を抜け出した死神が、結界の無い場所に居る天使を襲うのです。さっきのは知能の低い死神ですが、知能の高い死神は人間の姿で、もっと残虐で、おぞましく、そして、強いのです」
死神。その言葉を口から出す度、エルシオの顔は憎悪や、憤怒と言った感情が滲み出ているのを、俺は見逃してはいなかった。人間が死神になるなど、思いもしていなかったからか、言葉にならない様々な思いが胸からこみ上げてくる。
エルシオが人間を嫌っていた理由は、地獄に落ちた人間が死神となり、親友を殺したから。
大切な人を殺される時、どんな思いが生まれるか、罪悪感しか残らなかった俺はもう覚えてはいない。だが、きっと覚えていれば、そいつを殺してやろうと思ってしまうかもしれない。人間が怖いという感情だけでなく、人間を憎む対象にしていたかもしれない。
エルシオが人間の俺を、切り刻むことなくこうして接してくれているのがとてもありがたいことに思えた。
「人間が、死神に……」
「そうなのです。私の親友であるアレシアは、その知能の高い死神に殺されたのです」
俺が何を言えばいいのかわからず、戸惑っていた時、首からかけたカメラを手に取ったエルシオ。
初めて近くで見せてもらったそのカメラに、俺は少し違和感を覚える。俺が違和感の正体を掴むことが出来ないでいる中、エルシオは話を続ける。
「これは、アレシアの宝物なのです」
エルシオは今までとってきた写真を俺に見せてくれた。
綺麗な夜空の写真から始まり、ケーキの写真、病院、学校の写真など、沢山の写真を通り越すと、俺のまだ知らないエルシオの過去が写真としてカメラに残されている。「エルシオがこの辺からですかね」と、次々と映し出される写真が切り替わるスピードを緩めた頃から、エルシオの写真が増えてきた。きっとこの頃は、まだアレシアが所有者だったのだろう。フィロとエルシオ、アレシアが3人で写っている写真もあった。俺の知らない、綺麗な白髪の天使がそこには居た。
そして、エルシオが写真を見ていく中、1枚の写真で手が止まる。それは、綺麗な花畑の写真であった。植物園だろうか、後ろの方に園名がうっすら見える。その前には、1種類の花が沢山植えられていた。主にピンク色で、白色の物もちらほら見える。
「この花は……アレシアが人間界で撮った花なのです。この花を一緒に見に行こうと、約束していたのです」
そう言い切ったエルシオの目には、薄らと煌めくものが見えた。声が詰まっていたこともあり、辛いと言う事は重々伝わってきた。そのまま沈黙が続き、何か話を変えようと、俺が先言葉を投げかけようと試みるが、この状況にふさわしい言葉が出てこない。
そんな俺を差し置いて、悲しみとも怒りともとれない複雑な感情が現れた表情で、エルシオは続ける。
「なぜ、人間に幸せを与えていたアレシアが、人間に殺められなければならなかったのですか? どうしてなのですか? 」
何と言えばいいのか分からなかった。目を泳がせ言葉に詰まる。エルシオからの質問の答えは、俺には分からない。分かることと言えば、アレシアも、エルシオも悪くない。悪いのは人間、死神だ。元々地獄に落ちる様な奴らだ。ろくな人間は居ないはずだ。
「ごめんなさい。そんなの、分からないですよね。分かってるのです。悪いのは、地獄に落ちる様な人間で、ほとんどの人間は嫌う必要なんて無いって。あなたみたいに、悪く無い人間もいるって事は分かっているはずなのです」
エルシオは写真を見つめ俯いている。カメラには水滴が一滴、また一滴とこぼれ落ちる。
「なのに……それなのに……人間に粉をかける度、幸せになった人間を見て嬉しくなる度、あなたと楽しく会話をする度に……!」
顔を上げ、俺の目に向かって真っ直ぐに突きつけられた視線。
エルシオの目からは大粒の涙が、絶えずこぼれ落ちる。
「アレシアの顔が……頭から離れないのです……!」
エルシオは、どれだけの葛藤に、どれだけの想いに、蓋をしてきたのだろう。親友を殺されたから、人間を恨み、嫌っている訳ではない。
エルシオは人間が嫌いなのではない。人間を好きになれないのだ。
嫌いだと言う人間に、幸せの粉をかけられるだろうか。嫌いだと言う人間の不幸を、悲しむことが出来るだろうか。なんの偽りもない、綺麗で、美しく純粋な笑顔を、嫌いだと言う人間に見せることが出来るだろうか。
ーーーーーー出来るわけねえだろ……
好きになれないのは、好きになってはいけないと、自分自身に言い聞かせているからだ。親友を殺した人間を、好きになんてなってはいけないと、心の中で決めてしまったのだ。そして、人間を好きになってしまう自分自身の気持ちに、蓋をしている。
「あなたと話して、あなたの事は、好きになってしまいそうになるのです。今までずっと、人間は嫌いだったはずなのに。私は……どうすればいいのですか?」
この場合の『好き』『嫌い』は、恋愛のような類よりももっと重く、ズッシリとしている。どちらかに傾いたら、もう2度と動かなくなってしまうほど、重要な思いだ。
エルシオが問う質問は、すぐに答えが出るような質問ではない。
それを踏まえた上で、回答をしようと試みる。俺の考えで、俺の考えをまとめる。
今、何をすべきか、何を思うべきか、何を伝えるべきか、そんなことはわからない。100点の回答が出せるなんて思えない。でも、それでも、俺は答えた。
「これから……決めればいいんじゃないか?」
少しの沈黙の後、エルシオは返事をする。
「これから、ですか?」
「いつかきっと、人間のことが嫌いだって心に刻めるときだったり、人間のことが好きだって心に刻める時がくるはずだ。その時まで、気長に待つのがいいんじゃないか? 今は……その……人間が嫌いでも、俺のことだけ好きになってりゃいいじゃねーか!」
後半は赤く染めた頬を隠すため、俺は頭を掻き、地面を見つめながら話した。自分でもよく分からない回答に、恥ずかしさを隠しきれない。それでも、顔色を伺おうと、ちらっとエルシオへ目を向けると、エルシオは、大きく目を見開いて俺を見つめている。
「ぷはっ……はは!」
「な、何笑ってんだよ」
何かに縛られていた体が、すっと解き離れたかのように、エルシオは笑い出した。それと同時に、俺の体からも力が抜ける。
エルシオの目からは、もう涙は溢れていなかった。
「そうですね。今すぐなんて図々しいこと言ってられ無いのです。
私は……あなたの事は嫌いじゃない。でも人間は嫌い。一旦それでいいですよね!」
「あぁ。 なんかそれだと俺が人間じゃないみたいだな」
エルシオのテンションの変わりように思わず苦笑。だが、この判断は正しいのだろう。まだエルシオ自身が気がつけていない彼女の本音を、俺は知っている。
笑顔に戻ったエルシオは、ゲートを開いた。
「それじゃあ、帰るのです」
「そうだな」
「ありがとうございます。話を聞いてもらって」
「おう」と返事をした後、最後にふと空を見上げる。瞼を閉じて、目の裏に残る光を感じる。夏祭りの帰り道のような、少し切ない気持ちに包まれながら、先にゲートに飛び込んだエルシオを追うようにして、俺もゲートに飛び込んだ。
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「あいつはぁ、人間やなぁ」
星域に聳え立つ巨大な木の上で、髭の濃い顎を撫でながら、1人の老人はそう言った。




