交差する思い その1
アサノニア帝国歴1026年冬の月24日目。天気曇り。
最終イベント、文化祭と後夜祭を経て、好感度がカンストした攻略対象と、冬の月で新年を迎えるための晩餐会に出席する。
そこに婚約破棄されたショックから、闇堕ちし魔王から力を得たアリシア様が現れ、帝国を破壊しようとする。
ヒロインのルシィと攻略対象は、愛の力で古代の究極魔法を復活させ、闇堕ちしたアリシア様を倒し、ルシィは国を救った聖女として、晴れて2人は永遠の愛で結ばれる、と言うシナリオだ。
(なんとも唐突なシナリオ、、、)
そもそも、公衆の面前で婚約破棄を言い渡すのも、王家の権威的に問題だ。王家の結婚というのは基本的に、政治が絡んでいるのだ。王子の独断で婚約破棄ができるわけがない。
もし、婚約破棄をするのであれば、その王子は平民落ちは不可避なほど、王家の結婚というのは重いのだ。
春の月に彼女から聞いたメモに、ツッコミを入れていた。
(過去の僕は、細かくメモしていたのか)
他に、彼女は譫言のように、「討伐」「サブクエ」「サブストーリー」と呟いていたが、なんのことだか分からない。
これ以上、彼女から簡単に聞き出した知識で、必要そうなものはないと判断し、彼女の異世界メモを閉じて、本棚にしまう。
「行くか、、、」
僕はエルサム様の指定した時間に、遅れないように自室のドアをパタンと閉めた。
廊下を歩き、使用人たちが馬車の準備ができたことを確認してから、エルサム様の自室へ向かう。
僕はノックをし、エルサム様から入室の許可を取ると、ドアを開けた。
「エルサム様。馬車の準備ができました。いつでも出発できます」
僕の報告を聞くと、エルサム様は洋服の最終調整をされているようだった。彼は、全身黒づくめのスーツを着用していた。
光沢が光るジャケットとスラックス。細くも品のある黒いネクタイ。靴元も磨き上げられた、一級品のものであると一目でわかる革靴を履いていた。
エルサム様は仕上げに髪をかき上げ、僕の方へ振り向く。
「行くか」
彼は短い返答をし、長い脚でスタスタとドアを出て、馬車が止まっている外へ向かう。僕はゆっくりとドアを閉めて、エルサム様の後を追うのだった。
…
馬車にのり、着いた先は、一生行くことがないと思っていた。裁判所。
神話の世界より立っていると思わせる、荘厳な白い石造りの建物は、天にいる神に見せるかのように、上に高くそびえ立っている。
僕はその迫力に、思わず見惚れてしまう。
この建物には、特殊な魔法がかかっており、いかなる特技や魔法による欺きは通用しない。ただし、証拠の提示のみ、力の使用を認めている。
(きっと、僕には一生わかんない魔術式と、化学式が組み込まれてるんだろうな、、、)
アサノニア帝国は、神が法を与えたと信じられているが、現在は王権が法の管理を行なっている。これは、政治と宗教は別にして考えたほうが、合理的であるというエルサム様の主張から、変えられたものだ。
当時は、枢機卿と文官長たちが強く反発して、説得材料を探すために空間転移で、エルサム様と飛び回った思い出が、フッと脳裏に映る。
(僕自身初めて、僕以外の人と一緒に空間転移したから、エルサム様に何かあったらと、生きた心地がしなかったけどね)
僕たちが裁判所にきた理由は、今日はルシィの裁判の日だからだ。
彼女は、後夜祭以降、アーベル領で引きこもっていたが、王族命令により、今日までに帝都のこの裁判所に連れてこなければ、極刑に処すと通達済みだった。
なので、アーベル男爵と婦人は、ルシィを引きづりだし、この裁判所へ出廷してきている。もちろん到着後はルシィが脱走しないように、厳重な警備がされている。
エルサム様は、裁判所の入り口で一礼すると、中に入っていった。僕も後に続き、中に入る。
この後、驚愕の断罪劇の傍観者になるとは、知る由もなかったのだった。




