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メリー・クリスマス ミクス・マーダー  作者: 臣 桜


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8/10

開いた記憶の蓋

 そして現在。


「あんたが【ジングルベル】を歌って、すぐ分かった。事件のあと、叔父が私たちにプレゼントを持って来て、第一発見者になった。でも叔父は警察に通報する前に、8mmビデオをダビングした。『警察だけに任せておけない』って。私は大きくなって叔父の許可を得たあと、何度も繰り返しあの動画を見た。……勿論、心を病んだよ? 今も薬を呑んでるの、あんたも知ってるでしょ?」


 悠衣の言う通り、彼女は精神科に通っている。


「でもそのお陰で、同じ歌声を聴いてピンと来た! 警察も見つけられなかった犯人を、私だけが見つける事ができたんだよ!? ツキから見放された人生だけど、あの時だけは天に感謝したね! おまけに私は〝視える〟! お前をこの家に連れて来た時、〝家族〟がざわついたのが分かった!」


 彼女は興奮気味に言う。


「十八年経ってやっとお前に会えた。罪の意識もなく女として生きているみたいで、近づいて仲良くなれば、過去に殺人を犯した事を告白するかと期待してた。でもお前は罪の意識を抱いてない。そもそも、私の家族を奪った事を覚えていない。……今年、二十三回忌を迎えるまで四年間、私はお前が白状するのを待ち続けた。お前の家庭環境を自分の家族の事のように話したり、姉を思い出すように白いワンピースを好んだりした。……なのに……っ! ……家族の墓前に『次の法要までには必ず犯人を逮捕させる』って誓ったのに……っ!」


 その時、パキッ、と音が鳴り、リモコンに触れていないのにテレビが消える。


 そして――、私たち以外には誰もいないはずの空間に、複数の気配を感じた。


「お前は自分の罪を認めなかった。思い出そうともしなかった。……だから今日、すべてを終わらそうと思って、こうしようと決めたんだよ」


 パキンッ、バキッ、とラップ音が激しくなり、リビングの照明が点滅した。


「私が男に抱かれてる動画を見て、絶望した? 恋人気取りだったもんね? 本当は男のくせに、女のふりをしてさぁ! 馬鹿じゃねーの? 私はもともと、自分は一生幸せになれない女だと思っていたから、恋愛も結婚も諦めてた。あ、勘違いしないでね? お前と一緒にいたのは、罪を告白する瞬間を待っていただけ。お前みたいなジジイに恋愛感情なんて持たねーよ。動画は、今日で〝最後〟だから、金で買ったイケメンに、一晩いい想いをさせてもらっただけ。……でも、動画を見てる時のお前の顔ったら!」


 そこまで言い、悠衣は手を打ち鳴らして笑う。


「〝なりそこない〟のくせに、一丁前に嫉妬するんだね? それともNTRの性癖あって興奮した? あんた、いつも私の体を物欲しそうに見てたもんね? この変態!」


 悠衣は私を見つめ、目の奥に底知れない闇をたたえた笑みを浮かべる。


「……ねぇ、知ってる? 霊感のない人でもね、何度も肝試ししていたら取り憑かれて、そういう世界に〝関わり〟ができるんだよ。……あんた、この家が一家殺害事件のあった、事故物件だったって知らなかったでしょ? 〝覚えてなかった〟んだから。……今のあんたになら感じるはず。犯人を目の前にして、家族が怒っているのが分かるでしょう?」


 その時、バキンッと一際大きな音が立った。


 照明が点滅し、光と闇のはざまに、血まみれになった親子が立っているのが視える。


 ――のは、気のせいだ。


 気のせいなのに、四人の真っ黒になったうつろな眼窩が、私を見つめて離さない。


 悠衣はテーブルから下り、【ジングルベル】を鼻歌で歌いながらキッチンへ向かった。


 そして包丁を手にすると、「はい、プレゼント」と言って微笑んだ。


「お前にもう一度これをやるから、私を家族のところに送ってくれよ」


 悠衣は包丁を私に持たせて両手で包むと、切っ先を自分の喉元に向ける。


「もう、うんざりなんだよ。大事件の犯人を捕まえられない、法で悪人を裁けないクソみたいな世界で生きているのも、毎日、毎日、家族を殺したジジイが、女装して私の目の前で微笑んでるのを見るのも! 地獄だよ! じ~ご~くぅ! お前、自分の気持ち悪さ、自覚してねーだろ。どんだけ美容に気を遣っても、所詮お前は四十七歳のおっさんなんだよ! 気持ち悪い!」


 言われた瞬間、姿見に映っている〝私〟の姿が揺らぐ。


 私は、悠衣より二つ年上の姉。


 ……ううん。姉のような親友?


 いいえ、二つ上だったのは、私の兄?


 記憶のずっと奥に封じていたものが、ぞわり、と蠢く。


 ――駄目。駄目、駄目、駄目、駄目、駄目。


 ――来ないで。思いだしたら駄目。そっち行って。駄目なの。


『お前、本当に女になったのかよ! アレもとったのか!? 胸があるなら見せてみろよ!』


 敬愛している姉の死を、ゴミ屋敷と化した実家で一人暮らししている兄に伝えに行ったら、彼は私の姿を見てせせら笑った。

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