どうか私と茨の道でワルツを その3
次回第二部開始します!
「エルサム様とアリシア様がご結婚!?本当なの?」
「声が大きいわよ!」
「例のお茶会の日に、アリシア様とすれ違ったストゥーシーが、この目で見たと言っているから間違いないでしょうね」
小鳥が囀るように、令嬢たちはゴシップについて語り合う。
社交界のカナリア、ストゥーシーがアリシアとすれ違った後、しばらく様子を見ていたが出てこなかったことをいいことに、社交界で噂を広めていた。
アリシアはその火を消そうとしたが、噂は帝国の貴族中に知れ渡り、もう鎮火はできない状況だった。
(何が女の園に疎いですって?充分ご理解されていますわ)
アリシアは心の中でエルサムに悪態をついた。彼女は、しばらく考えると、山になっていたエルサムからの手紙に返事を書いた。
「お招きいただき光栄です。愛しのアリシア」
美しい季節の花々を贅沢にまとめたブーケを持って、エルサムはアリシアの邸宅へやってきた。
「君の美しさの前では霞むだろうが、花束を受け取ってはくれないだろうか?」
エルサムがそう言って、アリシアに花束を渡す。帝国の庭師が選りすぐったであろう、同時に咲かせるのが難しい季節の花々が贅沢にまとめられていた。
「まぁ、ありがとうございます。カナリアのおかげでまともに外に出れなかったので、嬉しいです」
アリシアはニコリと笑みを返す。それに同じ笑みをエルサムは返した。
「そうか、君に喜んでもらえたようで嬉しいよ」
2人の間に花束の香りのような甘さはなく、氷柱のような鋭さだけが残っていた。
…
「なぜ、父を説得して私を婚約者にしないのですか?」
アリシアに案内された中庭で、紅茶と菓子を堪能していたエルサムに彼女は思っていた疑問を投げかけた。
彼は静かに紅茶のカップをソーサーの上に置いた。
「・・・父は、この国最後の暴君となることを決めた。私を良き帝王だと国民に思ってもらうため、全ての戦争を父の代で終わらせるつもりだ」
「え・・・?」
エルサムから突如告げられた国家機密レベルの発言に、アリシアは一瞬思考が止まった。
「その後に来るのは、利権と私欲に塗れた世界だ。顔だけが取り柄で頭の軽い人形などいらない。この国のために考え行動できる人がいい。・・・それが君だ」
エルサムはまっすぐ、晴天の空のような瞳でアリシアを見つめた。幼さが残るあどけない顔が、大人びた表情になっていった。
「確かに、君の父と交渉して婚約者にすることはできる、だがそれだけではなく、君が納得して欲しいと思ったんだ。私のパートナーになること、そして国母となることを」
エルサムはアリシアに手を伸ばす。ピアノの弦のように細くしなやかだが、男性らしい強い指先を彼女に差し出す。
「帝国をより強固にするために、今の支配統治ではなく、ヨルヴァスのような友好国を増やしていき、また国内貴族の結束を固めたい、法を整備し法が人々を統一する世にしたいのだ」
彼は人に対する道徳心がないが、愛国心は人一倍あるのだ。それを目が声が語っている。
アリシアは彼の手を取った。
「プロポーズというより、演説ですわね」
この国は豊かだ、だがそれは略奪により成り立っていることを社会に目を向ければ、理解できる。
人が人の上に立ち、欲に溺れれば同じことを繰り返す。それを止めるために、法を整備することが必要だとアリシアは理解した。
「わかりました。私もこの帝国を愛しています。国のため、あなたと共に行きましょう」
アリシアは、若き帝王の最初の演説に心を打たれた一国民として、彼と共に道を歩む決意を手に込めて、彼の手を握った。
…
一週間後、エルサムとアリシアの婚約を国中に発表した。
2人が本当の愛で絆を強固にするのは、また別の話。
END




