私のターン
-文化祭 午後-
-学園貸切の広場-
-ルシィ視点-
私は控え室である自身の教室で、歓喜に震えていた。
(やっと!やっと!!ここまできた!最初はアリシアがいい子ちゃんすぎて、正論ふっかけてきて、思わずカッとなって、手を上げようとしちゃった。)
私は、春の月の出来事をおもいだしていた。
(けど、なんかよくわかんない男が、身代わりになってくれてラッキー⭐︎)
ゲームでは、あの中庭で、エルサムにちょっかいかけないでって、アリシアに因縁付けられて、アリシアに頬を叩かれるっていうイベントだった。
その後も、イベント発動せず困り、焦った結果、アリシアに近寄ろうとしたところ、ゴリラ女のガードが固いので、諦めて退散するしかなかった。
あんな女いたっけ??と疑問に思ったが、現実にも美女の親友ヅラして、男を寄せ付けない女がいたし、ゲームには、描かれなかった裏設定かなんかだと、自分を納得させた。
夏の月には、アイスクリームを作って、エルサムと一緒に食べるイベントは発動せず、アイスクリームを作れば、強制的に発動するかと試してみた。
すると、警察呼ばれて逮捕されたことで、絶望感を覚えた。しかし、お父様が、保釈金を払ってくれたおかげで、罪に問われなかったのが幸運だった。
(持つべきものは、財力ある父親よね。)
その後、領民の血税が〜とか叱咤を受けた。しかし、私は、いずれ王子の嫁になるようにイベントを頑張っている。
将来的には、エルサムと結婚して使えるお金が桁違いになるので、私には関係ない別の世界の話と割り切って聞き逃した。
結局、お父様の怒りが収まらず、流行病の治療として、実家に戻ることになった。
エルサムの好感度が下がったかもしれないと、不安になったが、エルサムがわざわざ領地まできて、会いに来てくれた。
私は、好感度は高いと確信した。
その後、両親から必死に止められて、エルサムとデートをすることはできなかった。しかし、流行病ということになったら、起きた特殊イベントも見れたし満足した。
文化祭は、やはり神イベントと称されることはある。この時期は、複数の攻略対象の好感度が上がるのだ。
そのおかげで、秋の月の文化祭では、あんなにそっけなかったレイモンドが、積極的に手伝ってくれて、クレープの作り方を教えてくれて幸運だった。
(きっと、毎日挨拶してたから、好感度が上がってたのね〜)
おかげで、定番の苺と生クリームのクレープを作ることができた。
(ってことは、レイモンドとのハーレムエンドある?)
一瞬浮ついたが、一瞬で冷静になる。
(いやでも、このゲームはハーレムエンドないのよね〜。まぁ、転生した私の力の影響で、設定がちょっと変わった可能性もあるし!ハーレムならハーレムでいっか♡)
ちなみに、材料である苺がどこにも売っておらず、探すのに苦労を要した。唯一、売ってたところを探し出すことに成功したが、12個でドレスが3着買えるほど値段だった。
(苺ってもっと安くて、毎年売ってるもんじゃないの?こういうとき、コンビニとかスーパーマーケットのありがたさがわかるわ〜)
苺も父親へのツケで、なんとか購入することができたし、販売する分には申し分ない量を確保できた。
(この神イベントで、クレープを攻略対象に食べてもらえれば、好感度は鰻登り!ほぼ1発逆転で好みのエンディングに行けるってワケ!)
本当は、サブクエストとかストーリーやって行くと、分岐エンド見れたり、スキルが解放される。
しかし、恋愛攻略には関係ないため、やり込み要素の意味合いが強かった印象だ。エルサムのゲーム内イラストをみたいあまりに、メインストーリー以外は、スキップしながらやってたのを思い出した。
(まぁ、今日エルサムが私のクレープを食べれば、次の冬の月に求婚されるし、これで、現実世界でマウントとってきた奴らを見返せるしね〜)
これでようやっと、人生リセットできると喜びが、身体の中から湧き上がってくる。
「はぁ、、、午後のこの時間に、エルサムが来るといいけど。まぁくるか、好感度上がってっし」
そうぼやきながら、売り場まで移動した。
“私が”考案した、いちごと生クリームのクレープが、売れていくのを横目で見ていた。
買っていったものたちが口々に
「“生クリーム”ってなんだ?」
「こんな滑らかな食感食べたことない!」
「なんて美味しいんだ!」
絶賛の声が止まらない。
(当たり前じゃない。現代でも美味しいスイーツなんだから、この世界でも、美味しいに決まってるでしょ)
私は現代では、当たり前の食べ物に感動している民衆を、哀れな目で見ていた。
私が注文も取らず、クレープを作らず、店の前で座っているのにはワケがある。
エルサムが来た時に、働いて汗かいてたらみっともないからだ。そのせいで、好感度が下がったら台無しである。
(未来の女王は、汗なんかかかないのよ)
そうしていると、民衆がザワザワし出した。私はその方向を見る。瞳孔が開いた感じがした。
太陽の光の化身のような、黄金の髪。晴天の雲ひとつない空を吸い取ったような、青い瞳はどんな宝石もただの石ころ同然になる。
体つきも、心細くなる細さではなく、こちらを強く抱きしめて守ってくれそうな、がっしりした肉体が、服の上からでもわかる。
(エルサム!やっぱりエルサムルート確定じゃん!やったー!!)
