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番外編2 神は人の業を裁くが人の罪を裁くのは王である その5

ー法改正案提出指示から2週間後ー


相変わらず、一部が慌ただしい法務相の応接室にエルサム様と僕はいた。


目の前には、噴火直前という表現が適切なガーディナー枢機卿がいた。


「エルサム様!どう言うことか?政教分離を前提とした法改正などとは!」


(やっぱりもう話が通っているんだな・・・)


僕はこの裏で何重にも引かれている監視網に、精神がすり減っていた。そんな中、優雅にお茶を飲むエルサム様は、いったいどれほどの修羅場を経験されたのだろう。


「法改正?何を言うか、現在の国民の生活に合っていない法を適用させても意味がなかろう。私はその調整をしているだけだよ」


(似た意味だと思いますけど?)


僕が飽き飽きしていると、ガーディナー枢機卿も同じことを思ったのか、机を右拳で叩いた。


ドンッ


「同じ意味ではないか!!!!」


(これでは、埒が開かない)


そう思っていた矢先、ドアが開いた。


「あなた・・・そんなに感情を振り回しては、対話は難しくてはなくて?」


「お前・・・!」


ガーディナー枢機卿が驚いた顔をしているのを尻目に、エルサム様は長い脚でスッと立ち上がった。


「お待ちしておりました。ガーディナー婦人」


婦人と呼ばれた、女性の前にエルサム様は向かうと、歓迎の意を示した。


「な・・・?え、?」


ガーディナー枢機卿は驚いて、まともに言葉が発せない様子だった。エルサム様が彼に向かう。


「公平な意見が欲しくてね。宗教を重んじる一般市民代表として、招待したんだ」


そうガーディナー枢機卿に言う、エルサム様の目はブリザードのようだった。



あれから1時間が経過した。


婦人がそばにいるおかげで、冷静さは保たれているものの、ガーディナー枢機卿の意見は一切の妥協を許さなかった。エルサム様もそれには応戦せず、のらりくらりと交わしていた。


まるで、時間稼ぎをしているかのようだ。


そう思い、エルサム様を見つめていると、彼が僕の法をチラリと見た。


『行け』


これは、念話と言う魔法を使った通信方法だ。使うには、魔法石と呼ばれる魔力媒体を専用の機械に入れてやっと、指定の相手と会話できる。


(魔道具の補助なしで、特定の相手に念話できるエルサム様っていったい・・・)


僕は考えることを放棄して、事前に伝えられていた場所へ空間移動した。


ー大教会 応接室ー


トッ


僕は、教皇様の応接室へ空間転移してきた。以前来たことがあったので、ここまでくることができた。


目の前には、教皇様がニコニコと立っていた。


「待っておったぞい」


「お待たせしました。念のため、両手を掴んでもよろしいでしょうか?」


僕のその問いに応えるように、教皇様は両手を差し出した。僕は恐る恐る掴む。ひんやりとしていて、骨ばっているが滑らかな老人の手だった。


「長生きはするものじゃな〜神の技と誰もが夢見た、空間転移ができるなんて〜」


「ぜっっったいに手を離さないでくださいね!!!!」


教皇様の身に何かあったら、確実に僕は死ぬ。そう危機感が僕の背中を冷たく張っていたが、それより恐ろしいご主人様のため、空間転移を再開する。


戻ったら、修羅場が待っていたなんて思いもよらずに。


ー法務相 応接室ー


大教会から法務相応接室に、教皇様を連れて戻ってきたら、目を疑う光景が広がっていた。


ガーディナー枢機卿が婦人ともう1人の女性から袋叩きにあっていたのだ。僕は、エルサム様の無事が心配になり、お姿を探すと壁にもたれかかり、腕を組みながら眺めていたようだ。


(余裕そうだ・・・ご無事でよかった)


教皇様は、ガーディナー枢機卿に殴りかかっている女性に声をかけていた。


「落ち着くのじゃ、暴力は良くない」


その穏やかな声に落ち着いたのか、婦人と女性が手を止める。ガーディナー枢機卿は顔を腫らし、涙目になっていた。


「私は教皇だ。君たちの行いを神に代わり、伺おう」


後ろから後光が差していると錯覚する貫禄に、ガーディナー婦人が口を開く。


「夫が!ヨルヴァスに家庭を持っていたんです!!」


それに呼応するように、女性も答えた。


「ガーディナー!結婚してくれる手紙くれたから、法務相にこい言うから会いにきた!!結婚してる知らない!!」


(手紙・・・?結婚・・・?法務相へこい?・・・まさか!!!)


