オルウェルズ辺境伯のご子息
学園にある王族専用の応接室。そこで、とある人物を待つため、エルサム様は一級品の椅子に座り、僕はその後ろに立ったまま、お茶の準備をしていた。
しばらくすると、礼儀正しいノックの音がする。ドア越しにも聞こえる凛とした声が響く。
「レイモンド=オルウェルズ、只今到着いたしました。入室のご許可をお願い致します。」
「入れ。」
エルサム様のその声を合図に、僕は扉まで行き丁寧に開ける。
レイモンド様は、礼儀正しく挨拶をし、一歩部屋に入ると胸に右手を当て、深々とお辞儀をした。
その様子を後ろで見ていた僕は、さすが辺境伯の息子、、、しっかりしているな。と思いながら、エルサム様の後ろに戻った。
僕が戻ると同時にエルサム様は、「気にしなくていい。頭を上げろ」と言う。レイモンド様は、頭を下げたまま、一言礼を述べてから顔を上げる。
レイモンド様は深夜のような藍色の髪色に、月を思わせる黄色い目をしている。
隣国ヨルヴァンからの輸入品である、視力補助器具のメガネをかけており、凛々しい顔立ちに知的な印象を感じさせる。
しかし、服の上からもわかる鍛えあげられた身体が、騎士道を重んじる武家出身であることを語っている。
レイモンド様は、エルサム様からの言葉を芯のある姿勢でまっすぐ待っている。エルサム様はその様子が気に入ったのか、背後にいても感じる機嫌のいい雰囲気を醸し出している。
「立っているのも辛いだろう。座れ。」
「はッ、ありがたく。」
レイモンド様はエルサム様から促され、やっと席に着く。そのタイミングでエルサム様、レイモンド様の順に紅茶を出す。
エルサム様は紅茶を取り、香りを嗅ぎながら話す。
「紅茶は好きか?愛しのアリシアおすすめの茶葉だ。君も味わうと良い。」
「ハッ、ありがたく頂戴します。」
そういうと、レイモンド様は紅茶のソーサーを持ち上げ、カップのつまみを持ち、香りを嗅ぎ一呼吸してから、音を立てずに紅茶を一口味わう。
そしてソーサーを、カチャ、、、と小さく音を立てて戻す。
かんっっぺき!!完璧な紅茶マナーだ!!1年生とは思えない!!外交や商談でももう安心できる!すごい!!!!僕は心の中で拍手喝采した。
レイモンド様が一呼吸置いたタイミングで、エルサム様は話す。
「ところでレイモンド、君はあの汚、、、いや、、アーベル令嬢のことはどう思っている?」
「どうって、、、言葉を選ばないので良いのであれば、発情期の猿の方が、まだ理性があると思うレベルですね。見ていて不快です。」
うわぉ!エルサム様と気が合いそう。そう思っていると、すぐエルサム様の声がする。
「全くもってその通り、私も猿が入学したのかと思った。」
そうお互いが言い合うと、ガッ!!とお互い立ち上がり、ガッチリ握手を交わした。
うわぁ!性悪同盟が爆誕した!僕が驚いていると、エルサム様が座り直す。
「では、ルシィの特技のことは、ある程度は察しているのか?」
「はい。おそらく魅了の類かと。それも魔力が平均以下で、好感度が高いほど効きやすいものですね。」
レイモンドも座りながら、エルサム様の問いに答える。エルサム様は紅茶を一口飲んだ。
「確かめるまでもないが、君があの汚女の毒牙にかかっていないのは、単純に嫌いだからかな?」
「はい。出会った時から馴れ馴れしく不快でした。」
そうか、辺境伯の息子だし、きっと魔力も高かったんだろう。そしてルシィ節に引いて、最初から好感度が限界まで下がっていたから、助かったのか。
「そうか、大変だったな。君が望むなら他のクラスへ再編成することも可能だが、どうする?」
エルサム様の提案に、レイモンド様は少し考えてそして、まっすぐエルサム様を見る。
「ありがたいお言葉に感謝致します。ですが、彼女から喰らった精神的苦痛を、どこかで一矢報いたいと思い、彼女の愚行を私の特技『記録』で記録しております。」
「ほう、記録、、とはどのようなことができる?」
「はい。記録は私が見聴きしたもの全てを宝石にためて、好きな時に見返すことができます。いつもは、この特技で授業の復習をしているのですが、最近は彼女の愚行も撮り溜めています。もちろん“春の月の暴行未遂“も」
なんと!記録という特技は、めちゃめちゃ優秀じゃん!僕は会話の内容そっちの気で、彼の特技の話に夢中になってしまった。
でもエルサム様は違った。
「そうか、私は君が気に入った。よければ、私と協力しないか?冬の月までに、あの汚女に鉄槌を下そうと思っていてね。」
「なるほど、彼女のアリシア様への態度や、他の男性生徒に対する態度は、同じ学園のものとして、恥ずべきものであると思っておりました。是非、殿下の傘下に入れていただきたいと存じます。」
そういうと、座りながら頭を深々と下げた。何から何までちゃんとしている、、、。僕は感心していると、エルサム様が椅子から立ち上がる。
「顔を上げておくれ、レイモンド。君はこれから私の忠臣だ。共に敵を倒そうぞ。」
エルサム様は、レイモンド様に手を差し伸べる。レイモンド様は、椅子から立ち上がり、エルサム様の右側まで移動すると、伸ばされた手の甲に、騎士の誓いを意味する口付けを送った。
「我が忠誠を貴方に」
これ、一般の令嬢が見たら、卒倒するぐらいすごい絵面だな、、、。それにしても、騎士道を重んじるオルウェルズ辺境伯家の誓いは、いろんな意味で重そうだなと思った。
それを涼しい顔で受けるエルサム様、きっとこうなることも織り込み済みだったんだろうな。
ルシィを追い詰めるための“駒”が一つ増えた。と言いたげな微笑みを浮かべる、エルサム様の真意をわかるのは、僕しかいないのだろう。
この後、忠義に燃える彼の働きが、あんなにルシィを追い詰めることになるなんて、思いもよらなかった。




