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第八話 烈始

「ガチャン」

二人が影淡荘の中にある部屋に戻ると、すでに卓が用意されていた。

同卓するであろう沈黙の支配者(サイレンサー)高店狙い(ハイポイント)が座っていた。

その卓の横に、天乖が立って見ている。

「…来たか」


友希は部屋の中央に立ち止まり、卓に座る二人をじっと見つめる。

沈黙の支配者(サイレンサー)は黙って正面の一点を見つめたまま、まるで呼吸すらしていないかのように微動だにしていない。

その横では高店狙い(ハイポイント)が軽く指で牌を触りながら、薄い笑みを浮かべている。

「準備はいいか?」

天乖が二人に問いかける。

「やるだけさ」

張は淡々とした声で答える。

友希も深く息を吐き出してから、椅子を引いて腰掛けた。

「ここまできたんだ。伝説になるかもしれない対局、見届けさせてもらうよ」


「いいだろう」

天乖は一歩下がり、卓を囲む四人に視線を送った。

「ルールは昨日張が戦った店と同じだ。だが、今回は半荘二回で決めてもらう」

「そして、“バレなきゃ何をしてもいい”。だが、負けたらどうなるかは、わかっているな?」

張は天乖の言葉に一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに口元を歪めるように笑った。

「負けるつもりはない。勝つだけだ」

友希は無言で天乖に軽く頷き、視線を卓に落とした。

「では、始めるとしよう」

「天鬼杯出場券、特別試練。開局!」

天乖がそう言うと、部屋の中に張り詰めた空気が広がった。


四人が席につき、準備が整う。

天乖が賽を手に取り、静かに振り下ろす音が室内に響いた。

「ガチャン」

対局の幕が上がる。


『東一局 0本場 親:沈黙の支配者(サイレンサー)

この卓はラス親でスタートした。

静寂が室内を支配する。

配牌が配られ、四人がそれぞれ自分の牌を確認する。

張は手元の牌を見て、軽く息を吐いた。

悪くない。

むしろこの場においては十分すぎるほどの形だった。

『一面子 一雀頭 二向聴』

頭の中で手を進めるプランを素早く描く。


一方で、沈黙の支配者(サイレンサー)は全く微動だにせず、配牌をじっと見つめているだけだった。

その姿には何か異様な威圧感があった。

「…」

張は相手の捨て牌を見逃さないよう、視線を鋭く卓に向けた。

友希は隣で静かに牌を整理しながらも、時折緊張を隠せないように手がわずかに震えていた。

とてつもなくやりにくい相手だ。

沈黙の支配者(サイレンサー)の捨て牌には特徴がない。

動きにすら特徴が見えない。

だが、それが逆に恐ろしかった。

完全に無駄を排除した打ち筋は、意図を読み取ることすら困難だ。


そして、もう一人──高点狙い(ハイポイント)

