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京都・恋のダイヤグラム  作者: 北大路京介


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第一章:東西線と鴨川線のすれ違い

1. 青海京太郎、地下鉄の哲学

烏丸御池駅のホームは、いつも正確に空調が効いている。


青海京太郎(21)は、秒針が12時を指すのと同時に到着した東西線に乗り込んだ。


「定刻。誤差、ゼロコンマゼロ秒」


彼は心の中で呟き、都市計画学専攻の学生らしく、手帳に記されたその日のタスクリストにチェックを入れた。効率、正確性、そして無駄の排除。それが京太郎の信条であり、彼が愛してやまない京都市営地下鉄の美学だ。


「恋愛だって、目的地が分かっていれば最短距離で着くはずなのに」


大学のゼミで出た「京都における若者の恋愛の非効率性」という課題レポートのテーマが、彼の頭をよぎる。


窓の外を覆うのは、漆黒のトンネル。景色がないからこそ、思考が研ぎ澄まされる。京太郎にとって、地下は「雑念のない思考空間」だった。


2. 赤堀けい子、鴨川のロマン

一方、地上。鴨川のほとりを縫うように走る京阪電車。


赤堀けい子(20)は、窓に頬を寄せて流れる景色を眺めていた。水面がきらきらと反射し、遠くの山並みが連なる。彼女は京阪特急のプレミアムカーに座っていた—別に急いでいるわけではない。ただ、この車両の座席と、車窓から見える風景に「自分だけの時間」を感じたかった。


「人生は、遠回りしないと美しいものが見えない」


国際文化学を専攻するけい子は、人生観をそのまま電車の選び方に反映させていた。彼女にとって、地下鉄は「景色を諦めた人のための箱」だ。


「ねぇ、電車って、生きてる証みたいじゃない?川沿いを走るときはドキドキしてるし、トンネルに入る前は深呼吸してるのよ」


けい子は隣の空席に向かって、独り言のような独白を始めた。


その日の目的地は、京阪の終点、出町柳駅。そこからさらに先、ロマンの終着点とされる「叡山電鉄」に乗るためだ。


3. 接点:叡電「きらら」号での衝突

出町柳駅。地下から這い上がり、京阪と接続する叡山電鉄のホーム。


けい子は、展望車両「きらら」の最前列に陣取った。窓いっぱいに広がる新緑、まるで絵画のようだ。


「うわぁ、綺麗…」


けい子がカメラを構えた瞬間、背後から無感情な声が割り込んできた。


「そのアングルでは、電線の反射光が入ります。焦点距離をあと2センチズーム、露出を半段下げてください。ちなみに、この路線の沿線は断層の真上。地質学的に見て、この場所の崩落確率は年間約$0.003%$です」


振り向くと、そこにいたのは、正確に計算された位置でカメラを構える、冷静沈着な青年、京太郎だった。


けい子:「…え、なに、いきなり。崩落確率って、なんでそんなこと言うのよ。私は今、この生命力溢れる緑に感動してるのに!」


京太郎:「感動は非生産的な感情です。この路線の車両の構造を鑑みると、崩落確率を認識することは、安全な移動の効率を高めます。情緒は、移動手段の本質ではない。」


けい子:「情緒がない電車なんて、ただの鉄の箱よ!あなた、景色を見て何にも思わないの?!」


京太郎:「私は構造と機能を美と感じます。あなたが愛する京阪も、結局は都市の移動インフラの一つです。情緒は乗り物の飾り付けです。」


けい子は、京太郎のあまりの論理的な冷たさに言葉を失った。まるで、ロマンを愛する自分と、効率を愛する地下鉄が、初めて地上で衝突したような感覚だった。


4. 六角レイナからの謎かけ

その晩、けい子と京太郎は、別々の場所でテレビを視聴していた。


流れていたのは、旅番組の特別企画。レポーターを務めるのは、知的な歴史マニアとして知られる六角レイナ。


(レイナ):「さあ皆さん、ここ京都の嵐電沿線、非常に面白いミステリーが隠されています。実はこの路線のどこかの駅に、『恋が始まる暗号』が隠されているんです。ヒントは、『効率とロマンが一つになるとき、それは出現する』…さて、皆さん、分かりますか?」


画面に映し出されたのは、嵐電のレトロな車両。


けい子:「嵐電…。京阪からじゃ遠いけど、景色はいいのよね」


京太郎:「嵐電?地下鉄東西線を使えば、太秦天神川駅から効率的に乗り換え可能だ。しかし、恋愛の暗号とは非論理的だ。」


けい子は、京太郎の論理では解けない「ロマン」の謎に興味を惹かれた。


京太郎は、自身の論理が通じない非効率的な「謎」の存在自体に、強い違和感を抱いた。


二人の異なる動機が、彼らをもう一つの路面電車、「嵐電」へと導くことになる。


「嵐電は、けい子と京太郎にとって、単なる乗り物ではない。それは、互いの価値観を試す、ロマンと効率の交差点だった。」

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