感動の“確定イベント”
-文化祭終了後 日没-
-学園にあるホール-
-ルシィ視点-
私は、学園ホールの入り口付近にたどり着いた。みんな私の格好を見ている。
(私のドレスはこんなに煌びやかなんだもん。視界に映らないほうが変か)
周りを観察すると、行き交う人々は全員控えめでレースの膨らみもない、控えめなドレスばっかりだった。
(やっぱりモブは控えめなのよね〜私を輝かせるために!)
入り口に近づくと、人が増える。私を見た人間は、近くの人間と私を見ながら耳打ちする。
(ほんとこの国の人たちって陰険よね!)
私は正義感から苛立ちを覚えたが、きっとこの国は豊かでないのだ。私がエルサムの嫁となり、豊かになれば、この性根の悪い国民性も変わるだろう。
(自分の機嫌は自分で取れる私って、やっぱ人生2週目なだけあるわよね〜)
入り口に一歩一歩近づく度に、オーケストラの美しい旋律が大きく聞こえてくる。まるで、一歩一歩、結婚式のバージンロードを歩いている気分だ。
私は、入り口に立つ。
すると、目の前には、ホールの真ん中に立つ美しいシルエット。見間違えるはずがない。
(あぁ、、、エルサム♡確定だわ。私は皇帝の妻になる!誰もが想像もつかない、贅沢三昧な生活を送れる!)
彼は私の存在に気づき、こちらに振り向く。そばには、アリシアの姿は見えない。私の確信はどんどん自信を帯びていく。
(あぁ〜この世界にSNSがあればなぁ〜!!!マウントとってきた友人たちに、真の充実した生活とはなんなのか、教えてあげられるのに!!!!)
私は、一歩一歩エルサムに近づく。すると、タイミングよく、オーケストラの演奏が止まる。
エルサムも私に気付いたのか、エルサムの晴天のように美しい瞳が私を見る。
私はたまらなくなって、エルサムに抱きつく。
きゃーーーー!!と、私たちを祝福するような悲鳴が聞こえた。
(私たちに会話はいらない、、、だってゲームのシナリオ通りなんだから!)
私は後夜祭のダンスをするために、エルサムの手を取ろうとすると、逆にエルサムが私の手首を掴んだ。
少し強い力で握られているのが、彼の内なる独占欲を感じて心臓が高鳴る。
エルサムが私の腰に手を当てる。そして、彼の美しい薄ピンクの整った唇が、私の顔目掛けて近づいてくる。
(嘘、キス!?エンディングで見れるやつじゃない!??私知らない間に好感度カンストしてた!?)
私は目を閉じて、彼からの口付けを待った。私の心臓が、これ以上ないぐらい、バクバクしているのが、聞こえた。体温も40℃を超えたんじゃないかと錯覚するほど暑い。
永遠に近い暗闇の中、彼の吐息混じりの息が私の耳にかかった。
「チェックメイトだ。カトウチエミ。」
「え????」
私は、パッと目を開ける。そして、エルサムから距離を取ろうとしたが、強く掴まれた手が手錠のようになって、逃げられない。私はその場でへたり込んでしまった。
(どうして?私の現実、、、転生前の名前を知っているの?なんで?え?えええ??)
