番外編2 神は人の業を裁くが人の罪を裁くのは王である その3
僕はエルサム様の命令で、ガーディナー枢機卿の魔力を辿り空間転移をした。
ついた場所は、運良く林の中で、物陰に隠れながら様子を伺う。
「ここは、、、どこなんだ?」
思わず、小さな声で独り言を呟く。
「ここは、ヨルヴァス領内だな。我が帝国と国境沿い近く、、、と言ったようだな」
(ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!)
僕は、後ろを振り向き、声にならない悲鳴をあげた。声を出さなかっただけ、勲章モノだと後になっても思う。
「やっぱり、付いてきたんですね!肩に手が乗った感触したなって思ったんですよ、、、!」
エルサム様の御身に何かあったら、僕と一族全員のクビが飛びかねない状況に、心臓が口から出てしまいそうな緊張を覚えた。
当のエルサム様は涼しそうな顔で、顎に手を当て考える姿勢をとっている。
「なるほど、空間転移の特技保持者と接触していれば、一緒に移動できるのか、、、」
僕は、エルサム様の冷静な分析に、冷や汗が滝のように流れた。そして、彼は僕の方をじっと見つめた。
「ふむ、、、。これができると言う知識を得たからか、エディができることが、わかってきたな。君は、任意の対象と自分の位置も意識すれば交換できる」
「え?そんなことできるんですか、、、?でも、なんで、、、?」
そんなことがわかるのか?と言う質問を飲み込むように、エルサム様は僕を横切り、後ろに立ちそして振り返った。
「俺の特技さ、“鑑定”できる。己の知識量に反して鑑定量は変わるがな。あまり人には言わないでくれ」
そう言うと、人差し指を口元に当てるエルサム様は、美しい姿だったんだろう、、、、中年の姿じゃなければ。
気を取り直し、ガーディナー枢機卿の方を見た。幸い、馬車の人間と話していたようで、まだ建物の中には入っていなかった。
しばらくすると、馬車が去った。建物のドアから出てきた人物を見て驚愕した。
子供である。
その子供は、遠目で見ているので断定できないが、推定5歳の男の子だった。その子はここにも届くぐらい大きな声を出していた。
「お父さんおかえりーーーー!!!!」
(お、、、お父さん!?)
僕が驚いていると、エルサム様が隣でニヤッとしている。
「ほう?枢機卿は確か56歳だったか、、、。帝国に妻子もいるし、息子は30歳近かったと記憶している」
「それって、、、つまり、、、」
エルサム様は、とっても楽しそうに呟いた。
「浮気だな。聖典第7節にある話から、神の教えでは、”浮気をしてはいけない”とある。伴侶を複数持つ必要がある王族をのぞき、家庭を2つ持つことを禁じられている」
(おもいっきり浮気してんじゃねーーーかぁああああ!!!!)
僕は本日2度目の勲章モノの叫びを我慢した。
…
ーガーディナー枢機卿の浮気現場を目撃から1週間後ー
ガーディナー枢機卿は、面会という程でエルサム様に会いにきた。
彼は、エルサム様の前で脚を組み、ニヤニヤと笑っていた。
「エルサム様・・・私がきた目的は、もう、存じておりますかな?」
ガーディナー枢機卿の含みのある言い方に、エルサム様は余裕の面持ちを保っている。
「なんのことかな?」
先に痺れを切らせたのは、ガーディナー枢機卿だった。両足を床につけ、右手を机に叩きつけた。
ダンッ
冷静を保とうとしていた僕も、予期せぬ破裂音に驚き、肩を浮かせてしまった。エルサム様に至っては、そんな音は、最初からしなかったように涼しい顔のままだ。
「〜ッ!!!いつまでその態度を保っているのだ!王子といえど、宗教の否定は重罪であるぞ!」
「宗教の否定はしていない。そして、重罪には当てはまらない。現憲法二条をここで聞かせようか?」
そういうと、エルサム様は一枚の写真を机の上に置く。
(1週間前に撮影した。浮気現場の写真だ!)
僕は写真の内容に気づくと同時に、ガーディナー枢機卿も顔色が変わった。しかし、写真をまじまじと見ると、鼻で笑った。
「なんですかな?この写真は?」
「何って、あなたの写真ですよ?ガーディナー枢機卿」
エルサム様は、ガーディナー枢機卿へ写真の内容を伝える。それでも、彼には効果がないようだ。
「恐れ入りますが、エルサム様。これは私ではない。私と断定するには画像が粗すぎはしませんかね?」
(確かに・・・!)
悔しいが、ガーディナー枢機卿の主張はあっている。写真はぼやぼやしており、馬車とかろうじて人が見えるといった代物だ。
僕が、エルサム様の後ろで、悔しさのあまり下唇を噛んだ。だが、彼は何も気にしていないようだ。
「そうか・・・私の勘違いだったかな?」
「えぇ・・・全くです。名誉毀損で訴えても良いですが、先ほど感情的になってしまい、不敬を働いてしまいました。ここはおあいことしてどうか一つ恩赦を・・・」
ガーディナー枢機卿は頭を下げることなく、エルサム様に告げた。エルサム様はしばらく彼を見つめると、何かを納得するように小さいため息をついた。
「・・・そうだな、そうしよう」
「では、私はこれにて・・・」
そういうと、そそくさとガーディナー枢機卿は席を立って、部屋を後にする。
パタン…
ドアが閉まる音と同時に、僕はエルサム様へ意見した。
「エルサム様!あれでよかったのですか?」
「いいんだ」
エルサム様は、閉じたドアをしばらく見つめると、立ち上がる。
「エディ、空間移動を頼めるか?」
「え?」
彼は、イタズラを思いついた子供のように笑う。
「教皇のいる大教会へ飛んでくれ」
僕は、いやだ、という一言を飲み込み、主人のために特技を発動した。




