表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/35

敵情視察

レイモンド様が、王室直伝の至高のクレープを持ってきてくれた。


案内されたテーブルの上に、置かれる前からわかる美味しそうな匂い。僕は、まだ実物を見ていないのに、口から涎が溢れそうだった。


テーブルに置かれたクレープは2皿ある。僕はきょとんとして、レイモンド様を見る。


「あぁ、これは君の分だ。エディ。甘いものが好きと聞いてね。きっと食べたいだろうと思ったから、これは私の奢りだ。」


本来はエルサム様の分しか、頼んでいなかったのだが、レイモンド様が気を利かせて、僕の分も恵んでくださった。


そのため。テーブルには2つのクレープがあるのだ。


(レイモンド様、お優しい、、、。)


レイモンド様の優しさを、心に染み込ませた僕は、いつものエルサム様の毒見を始める。


知らない人が出した料理ではなくって、レイモンド様が監修しているので、いつもよりかは怖くない。エルサム様の分のクレープを口に運んだ。


一口入れた瞬間感動した。パリパリのよく焼かれたクレープ生地に、蜂蜜とスパイスで甘く煮たあったかいりんごと、冷たいバタークリームの滑らかで濃厚なミルクの味。


口の中で、暖かいりんごとバタークリームが溶け合い、味のハーモニーを生み出している。加えて、香草が、絶妙なバランスで成り立っている。僕は目を輝かせた。


「レイモンド様!とても美味しいです!!!」


「エルサム様のパティシエ直伝のレシピを、喜んでもらえてよかった。さぁ、君の分を存分に食べてくれ」


(やった〜レイモンド様最高〜!)


僕は自分の分を貪るように食べた。


食べながら周りを見ると、席に座った周りの客が同じように、目を輝かせながら食べている。その様子を微笑ましく観察していると、エルサム様がレイモンド様の方を向いた。


「首尾は上々か?」


「はい。エルサム様のご指示通り、このレシピをクラス全体に共有したところ、私が殿下からいただいた解除薬を使って、魅了を解除できたものは、賛成してくれました。」


さすが、レイモンド様。魅了解除の仕事が早い。けど、その表情は暗いままだ。


「しかし、ルシィと魅了の効果が強いものたちは、ルシィの意見ではないと反対されたので、折衷案として、私の班とルシィ班に分かれて、午前と午後に出店することで収まりました。」


エルサム様は、淡々と状況を確認する。


「解除されたクラスメイトの様子は?」


「はい。魅了を解除しただけなので、記憶は残っており、なぜルシィに肩入れしていたのか、疑問に思っていた様子でした。」


レイモンド様は、彼の班で働いているクラスメイトの方を見る。その表情は、民を見守る領主そのものだ。


「“文化祭”の準備のおかげで、気にする余裕もないようなので、かえって幸運でした。」


レイモンド様の言葉に、エルサム様も同じ方を視線だけ送っているようだった。


「今、ルシィに気取られた様子は?」


「いいえ。彼女も忙しくしていたのか、ギリギリまで準備をしているようです。珍しく色々考えているようでした。」


「そうか。」


エルサム様は一通り、レイモンド様からの報告を聞くと、立ち上がった。僕もついていけるように、残りのクレープを口に押し込み準備する。


エルサム様が、レイモンド様をみていた。


「レイモンド、今は楽しいか?」


(珍しい。エルサム様の口から、気遣う音葉が出るなんて。)


失礼に思うかもしれないが、本当にアリシア様以外にそういった暖かい言葉が出ない人なので、驚いた。


レイモンド様は、少し俯いて考えるそぶりを見せ、そして前を向いた。その表情は明るい。


「はい。エルサム様のおかげで、クラスの半数がまともに戻ったので、初めて会話ができました。今は、とても楽しいです。」


「そうか。それでは引き続き、監視と報告を頼む。」


そういうと、エルサム様はレイモンド様の元を去っていった。


僕はエルサム様についていきつつ、後ろを見ると、レイモンド様がクラスメイトと話しながら、一緒に店を切り盛りしていた。


レイモンド様は、国境沿いの過酷な地域から、長い時間と労力をかけて、帝都にきただけでも大変だったことは想像に容易い。


なのに、ルシィの特技のせいで、クラスでまともな友人ができず、その強靭な魔力ゆえ孤立し、どれだけ孤独だっただろう。


レイモンド様の今のその表情は、初めてクラスで見たものから一変していた。まるで、水面が朝の太陽光に反射している湖のように、輝いていた。



ー文化祭 午後ー

ー王室専用のプライベートルームー


「さて、行くか。」


エルサム様は、手のひらの上で写していた遠視魔法で、文化祭の様子を見ていたのをパタリと辞め、つぶやいた。


遠視魔法は、魔力量が中級程度の魔法使いが、専用の魔法道具の設置をして、初めて行えるものだ。


しかし、エルサム様は違った方法で遠視する。まず、使役の魔法を小動物に使い、任意の場所にむかわせる。


そして、その小動物の視覚情報を人間レベルの情報量に転換したものを、手のひらサイズの薄い長方形の画面で見ている。


通常、このエルサム様流で行おうとすると、可能なのは上級魔法使いに限るし、できても船酔いのような感覚に陥り、遠視どころではなくなる。つまり、実践向きではない。


こんな回りくどいことをするのには、エルサム様なりの理由がある。


魔道具を設置すると、ルシィに勘付かれるリスクが少しあるかもしれない。たったそれだけの理由で、息切れせずやってのけるのだ、この帝王様は。


「かしこまりました」


僕は長い脚で進むエルサム様に、置いていかれないように、足早でついていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