馬鹿じゃない無能なだけの王子の婚約者選定の話
「マーク殿下ぁ、アルテシア様が、私をいじめます。グスン、グスン」
「ほお、そうか」
今、私の前で男爵令嬢がプルプル震えている。
アルテシアとは公爵令嬢だ。
それは大変だ。
「分かった。先生達に話して、イジメ対策委員会を招集して中立派閥の学生に調査をしてもらおう」
「え、殿下、アルテシア様に注意して下さらないのですか?」
「しないよ。だって、アルテシアとは親戚になるからね。私だって中立派ではない」
「もういいです!」
あれ、男爵令嬢が怒って逃げて行った。
まあ、いいか。私には関係なくなった。
あれ、猫が木に登っている!
それを救おうと令嬢が木に登っているぞ!
と、ここで『危ない!』と声をかけると危ないと婆やが言っていた。
集中力を切れ落ちてしまう。
降りてから叱るのだ。と婆やは王宮の木に登っていた私に言っていたな。
そして、もし、落ちたら。
「キャア!」
猫はハラリと回転して着地したが、令嬢が落ちていく。私はちょうどキャッチ出来る位置だ。
私は落ちてくる令嬢を思いっきり突き飛ばした!
「エイ!」
「キャアアー!」
令嬢は芝生の上をコロコロコロ転がって行った。
元騎士の爺やに聞いた。木から落ちたら、受け止めるよりも突き飛ばした方が良いのだ。
受け止めたら、下手したら両方怪我をする恐れがある。
令嬢は擦り傷だけだろう。
と私はそのまま王宮に帰った。
王宮では兄上たちが口論をしていた。
「アルテシアは私と婚約を結ぶのだ。財力で幸せにする」
「低俗だな。僕は芸術が得意だ。芸術好きのアルテシア嬢は僕を選ぶね」
素通りする。
私は眼中にないらしい。
成績も中の上ぐらいだ。学園内では無能王子と呼ばれている。
ある日、父上と母上に呼ばれた。兄上たちと一緒だ。
「これより。アルテシア嬢とデートをしてもらう・・・各自のプランでもてなしてもらおう」
「ええ、そうよ。3人の中から選ぶと言っているわ。選ばれた王子が実質、王太子になるわね」
アルテシア嬢のロマス公爵家は財力と名声ともにあり貴族派の筆頭だ。
王権の安定のためにも、アルテシア嬢に王妃になってもらいたいらしい。
向こうはせめて3人の王子の中から選ばせて欲しいとのことだ。俺は拒否をした。
「「望むところです!」」
「あの、拒否できますか?」
「マーク、出来ませんわ」
とデートをすることになった。
長兄は政務を担当し、それなりの力がある。
次兄は芸術サロンに出入りして知名度がある。
俺は学園生だ。そういや、アルテシア嬢もそうだが、同学年、2年生だったな。
淑女科なんて交流ないし、私は王子なのに領地経営科だ。
伯爵家に婿入りしてのんびりすごしたい。
長兄からデートが始まった。護衛騎士が警護し女官が付き添い記録を取る。
「アルテシア様、レストランを借り切りました。夜は劇場を借り切りオペラの鑑賞です」
「はい、ゲオルト殿下、宜しくお願いします」
中々だったらしい。
次に、次兄は、美術館を貸し切り。お抱えの絵師に解説をさせながら美術鑑賞だ。
これも、中々なものだ。
私は、幼少の頃、遊んだ中庭に招待をした。
木々がそびえて小鳥がさえずる。
我ながら良い所だ。
「さあ、アルテシア、準備しました」
「・・・マークシミリア殿下、メイドはいらっしゃらないのかしら」
「婆やの孫、マーシーがついていますが、今日は突然具合悪くなりまして、私が用意しました。お茶とケーキです。アルテシア嬢、お茶を入れて下さい」
「私がお茶をいれるのですか?」
「ええ、その代わり、給仕は私がします」
「まあ・・・では女官の方に・・」
「女官は記録の仕事があるでしょう?」
今日はウサギが出るかなと思ったが。
「ギャア!ギャア!」(エサ、落ちてないかな!)
アナグマが出やがった。動物は可愛いものだが、こいつは許せない。
農家さんが作った美味しいイチゴを狙う害獣だ。
顔が小憎たらしい。
「ハハハ、あれはアナグマです」
「はあ、そうですね」
デートは散々な結果に終わった。
しばらくたったら、母上が言う。
「マーク、アルテシア嬢は貴方と婚約を結びたいそうよ」
「そうでしょう。最低な評価だったと思いますよ。だって・・・・はい?」
思わず聞き返した。
「何でだよ。アルテシア嬢、頭おかしくなったのか?」
「それがね・・・」
何でも兄上たちは、長兄はレストランの支配人と使用人たちに威張り散らし。
次兄は、美術館で自慢話ばかりをしていたそうだ。
「アルテシア嬢にお茶を入れさせた・・・これぞ、王族たるべしと公爵も大喜びよ」
「はあ・・」
「貴方は使用人を名で呼んでいたでしょう。感銘を受けたそうよ」
「アルテシア嬢は、頭おかしいのか?」
「これ、失礼ですよ」
これは断れないか?兄上たち、奮起しないか?
しかし、長兄は、男爵令嬢と近づき。次兄もどこかの令嬢とお近づきになった。
あの顔、どこかで見た事がある。
アルテシア嬢にいじめられていると相談した男爵令嬢と、猫を助けようとした令嬢だ。
「マークシミリア殿下、いえ、マーク殿下と呼んで宜しいでしょうか?」
「アルテシア嬢!」
背後にいた。
「アルと呼んで下さいませ」
彼女は説明をしてくれた。
「低位貴族令嬢の間では、ハプニングを起して、高位貴族の殿方とお近づきになり。宜しい関係を築いて、富を得ようとする不届き者がおりますわ。
マーク殿下は見事にかわされましたわ。カゲから報告が上がっておりますわ」
「え、それは面倒臭いからだよ」
「フフフフ、ご謙遜を、デートの日もメイドを休ませましたわ」
「それは、風邪がうつったら嫌だからだよ」
「まあ、そうやって善意を隠すのは嫌みになりましてよ」
扇で口元を隠し優雅に笑っている。その黄金の金髪と橙色の瞳は神秘的な美しさだ。
「あのさ。私はつまらない人族ですよ・・・」
「実は私もつまらない女ですわ」
もう、何を言っても無理な状態になった。
流されて見るかと思う私がいた。
最後までお読み頂き有難うございました。