“神イベント”がある月らしい
ーアサノニア帝国帝都ー
アサノニア帝国歴1026年秋の月1日目。天気晴れ。
暑かった日差しが遠のき、涼しい風が吹き、実りのある月だ。
長かったアーベル領への視察も終わり、帝都に帰ってきた。宮殿に戻ると入り口の前にまっすぐ伸びる一輪の百合の花。アリシア様だ。
一体、何時頃からああして待たれていたのだろうか。姿勢がブレることなく、美しい佇まいだ。
エルサム様が馬車から降りると、アリシア様が完璧なカーテシーで出迎える。エルサム様は自然な笑みで、アリシア様を見つめる。
「アリシア、私の留守の預かり、ご苦労だった。何か変わったことはないか?」
「はい。隣国ヨルヴァンより手紙を預かっております。それ以外に緊急のご相談はございませんが、お疲れでしょうから、詳細は中で」
アリシア様は流れるように、中へエルサム様を促す。応接室の方からは、紅茶とお菓子の甘い匂いがする。
ここまでの準備の良さ!安心感!アーベル領とは大違い!僕が感動していると、アリシア様は僕の方を見てニコリと微笑む。
「エディ、あなたもご苦労様。あとは私に任せてゆっくりしてね。」
あぁ〜アリシア様のお優しさが沁みる〜!僕はアリシア様のお言葉に甘えて、お先に自室で休むことにした。
…
その夜。
エルサム様から呼び出されて、エルサム様の執務室へ向かう。ノックをし中に入ると開口1回目でエルサム様が話し始めた。
「“神イベント”とやらが来るぞ」
神?イベント、、、僕は突然のことで思考がフリーズしてしまったが、春の月の記憶を掘り起こす。
「確か、“文化祭”?と言う生徒が中心となって学園で行う地域貢献の類、、、ですよね?そこで“ルシィ”は独特の発想で新商品を作り、大成功を収め、その功を“エルサム”様に褒められて“後夜祭”のダンスパートナーに選ばれるって話だった気が、、、」
自分で言っててもおかしい話である。まず、地域貢献の祭りは、城下の自治を行う貴族集団が催すため、学園でやる必要がない。
そもそも貴族が通う学校を一般に解放するって、、警備どうなってんの?って話だ。
それに食品を提供するのも、衛生観念的に心配だ。
仮に成功して、エルサム様が功を形式的に労うことはある。けど婚約者を差し置いて、ダンスパートナーに選ぶことは天地がひっくり返っても、あり得ない話だ。
僕が“神イベント”について、感想を頭の中で述べていると、目の前のエルサム様はにっこり笑っている。美しいが油断してはいけない笑顔だ。
「その文化祭を実行する。ただし、場所は学園ではなく、近くの広場を貸し切ることにする。名目は経営学の演習ということでな。」
なーんで、そんなことを、、、。とは思うが相手の矜持に則り、完膚なきまで叩き潰すことが“楽しい”らしい、未来の帝王様の考えることを、これ以上聞くのはやめようと思った。




