番外編2 神は人の業を裁くが人の罪を裁くのは王である その4
ー大教会ー
神話の時代からあると言われている、由緒正しき場所。数々の信託がこの神殿の教皇の元に届き、帝国への道標とする場所である。
僕とエルサム様は、大教会の目の前に降り立った。
「なるほど、君が言ったことある場所であれば、“座標”としてとっておけるのか・・・」
エルサム様は、人殺しを企むような悪い笑みを浮かべた。
(これ・・・今まで以上に僕連れ回されるんじゃ・・・)
彼の企みを推測し、怯えている僕とニヤニヤと笑っているエルサム様の元に十数人の神官がやってきた。
「エルサム様、教皇様がお待ちです。こちらへ・・・」
「あぁ・・・」
エルサム様は、戸惑うことなくついていくが、僕は戸惑いまくりだ。動けなくなっている僕に、彼は振り向きながらいう。
「エディ・・・ついてこい。この理由は後で説明する」
エルサム様のまっすぐな瞳を見て、落ち着いた僕はゆっくりと歩を進めた。
大教会の中に入り、覚えられないほど複雑な道順で進んでいくと、壮大な金色の扉があった。それが内側から開く。そこには、教皇様がいた。
(うわうわうわ!本物だ!こんな直近で拝見できるなんて・・・!)
教皇様は、帝王様と同様にあまり表に出ないので、その姿は新年を祝う大祭などの大きなイベントの時にしかお姿を見ることは叶わない。
「くることはわかっていたよ・・・エル坊。おいで」
エルサム様は、一礼し、教皇様の部屋に入る。僕も後に続く。教皇様は、加齢のせいで重たい体を起こし、客人と対話するための席につく。
「エル坊の執事さんだね。なんで、わかっていたか気になるという顔をしておるね」
フォフォフォ・・・っと笑いながら、穏やかに笑っている教皇。僕は緊張で口が震えてしまって、ぱくぱくと動かすので精一杯だった。
「エディ、教皇の特技は“予知”だ。直前であればあるほど、未来を先に見ることができる」
「あ!だから、教皇様は僕らの到着がわかってらしたんだ!」
エルサム様の説明が腑に落ち、僕は少し落ち着きを取り戻した。教皇様は、相変わらず慈愛の笑みを向けている。
「して、エル坊よ。私に何かようかな?」
「単刀直入に伝えます。政教分離を行いたい」
そう言った途端。教皇様は、穏やかな顔から、一級の罪人に向ける厳しい視線をエルサム様へ向けた。そのまま永遠とも言える睨み合いが続いた。
僕はというと、心臓が止まるのではないか?という程の心拍数と、脂汗を額と手にたくさんかいていた。
沈黙を切り裂くように、教皇様が口を開く。
「ええよ。元々エル坊のパパとこの話しとったし、君たち宗教もちゃんと重んじてくれるし、ワシ政治わからんし」
ズコーーーーッ
僕はコケた。それはもう、盛大に。今までの緊迫感が嘘のように緩んだので、その緩急で脱力してしまった。
(え・・・?えぇ???)
エルサム様と教皇様は、僕のリアクションに心配するそぶりはなかった。エルサム様が足を組んだ。
「ありがとうございます。父が2-3年のうちに対応しようと思っていたと聞いていたので、教皇様にお話は通していると思っておりました」
「そうね〜2年ぐらい前じゃったかね?政教分離の話がまとまったの」
教皇様は、エルサム様の予想に対する答え合わせをしてくれた。
「エル坊のパパがな、2年ぐらいしたら息子が引き継ぐと思うからよろしくな〜⭐︎といっとたわ」
お主のパパは、わしより予知できるんじゃないか?と付け加えながら、教皇様は笑っていた。
(教皇様が許可をしていただいたってことは、政教分離ができたってこと・・・?)
僕は話を飲み込むので、精一杯だった。そんな僕をよそに、エルサム様は、どこからともなく出した契約書を教皇様にだし、彼はそれになんの迷いもなくサインをしていた。
…
ー法務相ー
教皇様との会合から次の日。
エルサム様は、帝王派の文官たちのみを会議室に集めた。人数が多いため、文官長ですら席につけず全員起立して呼び出した張本人を待っていた。
バンッ
エルサム様がドアを開けて入室された。僕も後を続く。
「君たちに集まってもらったのは、他でもない。政教分離を前提にして、法や制度の修正案を出してほしい。期限は3週間だ。以上」
そういうと、エルサム様は先ほど開けたドアへ向かい、出て行った。僕は彼の代わりにそっとドアを閉じた。
パタン...
その瞬間。中にいた文官たちの阿鼻叫喚の声と、いの一番に作業すべく、廊下を走り出す文官長の姿を後ろ目に見た。
(うちのご主人様がすみません・・・)
僕は主人の代わりに、心の中で彼らに謝罪した。僕たちのその様子を物陰から監視されているとも知らずに・・・。




