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番外編1 悪の帝王に使える執事の矜持

アサノニア帝国歴1027年新の月1日目。天気快晴。


暦では新年を迎え、冬と春の匂いが混ざった爽やかな風が吹いていた。


本日は、エルサム様皇族一行は、国民への参賀を行い無事成功を納めていた。


もちろん、僕はすることがないので立ってただけですけど。


日記を書き進めていると、ふと思い出す。去年の出来事だ。ルシィ(カトウチエミ)が騒動を起こし、完封なきまでに叩き潰したエルサム様。その手腕を思い出すと、背筋が凍る。


まるで、初めて会った日の時のようだ。


僕は、懐かしくなって本棚を探した。執事としてこの王宮に住むようになってから、書き続けていたのだ。


「あった。」


僕は、本棚の1番うえの1番左にあった日記に手をかける。そっと取り出すと、中身をパラパラとめくった。


「あー、そんなこともあったな。」


僕は、目を細めて、その日の出来事を読むのだった。



アサノニア帝国歴1020年春の月32日目。天気晴れ。


ーエディの故郷、バッセル領ー


僕は、バッセル男爵家の三男として生まれた。歳の離れた長男はすでに、婚約者がいて、領地経営のための勉強をしていたし、次男は国軍に入ったため稽古家を空けている。


三男の僕は、大きくなったら、どこかの名家の令嬢家に婿に入るのだろう。家のためだから、特に嫌だとかは思わなかったが、お嫁さんは可愛い人だといいなと、淡い期待だけは持っていた。


僕は、趣味の散策のために、屋敷から出て市街へ向かう。


「やぁ、エディ坊ちゃん!散歩かい?」


「やめてよ。ガルムじぃさん。子供じゃないんだから。」


街の人に声をかけてもらえるのは、嬉しい。そう思っていると、目の前に騎士の鎧を着た人が数人立ち塞がった。


鎧についている紋章は、王族を意味していた。


「、、、私になんのようですか?」


僕は、少し警戒心を持ちながら聞いた。いざとなれば、僕には必殺の特技がある。


「申し訳ございません。詳細はお伝えできませんが、あの馬車へお乗りください。」


馬車と言われ、騎士が促す方を見ると、こんな片田舎の僻地では、絶対に見ることのない大きな馬車。


漆黒なのに、朝の光に反射して光沢している。窓の内側に赤いカーテンがあるのか、中は見えない。


(い、、、嫌だ、、、。でも、断ったら何されるかわかんないし、、、まぁ、やばかったら僕の“特技”

で、どうにかなるからいっか。)


そこまで、考えを整理して僕は深呼吸する。


「はい。わかりました。」


僕は、騎士に促され馬車に向かう。これが僕の人生で最大の失敗であると、夢にも思わなかった。


重厚な馬車のドアが開き、僕は中に入る。馬車という手狭さはなく、中に入ると向かい合わせに座っても、不快にならない程度の広さが確保されていた。


僕は、恐る恐る備え付けのソファに座る。


(え、柔らか、、、)


何時間でも座っていられそうな、座り心地に感動していると、「おい」と声をかけられた。僕はその声の方を向くと息を呑んだ。


まるで、太陽の光を写したのか?と思うような黄金の光り輝く潤いのある髪。晴天の青空のような澄んだ瞳。


陶器の人形か?と思うようなスベスベの肌。このスペースでも狭そうな長い脚。


この世の美の到達点のような容姿をした男が、目の前に座っていた。


僕は、思わず全身に緊張が走り、ピンと姿勢を正す。


「はい!!なんでしょう!?」


「お前が“エディ=バッセル”であっているか?」


その美しい人は、重低音のヴァイオリンのような美しい声で尋ねてきた。声までも美しいの?


「は、、、はい!!そうふぇす!」


僕はあまりの美しさに圧倒され、噛んでしまった。僕の回答に満足したのか、美しい人はにこりと笑う。


「そうか、私はエルサム、という。よろしくな。」


そういうと、ピアノの白い鍵盤ぐらい長い指を僕に差し出し、握手を求めてきた。


あー、なんて素敵な笑顔。僕は、その笑顔に油断し、握手をしてしまった。


今思えば、あの笑顔は自分の美しさを理解しているエルサム様の戦略的な笑顔だったのに、。と後悔したが、どう考えてもあれは、初見で見破るのは無理な話である。


「え、、、エルサム?それって?」


僕は、握手をしながら言われた名前を反復する。この帝国内でエルサムという名前はただ1人を意味する。


「あぁ、私の名前はエルサム=アサノニアだ」


(お、、、王子じゃねぇええかアアアアアアアアアア!!!!)


僕はこの心を叫ばなかったことだけは、後世まで褒めてもらいたいと思った。


僕はやな予感がして、エルサム様の手を離そうとしたが、逆に強い力でしっかりと掴まれる。う、、、動かせない、、、!


