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灰の檻を抜けて星の子供たちは旅に出る  作者: 御園しれどし


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序章:灰色の少女と星の導き

1. 幼き日の呪縛:完璧という名の檻


エマが育った家は、静謐で、非の打ち所のない「正しさ」に支配されていた。教育者であった両親は、彼女を愛してはいたが、その愛は常に条件付きだった。テストの点数、立ち振る舞い、言葉遣い。すべてが「こうあるべき」という型に嵌められ、そこから少しでもはみ出せば、冷ややかな「沈黙」という拒絶が彼女を襲った。


幼稚園の写生大会でのこと。エマは自由な感性で、空を飛ぶ鳥を鮮やかな「青」で塗った。しかし、それを見た母親は顔を曇らせ、「この鳥は茶色よ。正しく見なさい。嘘を描く子は、お母さんの子ではありません」と静かに告げた。母親はその場で青い鳥の上から濁った茶色の絵の具を塗り重ね、エマの「自由な視点」を塗り潰した。


その日からエマは、自分の目に映る色彩を信じるのをやめ、他人が定義する「正しい色」だけを探すようになった。


「あれもだめ、これもだめ」幼いエマが何かを望むたび、その言葉が壁となって立ちはだかった。彼女はやがて、自分の望みを持つこと自体を罪だと感じるようになる。「私は、正しくなければ存在してはいけない」という思いは、彼女の心の中に「否定」という名の灰を積もらせ、世界から色彩を奪っていった。


2. 異世界転生前:限界に達した「問い」


二十歳を過ぎた頃、エマは社会という名の、より巨大な檻の中にいた。周囲の期待に応え、誰からも否定されないように立ち回る日々。しかし、どれほど「正しく」あろうとしても、心の中の虚無は広がるばかりだった。ある夜、会社で完璧な報告書を作り上げた際、上司から


「君は本当にミスをしないね。機械のようだ」


と褒められた。それは称賛の言葉だったが、エマの心には鋭い楔のように刺さった。誰からも否定されない「完璧な自分」は、誰からも必要とされない「交換可能な部品」でしかない。


深夜のオフィスで一人、エマは自分が何のために呼吸をしているのかさえ分からなくなった。


ある雨の夜、彼女は駅のホームで自分の影を見つめていた。


(私は、本当は何者なのだろう? この檻の外に、私は存在しているの?)


その問いは、彼女が人生で初めて自分自身に投げかけた、真実の問いだった。


その瞬間、駅の喧騒は消え、足元のコンクリートが星空のように透き通り始めた。彼女の意識は、肉体の重みを脱ぎ捨て、広大無辺な暗闇――宇宙へと吸い込まれていった。


3. アエテルナでの目覚め:拒絶の痛み


エマが次に目を開けたとき、そこは「忘却の灰」が降る不毛の地だった。記憶の大部分は失われていたが、胸の奥にこびりついた「否定されることへの恐怖」だけは残っていた。


見渡す限りの大地は、焼けた骨のような白さを帯び、草木一本生えていない。空は重苦しい鉛色で、太陽の代わりに巨大な虚無が居座っているかのようだった。


絶え間なく降り注ぐ「忘却の灰」は、衣服を通り抜けて肌を刺し、その一粒一粒が「お前は不要だ」「無価値だ」という冷酷な思考を脳裏に直接流し込んでくる。


地面を這う霧は、エマが拒絶を強めるほどに鋭い針となって彼女の足を傷つける。


「……寒い」


彼女は自分の体を抱きしめた。拒絶すればするほど、不自由が彼女を締め付けていった。


4. リベルタスの試練:痛みの受容


「そんな風にしか受け取れないのは、決して自由ではないわ」


どこからともなく響いたその声は、かつて両親が放った否定の言葉とは正反対の、透き通った響きを持っていた。エマの前に、一筋の光が舞い降りる。それは形を持たない、しかし確かな意志を持った「自由」の化身、リベルタスだった。


「誰……? 私は、どうすればいいの……」


リベルタスは、エマの目の前で灰を凝縮させ、無数の鋭い棘を持つ「灰の茨」を作り出した。


「エマ、最初の試練よ。この茨を、あなたの素肌で抱きしめなさい」


「そんな、痛いわ! 死んでしまう!」エマは恐怖で後ずさりしました。


「痛みを拒むから、あなたはいつまでもその檻から出られないの。この茨は、あなたのこれまでの『拒絶』が形になったもの。これを『だめなもの』とせず、あなたの命の一部として受け入れなさい」


エマは震えながら、そのおぞましい茨に歩み寄った。かつての母親の拒絶、上司の冷たい言葉、そして自分自身への呪い。それらがすべて棘となって彼女の胸に食い込んでいく。


しかし、エマは逃げるのをやめた。血が流れ、激痛が走る中で、彼女はその痛みを「生きている証」として、深く、静かに受け入れた。


その瞬間、茨の棘は柔らかな光の粒子へと変わり、彼女の傷口を癒していく。灰に閉ざされていた視界に、かつて奪われた「青い鳥」の色よりも鮮やかな、宇宙の色彩が戻ってきた。リベルタスとの出会いは、彼女にとっての「自分を学ぶ」旅の始まりだった。自由が彼女を育て、自分がこの宇宙の子供であることを理解していくための、長くて美しい学びの第1ページが開かれた。

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