僕は勢いよく、エルサム様を見ると、彼は顎を引き愉悦と言った表情をしていた。


(帝王様の部下使って、ここにくる口実(手紙)を送って、この部屋に案内したなぁああ!!)


教皇様は2人の女性の言い分を確認すると、ヨルヴァスの女性の顔を見た。


「親愛なる隣人、ヨルヴァスの民よ。ひとつ尋ねたい。ガーディナー枢機卿とはどのくらいの期間一緒だった?」


「6年!5歳になる子供いる!」


その発言に、ガーディナー婦人は顔を真っ青にしていた。教皇は少し考えているのか、沈黙した。そして・・・。


「カスじゃな」


静寂の中、そう一言呟いた。教皇はガーディナー枢機卿に向き直る。


「厳格な宗教を重んじる、我が大教会の枢機卿からこのような者が出てくるとは、天におわす我らが神もきっと悲しまれていることだろう・・・」


「待ってください・・・!!教皇様!!!!」


教皇の発言を遮り、ガーディナー枢機卿が声を荒げる。全員の注目が彼に集まった。


「こ・・・この女は嘘をついているのです・・・!エルサム様が仕向けた者に違いない・・・!!どうか公平なご決断を・・・!」


教皇の足元に擦り寄るガーディナー枢機卿、その哀れ以外なんとも言えないその姿に、婦人とヨルヴァスの現地妻はぼーぜんとしていた。


「ガーディナー・・・教皇になった者が、神から賜る“ギフト”を忘れたわけではあるまいな?」


「それは・・・!!!」


ガーディナー枢機卿がさらに狼狽始める。


(“ギフト”ってなんだろう?)


僕が不思議に思っていると、教皇様がガーディナー枢機卿を睨みつける。まるで、吐瀉物を見るように。


「真実の瞳。わしの目が開いている間はいかなる嘘も筒抜けじゃ・・・お前の嘘を見破れんわけなかろうて」


そういうと、ガーディナー枢機卿は真っ青になり、気を失いかけた。それを支えたのはガーディナー婦人だった。


「しっかりしなさい。自分がしたことの罰を聞いてから気を失いなさい」


愛している人に裏切られてなお、その背を支え劇を飛ばす婦人の目は涙ぐんでいた。


「ガーディナー枢機卿、婦人と離縁し資産の半分を婦人に、もう半分をヨルヴァスの彼女に渡すこととする。貴様は国外追放、友好国同盟国へ通達するゆえ、そこへ身を置くことも許さぬ」


「・・・はい」


ガーディナー枢機卿はそういうと、地面に倒れて気絶した。


アサノニア帝国歴1021年春の月48日。天気晴れ。


エルサム様の指示で、死に物狂いで政教分離を前提とした法改正を行なった文官たちのおかげで、スムーズに法が適用された。


(・・・その法改正の修正と承認を1週間で完璧に終えた、エルサム様は本当にすごい・・・)


そのおかげで、地方にも病院を建設することができ、幼い子や労働者の健康寿命が伸びつつあるそうだ。


そんな晴れやかな知らせが入る一方で、エルサム様は、憂いを帯びた表情をしていた。


「どうしたんです?エルサム様?」


僕は心配から声をかけたが、それを後悔することになる。


「はぁ・・・つまらん。暇つぶしにもならなかった。教皇と知恵比べをしたかったのだが、父上に先を越されていたとは・・・」


ガーディナー枢機卿よりかは、歯応えあったろうにと悔しそうな顔をされていた。


(聞かなきゃよかった・・・)


僕が頬を引き攣られていると、エルサム様は天を眺める。まるで天にいる神々を口説こうとしているような、美しい表情を浮かべていた。


「あーあ、この世界の全てを知っていて、身の程知らずなヤツが現れてはくれないだろうか・・・?」


(いるわけないでしょ、そんな命知らず)


そう思っていた僕は数年後後悔することになる。今はそのことを忘れて、エルサム様は新たな暇つぶしがないか、一緒に探すのだった。


END


エルサム様がルシィに会う前の話です!次の番外編書いたら、2部公開できるかな?って思います!

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