しかも、金魚のフンがいないのが、さらに幸運である。私は、前髪をササっと直して、とびきりの笑顔でエルサムの元に行く。
「エルサム〜♡来てくれると思った!クレープっていうお菓子を作ったの〜食べて?」
私が上目遣いで、コテンと小首を傾げて見せた。なんでか知らないけど、こうすると、みんな言うことを聞いてくれる。
(深く考えたことないけど、私は主人公だし。美少女の私にこんなことされたら、言うこと聞くしかないよね〜♡)
エルサムは私と目が合い、恥ずかしいのか目を閉じるとそのまま「頂こう」と言った。
(勝った)
私は心の中で、勝利のファンファーレを鳴らし、同時ににガッツポーズした。
エルサムが、このクレープを食べるのは好感度MAXになる必死条件であるからだ。
エルサムは椅子に座り、長い脚を机の下にしまい、クラスメイトが運んできた、“私の”クレープを一口食べた。
「美味しい。流石だな。ルシィ嬢。」
エルサムは私を見つめて、ダイヤモンドの輝きが色褪せるぐらい、美しい輝きを放つ笑顔で言った。
その笑顔は、ゲームの画面越しで見ていたイベント絵とは比較にならないぐらい。美しいかった。
(こんな人を旦那にできるなんて、、。現実で低所得の男を必死に捕まえて、新婚旅行だ、子供だと必死に幸せアピールをSNSでしてた友人たちが、滑稽に見えるわ)
私は急いで、次のイベントへ移れるように話しかけた。
「エルサム!この後、私暇なの!初めての文化祭だしぃ〜案内して欲しい、、、にゃ♡」
オリジナルにはない、もっと可愛い誘い文句にきっとエルサムはメロメロになるだろう。
(だって、今は好感度MAXなのだから)
私は、エルサムからの了承の2文字を待っていた。が、帰ってきたのは意外な反応だった。
「すまない。君を案内したいのは山々だが、公務が忙しくてな、、、」
「えーーーーーーーーー!!!」
私は、不機嫌が伝わるようにあえて、大きな声でトーンを下げた。すると、エルサム様が眉を八の字にして、私の頭を撫でる。
「また、後夜祭で会おう。待っているよ」
私に微笑むその笑顔は、1000万ドルの笑顔だと思った。
(なんて眩しいの!?さすが私の最推しだわ!)
エルサムのあまりの美しいさに、たじろいでしまったが、すぐに平静を装い、了承した。
(未来の王女は物分かりがいいものよね!)
エルサムは、クレープを全部食べてから席をたち、私だけに別れを告げて立ち去った。
その逞しい背中を私はひとり見送った。
(寂しい、、、でも、、、満たされなかった心が潤っていく)
去っていくエルサムの背中を見送りながら、私は胸を抑える。
(ドキドキが止まらない!きっときっとこれが恋!!!ゲームの世界でも、ちゃんと恋できるのね!)
これで私は確信した、後夜祭では、アリシアではなく私とダンスをする。
そして、冬の月の年の終わりを労う晩餐会で、アリシアに婚約破棄宣言をし、私と手を取ることが確定した未来になった。
(現実だったら、なんでかみんな、アリシアみたいな女がいいって言うのよ)
歴代の彼氏たちはみんな愚かだったので、良い子ちゃん風に騙されてしまう。
でも、ゲームでのアリシアは、表向きは聖女のように、もてはやされているが、裏では児童売買や麻薬取引に手を染めている。とにかく金に悪どいやつと描かれてる。
(ああいう女には裏があるのよ。みんな気づかないのよね〜。でも、私が見込んだエルサムは違うんだから♡)
1人悦に浸っていると、クラスメイトの1人から邪魔された。
「ルシィちゃん。テーブルについた汚れを掃除したいんだけど、布巾は何使ったらいい?」
「は?そんなこともわかんないの!?自分で考えなさいよ!」
私はイラ立ちを覚えたが、すぐに冷静になる。
(未来の王女は民を導かないといけない。私はもうエルサム様の嫁なんだった)
「あ、、ごめんごめん。これ使って!」
私は適当に、レイモンド班が、綺麗に2色に分けて並べていた赤と青の布から、青い方を選んでクラスメイトに渡す。
(レイモンドの業務手順書を確認してないけど、ぱっと見、綺麗だし。洗ってあるよね)
レイモンドから、文化祭運営にあたって、10cmぐらいの厚みある業務手順書を渡されたけど、1ページも読んでない。そのため、一瞬不安になった。
(でも、何かあれば、その業務手順書を作ったレイモンドが全部悪いわよね?)
しかし、責任の所在は明らかなので、何か言われたらレイモンドが責任を負うだろう。
夕方になり、撤収の号令が文化祭実行員から伝達された。
私は文化祭の片付けをクラスメイトに任せ、後夜祭の準備をするため、1人で化粧室に向かった。