しかもさ、驚きで気づかなかったけど、この馬車移動してない?エルサム様は握手をしたまま話し出す。


「君の特技のことを人伝に聞いてね。とても興味が湧いたんだ。」


馬車のガタゴト音と僕の心音がリンクし始めた。


「瞬間移動というのは、魔法研究では課題が多くてね。一応、死刑囚で実験できるレベルまで進んだんだが、到着地点で腐ったトマトみたいに潰れてしまってね。人体に適応するのは、難しいと結論づけられてしまったんだ。」


エルサム様は、とっても残念という顔をしていた。側から見たら、手を貸してあげたくなるそんな計算された表情。でも僕の中ではもう警鐘音が鳴っていてそれどころではない。


(まずいまずいまずい!!!僕は平穏に生きていたいんだ!!)


エルサム様の目が僕を捉えて離さない。


「魔法研究も予算がかかっているから、しょうがないと諦めかけていたら、君のことを聞いてね。“運命”だと思ったよ。」


エルサム様は、僕の手を両手で包み込んだ。


「君の“特技”を私のために使ってくれないか?」


「すいません!!!いやです!!!!」


僕は、それだけ言い残すと特技を発動する。思い描くのは、僕が安心できる場所、寝室だ。思い描いた瞬間、その場から、フッと浮いた感覚のあと、ボフンとベットに尻から着地した。


「はー、!!はーーー、!!!どうしよう!??」


逃げてきてしまった!!これって不敬罪なのか?でも王族の願いは命令を意味する。それを断ってしまったということは、、、。僕はサーっと血の気が引いてしまった。


平々凡々と家のために生きると決めていた僕にはショックが大きすぎる出来事だ。


「と、、、とにかく荷造り、、、!」


僕は家に迷惑をかけないように、荷造りを手短に行い、経緯と離縁する旨の手紙を書こうと、椅子に手をかけた時。


「戻れ」


その声が脳に響いた。その瞬間、能力が勝手に発動して、身体がフッと軽くなった。


ガゴッ!!


「いだ!!!」


衝撃音と痛みの後に、さっきぶりの柔らかいソファの感触に、絶望を感じた。


(こ、、、殺される、、、?)


僕は恐る恐る後ろを振り返ると、にっこりと笑い脚を組むエルサム様。


「素晴らしい。君の力は本物だ。念のため、主従の契約魔法をかけておいて正解だった。」


主従の契約魔法、、、王族にしか使用が許されていない禁忌の魔法。発動には長い時間を要するっていう話しか知らないけど、長い時間ってあの会話のやり取りで十分なの!?もっと長くとってよ!!


と、当時は思ったが、本当は2時間ぐらいかかるらしい。エルサム様が魔法の天才だったから、あの数分で気づかれずに無言詠唱をしてのけただけで、本当はもっと大掛かりなものらしい。


「それに荷物もまとめてきてくれるとは、素晴らしい。」


エルサム様の指摘に、僕はハッとなって肩を見る。家に迷惑をかけないように、必要なものだけ簡単にまとめたリュックの重みに今気づいた。


「あ、、、あの、、!違くて、、、!」


「喜べ、君は私の最初の執事だ。私の世話を出来ることをこの世の栄誉として、受けたまえ。これは命令だ。」


エルサム様は、拒否は許さないと言った声音で話す。もう、圧がすごいしこれ以上の反論はできそうにない。


(エ〜!!イヤダ〜!!)


でも、ここで駄々を捏ねたら、今度は家に迷惑がかかるかもしれない。それに、王族の執事になるって、男爵家から考えたら異例の抜擢で栄誉であることは事実だ。


僕は、心の中で平穏な毎日に別れを告げて、エルサム様の青い宝石のような目を見る。


「、、、わかりました。これから、よろしくお願いします。エルサム様」


「物分かりのいい奴は嫌いではない。よろしくな。」


一瞬の油断が命取りになる。ということをエルサム様は僕の人生を通して教えてくれた。



「ハハ、、、そうだった。こんな出会いだったな。」


その後、王宮についてアリシア様にお会いして、天使のような優しさに、将来、間接的にこの方にお仕えできるなら頑張ろうと思ったんだよな。


出会いは最悪だったが、エルサム様と関わっていくうちに、あの人は見えないところで努力していることを誰よりも近くで見ている自負がある。


帝国の道路建設だって、どの文官よりもその土地の特性を理解し、住民に危害がないかを僕の特技を使って秘密裏に視察し、確認しに行くし。


財政だって、国民の血税であることをわかっているから、本当に必要なのか吟味し、念密な予算表案を提案される。


そして、研究や公共事業へ投資し国民の生活に還元できるように、運営し、さらに空いた時間ではいつも勉学や、有識者を集めた意見交換会を欠かさず行っている。


「あの道徳心のない性格じゃなければ、もっと好かれたんだろうけどね〜」


僕は、未来の帝王の今の影ながらの努力を直で支えられることを光栄に思っている。


「そろそろ寝るか。」


僕は日記を片付けて、今日の分の日記を書いてから就寝する。明日もきっとエルサム様が有能すぎて、することはないかもだけど、精一杯お支えすると誓いながら。


END


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