彼は楽しそうに指を軽く弾きながら、時折微笑むように牌を切っている。

最初の捨て牌から高い役を狙っているのが見て取れる。

あの捨て牌、初心者で役も知らないような打ち方だ。

注意深く観察しながら、最初のツモに手をかける。

最初のツモ牌は三索。

早速手が進む。

張は冷静に不要牌を切り、相手の動きを観察し続ける。


数巡後、依然として卓上に動きがない。

張の目は卓上に集まる牌を追いながら、冷静に場の流れを分析していた。

数巡が経っても、沈黙の支配者(サイレンサー)は何の感情も表情も見せず、機械のように淡々と打牌を続けている。

その捨て牌には一貫性がなく、狙いを見極めることができない。

あまりにも無駄がない河だ。

この相手には、場の情報を奪われるどころか、存在感すら感じさせない。

まさに“沈黙”そのものだ。


一方で、高店狙い(ハイポイント)は捨て牌にわずかに特徴が出ていた。

場に萬子の中張牌が多く捨てられている一方で、筒子と索子は手元に残しているようだ。

高い手を狙っていることは明白だった。


友希の方を見ると、今までにないくらい緊張した様子だった。

だが、河はかなり冷静だ。

だが、硬い表情から彼女もこの空気に飲まれているのが分かる。


場が膠着する中、沈黙の支配者(サイレンサー)がツモを終えた。

彼はゆっくりと手を動かし、河に牌を置く。

そして、張にツモ番がやってきた。

この空気感を打破するべく、張は手に力を入れる。

張は牌を握り直し、慎重にツモに手をかける。

そしてその一枚を見た瞬間、心の中で静かに叫んだ。

『来た…』

手に入った牌は五筒。

これで聴牌が完成した。

「平和 ドラドラ」

充分すぎる手だ。

張は間を置かず、発声をする。

「立直」

その声に、友希と他の二人が一瞬反応する。卓上に初めて動きが見えた瞬間だった。

卓上にはまだ一枚も見えていない。

『確実に和了できる…!』

張はそう感じた。

だが、張が立直をした瞬間、思いもよらない声が飛んでくる。

「ロン」

発声をしたのは沈黙の支配者(サイレンサー)だった。


「…は?」

張は咄嗟にそう言葉が漏れた。

そんな驚嘆している張を横目に、沈黙の支配者(サイレンサー)は点数申告をする。

「平和 一盃口 ドラ1 7700」

開幕からとてつもない力を感じる和了となった。


『東一局 一本場 親:沈黙の支配者(サイレンサー)

