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メリー・クリスマス ミクス・マーダー  作者: 臣 桜


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4/10

血のクリスマス

 DVDは市販の映画ではなく、ホームセンターなどで買えるクリアケースに入っている。


 ディスクも真っ白で、裏ビデオと言ったのも、あながち嘘ではなさそう……と思った。


 悠衣は一枚目のディスクをデッキに入れ、再生ボタンを押す。


 すると、かなり昔のものとおぼしき映像が画面に流れた。


 アスペクト比もブラウン管時代のものだし、画質もいいと言えない。


 相当前、VHS媒体の頃に撮った物をDVDに焼いたものだろう。


 ホームビデオらしきそれは、ある家族がクリスマスを祝っている様子を映している。


 父親に母親、兄と姉と次女の五人家族だ。


 テーブルの上には子供用のシャンパンもどきがあり、チキンレッグもある。


 よく見てみると、ホームビデオの舞台はこの家によく似ている。


 今は悠衣好みのインテリアが置かれてあるけれど、ダイニングテーブルは同じ物だ。


 その向こうにアイランドキッチンがあるのも同じ。


 妙な感覚を抱いた時、ホームビデオの中でチャイムの音が鳴り、父親が立ちあがる。


 フレームアウトした場所で、父親が誰かと争い合う音が聞こえ、くぐもった声がする。


《お父さん?》


 異変を感じた母親が玄関に向かおうとして、悲鳴を上げた。


 画面の中では、某スラッシャー映画に出てくる、ムンクの【叫び】に似たお面を被った人物が、血に濡れた包丁を振りかざしていた。


 犯人はウィンドブレーカーの上にカッパを着ていて、男か女か分からない。


 子を守ろうとした母親は首を刺され、噴水のように血が噴き出る。


《お母さん!》


 犯人は硬直している十歳ぐらいの少年の胸部を刺し、八歳ぐらいの少女の腹部も刺してけたたましく笑った。


 残されたのは六歳ぐらいの末っ子の少女のみ。


 けれど彼女はどこかへ隠れたのか、リビングダイニングに姿はなかった。


 三脚に立てられたデジタルカメラはそのまま、惨劇の現場を映し続ける。


 犯人は虫の息の家族にとどめを刺す。


 動けない相手に跨がり、血でグチュグチュと音が立つほど何度も繰り返し刺す。


 母親も、少年も少女もピクリとも動かなくなり、床に赤黒い血だまりが広がっていく。


 そのあと犯人は英語の歌詞で【ジングルベル】の歌を歌い、どこかへ去って行った。


 映像はそのあとも、沈黙したリビングダイニングを映し続ける。


 まるでアリ・アスター監督の映画、【ボーはおそれている】のエンディングを見ているような気持ちだ。


「本物、凄いでしょ」


 悠衣が言い、DVDを止める。


「……本物?」


 我に返った私は、ドッドッドッドッ……と鳴り騒ぐ胸を押さえる。


 口の中はカラカラで、何を見せられたのか理解できない。


「さぁ、二枚目いってみよう」


 本物の殺人現場を映した映像だと言っておきながら、悠衣は軽い口調で二枚目のDVDディスクをデッキに入れる。


「ちょ……、ちょっと待って。追いつけない」


 私はそう言って悠衣から事情を聞こうとしたが、画面に映ったモノを見て目を見開いた。


 液晶画面に映っているのは、悠衣だ。


 ロリータ服ではなく、こなれ感のあるお洒落な服を着た悠衣は、知らない男と腕を組んで歩いている。


 男は身長が高く、顔立ちも整っている。


 悔しいけれど、美形の悠衣と似合っている……と言っていい。


 現場にはもう一人カメラマンがいるのか、二人がデートする様子を動画に収めていた。


「フツーのデートだから、早回しするねー」


 悠衣はリモコンを操作し、自分と男がデートしている様子をスキップさせていく。


 やがて夜になり、二人はホテルに向かった。


「え……」


 そうなって、何が起こるか分からない私じゃない。


 あろう事かカメラマンまでホテルの中に同行し、悠衣と男が肌を晒して交わり合っている様子をしっかり映していた。


 恋人の裏切りを目の当たりにした私は、両目からボロボロと涙を流して嗚咽する。


「酷い……っ! どうしてこんなもの見せるの!?」


 叩きつけるように言うと、悠衣は私を見て、何とも言えない笑みを浮かべた。


「アドベントカレンダー、プレゼントしてあげるから、機嫌直してよ」


 彼女はそういうと立ちあがり、「持ってくるね」とどこかへ行く。


「もう……っ、悠衣が何を考えているんだか分からない……っ」


 天才肌で、言動が突飛な人と思っていたけれど、まさかこんな仕打ちを受けるとは思わなかった。


 やがて悠衣は手にレンガの家の形をした、アドベントカレンダーを持ってきた。


 一瞬、それがこの家のミニチュアのように感じられる。


 悠衣はアドベントカレンダーをテーブルの上に置くと、乱暴にチキンやその他の食べ物の容器を払い落とし、その上に座った。


 彼女は私を見つめて言う。


「夏樹はずっとそう言ってたよね。私の事が分からないって。……私もずっと、夏樹の事が分からなかったよ。理解しようと思ったけど、できなかった」


 悠衣は空虚そうに言ったあと、アドベントカレンダーを指さす。


「開けて」

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