今日で心臓の回数が限界に達するんじゃないかと疑うぐらい、脈うっている。それに呼応するように、汗が額から流れてきた。床についた手だけが、とても冷たく感じる。
エルサムが、片膝を立てて私と目線を合わせるように腰を下ろした。
「どうしてか分からない。という顔をしているな?異世界から来たのだろう?」
「どうして、、、それを?」
エルサムは私の質問など、聞こえていないかのように振る舞った。
「俺を籠絡し、この帝国を乗っ取ることを目的としていたから、お前の矜持に乗っ取ってみたが、もういい。興が冷めた」
私は、この状況についていけない頭を必死に回しながら、この状況を理解しようとしているが、頭が真っ白で、エルサムの言葉が音でしか認識できない。
先ほどまで、歓喜で熱く震えていた手は、冷たく震えている。
エルサムは、見たことない笑顔で私に宣告する。
「冬の月まで残りの日数で、どうにかできるなら、やってみるといい。どうせ無理だがな。私の最愛の人と友人を傷つけた罰だ。一生かけて償うといい。」
「ハァ!?」
私が唯一発することのできた叫びを合図に、衛兵たちが私の両脇を掴んで、先ほど入ってきた方へひきづって行く。
「不敬だぞ!!!!」
その言葉だけが、妙にちゃんと聞こえた。目の前で、エルサム様はなんでもないように、立ち上がり衣服もシワを整えて、会場全員を見渡していた。
「皆、ルシィ=アーベル男爵令嬢は、気分が優れないようだ。気にしないでやってくれ」
その言葉を合図に、静々とアリシアがやってきた。青を基調としたマーメイドドレスで、アリシアのスタイルの良さが、上品に浮き彫りになるものだった。
髪もいつもは、銀髪ストレートなのに、今回は毛先をアンニュイな感じで少し巻かれており、頭には上品な金の飾りがついている。
それは、エルサム様の目の色のドレスと髪の色の羽飾りで、まるで、“私はエルサム様のもの”と全身で表現している様だった。
2人が手を取ると、それを合図にオーケストラが演奏を始める。ピッタリとしたステップで踊る2人は、ダンスの良し悪しなんてわかんない私から見ても、とても美しかった。
(というか、私のクラスメイトたちは、どこいったのよ?助けなさいよ)
そう思って、顔を上げると、さっきまで一緒にクレープ屋を切り盛りしてた、クラスメイトと目があった。
私は助けてもらえる、という期待を持ったが、彼らの視線がそんな期待が淡いものだったと自覚する
(なんで、そんな汚いものを見る目をするの?)
私は、だんだん落ち着いてきた脳で少し考えた。そして気づいた。
(多分。エルサムが、何かしらの方法で、好感度を元に戻したんだろうな。だって、私が転生者だって知ってたぐらいだし、、、)
私は項垂れた時に、頭からティアラが落ちた。
カランカラン
その音に反応するものはいないし、私自信も気にする余裕がないまま、何もできずに、ホールからズルズルと引きづられて行くのであった。
...
-同刻-
-学園ホール-
-エディ視点-
アサノニア帝国歴1026年秋の月62日目。天気晴れ。
(えっっらいもん見てしもうた!)
僕は思わず叫びそうになるのを、必死で抑える。少なくとも、僕は生涯この場面を忘れないだろう。
(エルサム様が、何があっても空間転移で助けるな。と命令されたのはこのためか。口元が動いていたけど、何を話されたんだろう)
これ以上考えても、恐ろしい答えにしか辿りつかない。
僕は思考を放棄して、今はお美しいアリシア様の手入れの行き届いた美しい髪や、この日のために仕立てたドレスのお姿を見て、目を癒そう。
他の参加者もそう思ったのか、先ほどの出来事には触れずに、全員がうっとりとアリシア様とエルサム様のダンスを見つめている。
その証拠に、曲が終わりダンスも終わると、ホールがひび割れんばかりの、拍手喝采が巻き起こった。
エルサム様とアリシア様は、並んでお辞儀をする。そのまま、エルサム様にエスコートされ、アリシア様と王族専用の控え室へ向かっていった。
あのお二人の優雅さと周りの対応は、まるで未来の皇帝と王妃の将来を祝福するかのようだった。
...
しばらくすると、アリシア様と別行動になったのか、1人まっすぐ僕の元へ向かうエルサム様は、すっごくいい笑顔だった。
(僕が逃げ出したいぐらい、いい笑顔だな)
僕は、知ってる。この笑顔は子供の時からする“イタズラ成功”もしくは“いいこと(僕にとっては碌でもないこと)考えた”って顔だ。
エルサム様は、僕の目の前で止まった。
「エディ。“いいこと”を考えた。明日私の部屋へ来い。」
(えぇ〜、イヤダ〜!絶対碌なことにならないもん〜)
僕は心で泣き叫ぶ、そして翌日エルサム様から聞かされた“いいこと”は想像を絶するものだった。




