エルサム様VSヒロイン
-裁判所 中央室-
-エディ視点-
アサノニア帝国歴1026年冬の月24日目。天気曇り。
(とうとうきてしまった。)
ルシィが証言台に立った時に、僕の心拍数が上がったのを覚えている。
僕の目の前に優雅に座るのはエルサム様。その晴天の美しさを閉じ込めた瞳で何を思っているのか、今はわからない。
裁判長が、淡々と罪状を述べている。えっと、長いな、、、。罪状読み上げるが長すぎて、裁判長が水を飲みながら話している。
簡単に今までのをまとめると、王家と関係者への不敬罪。王太子婚約者への暴行罪。店舗侵入。みだりに魅了を使った罪、食材の窃盗などなど。
僕らが把握してない中でも色々やっていたようだ。
裁判長が罪状が長すぎて、息切れしかけている時に、エルサム様がスッと左手を挙げた。裁判長はこれ幸いと、エルサム様へ発言権を渡す。
「ここでは、ルシィ、、、いや、カトウチエミと読んだ方がいいか?この名前はどこで区切るのだ?」
ルシィは、驚いた顔をしていたが、一白置いて口を開く。
「ルシィ、、でお願い、、、します。カトウ チエミ は死んだので」
一連の流れに傍聴席がざわつく。まぁ、そうだよね。裁判長が小さなハンマーを打ちつけて、静粛にするように求めている。
エルサム様は構わず話す。
「そうか、ルシィ。弁明はあるか?」
「ある、、、いや、あるわ!!!まず、王族への不敬だけど、呼び捨てにしたのは謝るわ。でも、アリシア、、様のことは殴ってないじゃない!」
彼女の証言はこの広い、ホールによく響いた。エルサム様が長い脚を組み始めた。
「そうか、ではお前は、我が愛しの婚約者であるアリシアに、暴行をしていないと言うことか?」
「そうよ!!!!」
「そうか、、ちなみにな。特技というものは多岐にわたる。しょうもないものから、使えるものまで。ここにある黄色の宝石は、春の月のとある記録だ。」
エルサム様が、そういうと黄色の宝石をギュッと握った。するとホールにあの時の映像が流れる。
もちろん、これはレイモンド様の特技、記録の産物だ。宝石を手のひらでギュッと包み魔力を流すと、その魔力量に応じた大きさの映像になると言う。
、、、多分エルサム様は軽ーく魔力を流したつもりなんだろうな。ホールの上を覆うような巨大なものになるなんて、思ってなかったんだろうな。
長年一緒にいるからわかる、微妙な眉の上がり方を見て、内心驚いてるんだと感じた。
そこには、春の月のアリシア様暴行未遂事件や、夏の月の学園での横柄な振る舞い。秋の月の衛生講習の教師に上目遣いで、小首を傾げて合格証明書をもらう姿。
などなど様々な貴族令嬢に、相応しくない振る舞いが次々と映し出されていた。
その映像が流れるたびに、傍観席はざわつき。ルシィは、開いた口が塞がらないと言った顔をしていた。エルサム様は脚を組み直す。
「これでもまだ弁明するか?」
ルシィは、顔を真っ赤にしてエルサム様を睨み出す。
「あんた!!私の作ったクレープ食べたじゃない!!!?なんで、エルサムルート確定演出だったのに!好きにならないのよ!!」
ルシィの発言に僕は不審に思った。“あの”エルサム様が、ルシィのクレープを食べるわけがない。
それに、後夜祭の日は僕はエルサム様とずっと一緒にいたが、ルシィの元に行ったことなんてない。
僕が不思議に思っていると、エルサム様が鼻で笑う音がした。
「あれは、私の“影武者”だ。」
あーあ、ルシィが真っ白になって項垂れてしまった。
...
-同刻-
-裁判所 中央室-
-ルシィ視点-
(まさか、動画撮られてたなんてたうえに、“クレープ”食べてないなんてーーーー!!!)
これでも38年+十数年(ルシィの年齢)生きているのだ。
日本にいた頃の法律ドラマとか、見た知識で丸め込めると思ったのに、、、!あんなにがっつり映ってるなんて、、、!
それに、クレープを食べてないんじゃ、エルサムルートは確定していない。
私は高校受験以降、使ってなかった頭をフル回転した。どんな『なろう系』でも、自分の価値を見出せば命は助かる。そう相場が決まっているのよ。
私は、この世界のシナリオで、使えそうな知識を一つ思いついた。
「魔王、、、。」
そう呟くと、エルサムがピクリと反応した。キタ!!この世界は、魔王の脅威にさらされているのよ!そこに活路はある!
「そう、魔王よ!ヨルヴァスというところに、魔王がいるわ!私は予言ができる!今日!魔王がここに降臨するわ!!」
私は声高々に言った。周りは、真偽がわからないのでざわついているが、気にしない。
エルサムは私が転生者だって知っている。だからこれが嘘じゃないってわかるはず、、、!私が期待を込めて、エルサムを見つめると、彼は椅子の肘掛けに頬杖をついていた。
「ほう?その“魔王”と言うのは、こいつのことか?」
「こんにちは〜♫」
エルサムの言葉で、彼の隣にあったカーテンの奥から、ひょこっと出てきた“彼”は、夜を被ったような長い黒髪に、満月のような金の目。頭に生えた2本の龍を彷彿とさせる立派な角、、、。間違えない。
「ま、、、魔王、、、?」
私は、なんでここに魔王が出てくるのか、理解できずにいた。エルサムが、ざわつく民衆を左手を上げるだけで沈める。
「教えてやろう。ルシィよ。魔王や魔獣が襲ってくると言うのは、500年も前に解決している話だ。500年前だったら、巫女として待遇は良かったかもしれないな。」
(は????500年前?)
「お前が魔王と言っているこの男は、“友好国”
ヨルヴァスの第二王子、ガイナスである。」
「どうも〜♫」
私にとって衝撃だった。
目の前の魔王の名前は、ガイナスであってるし、顔も衣装も全部一緒の男が、エルサムと親しげに話している。
私の記憶と違うのは、ゲームのガイナスは血も涙もない冷血漢で、笑顔なんて見せないこと。そして、アサノニア帝国とは敵対していること。
ガイナスは、こちらをちょくちょく見ると、満面の笑顔で、こっちに手を降ってくる。それを見るとイラつきがどんどん増えていく。
(ガイナスは冷血漢で、誰彼構わず手を振らねーんだよ!!なんなのこれは!??)
私が理解が追いつかず、目の前の光景を眺めているしかできないでいると、エルサムがため息をついた。
「つまり、お前が遊戯の世界だと思っていたものは、最初から違ったのだ。お前の言葉で言うと、“転生”ではなく、“パラレルワールド”に迷い込んだだけと言うことだ。」
「嘘よ、、、。ここは、『遥かなる刻と星々の福音』の世界でしょ?」
私がこのゲームのタイトルを言うと、エルサムは冷たい笑みを浮かべた。
「なんだそれは」
私は、脚の力が抜けてその場にへたり込んだ。ガチャンと言う鉄枷の音と、目の前に広がる証言台の柵が映っていた。