開幕から手痛い和了をされ、早速ラス目のなった張だ。

だが、沈黙の支配者(サイレンサー)がそう呼ばれる所以がわかったような気がする。

さっきのあいつの待ちは三、六筒。

その待ちで立直をしないことは普通ありえない。

ならば、沈黙の支配者(サイレンサー)はおそらく立直をしない麻雀を打つはず。


配牌が配られた。

さっきと比べるとかなり悪い。

三向聴。

しかも間チャンだらけだ。

聴牌できるかどうかすらも怪しい。

そう考えながら第一打を親が切る。


友希は慎重に打っているようだった。

だが、その中には恐怖が紛れているように見えた。


高店狙い(ハイポイント)は相変わらず第一打から飛ばしているようだった。

早速中張牌を切っている。


数巡後、流石にいまだに動きはない。

沈黙の支配者(サイレンサー)が相変わらず河に特徴は見えない。

友希や高店狙い(ハイポイント)も同様だ。

特に変わり映えがしない。

手牌も一向に進まず、膠着状態だった。

そんな中、高店狙い(ハイポイント)が動きを見せる。

「なあ、張さん?だっけか」

高店狙い(ハイポイント)が張にそう聞く。

「…」

張は無言を貫く。

「あんたは表だと最強だったかもしれない。だが、ここでは違うぞ?」

「ただの少し強い一般人だ」

高店狙い(ハイポイント)がそう捲し立てる。

だが、そんなのに聞く耳を張は持とうとしない。

挑発に乗ってしまったら最後、流れをそのまま持ってかれて死ぬだろう。

それは見て取れる。

「…そう簡単には乗らないか」

高店狙い(ハイポイント)からの話を聞きながら、山から持ってきた牌を張は切る。

「その威勢、どこまで続くか見ものだな」

高店狙い(ハイポイント)が山からツモる。

次の瞬間、まさかの声が飛んでくる。

「立直」

高店狙い(ハイポイント)がまさかの立直をした。

特徴を読み取るに、おそらくかなり高い手だろう。

河からも見て取れる。

このターン、高店狙い(ハイポイント)に和了されるとさらにラスが近づく。

なんとしても阻止するしかない。


高点狙い(ハイポイント)が立直を宣言した瞬間、卓上には張り詰めた空気が流れる。

張は彼の河をじっと見つめる。

流石に特徴がモロに出ている。

河には索子で埋め尽くされている。

萬子か筒子の清一色や混一色を狙っているのが明白だった。


友希は高点狙い(ハイポイント)の立直を受けて、動揺を隠せない様子だった。

おそらく、実際に打ったことがあるからこその動揺だろう。

立直直後の捨て牌にもそれが現れており、手出しで六索を出していた。

沈黙の支配者(サイレンサー)も同様に、手出しで手牌を崩している様子だった。

この二人は高点狙い(ハイポイント)の危険性をよくわかっているらしい。

明らかに不利な戦いだ。

張も、卓上の異常性には流石に気がついていた。

おそらく、天乖の狙いは張を試すことにあるのだろう。


そうして、張のツモ番がやってきた。

慎重に山へと手を伸ばす。

持ってきた牌は九索。

なんとか現物を持ってくることができ、そのまま河に投げる。

緊張の高点狙い(ハイポイント)の最初のツモがやってきた。

高点狙い(ハイポイント)が山に手を伸ばし、牌を手の中に包み込むようにする。

そして、その瞬間が訪れることとなった。

「きたぜ…」

「ツモ」

高点狙い(ハイポイント)の口からそう告げられた。

卓上に高点狙い(ハイポイント)の牌が倒される。

そして、裏ドラを捲る。

乗らなかったが、かなり高い。

「立直 一発 自摸 混一色 七対子 ドラドラ 倍満だ」

「4000 8000」

やはりかなり痛い和了だった。

これをサラッと出すあたり、底知れない力があることは明白だろう。

張は点棒を高点狙い(ハイポイント)に渡し、次局に続いていく。


『東二局 0本場 親:友希』

前局、高点狙い(ハイポイント)が倍満を和了し、さらにラスの可能性が高まった。

どこかのタイミングで状況を打破するような展開を作らないといけないが、まだ高点狙い(ハイポイント)沈黙の支配者(サイレンサー)の癖がわからない以上、仕掛けることは到底できない。

機械でない以上、絶対に崩せる隙はあるはず。

だが、そんな隙を探している間にも差を広げられるだろう。


そう考えているうちに、友希が慎重に第一打を打った。

おそらく、この対局において友希は傍観者的立ち位置であることを推測すると、全力で和了しにくることは考えにくいだろう。


数巡が過ぎ、場に変化が見え始める。

沈黙の支配者(サイレンサー)の河は依然として無機質で、意図を掴ませない。対して高点狙い(ハイポイント)の河は中張牌が増え始めている。

清一色か混一色を狙っている可能性が高い。

友希の捨て牌は安全な字牌や端牌に偏っており、守りに徹していることが明白だった。

彼女の手が進んでいるかはわからないが、少なくとも攻めに転じる様子はない。


場の緊張がじわじわと高まる中、ついに高点狙い(ハイポイント)が動きを見せた。

張が九索を河に捨てた途端、高点狙い(ハイポイント)が発声する。

「ポン」

ドラでもない初牌の九索を鳴いた。

まだまだ序盤でこの鳴き。

明らかにおかしい。

まだこの鳴きでは断定はできないが、下手したら清老頭ちんろうとうを和了する可能性もある。

この鳴きで、場はさらに緊張感を帯びた。


他者もかなり警戒しているようで、河に並ぶ牌がかなり防御寄りになっていた。

それは張も例外ではなく、聴牌に向かいつつも保守的に打っていた。


そうして何も起きないまま、対局が終盤に向かっていくかと思われた。

だが、河が3段目に差し掛かる寸前に、高点狙い(ハイポイント)がまた動きを見せる。

「カン」

まさかのタイミングでの暗カン。

高点狙い(ハイポイント)が卓上に暗カンされた牌を見せつける。

『一索』

卓上の雰囲気がさらに凍りつく。

そして、嶺上牌を高点狙い(ハイポイント)が取る。

手から出てきたのは白だった。

ドラ表示牌がさらに増え、新たにドラになった牌は一萬。

「ふっ…」

かなりまずい展開になってきた。

今の笑みは、おそらくドラを重ねて持っていることを暗示しているのだろう。

しかも手出しの白。

聴牌をしていてもおかしくないだろう。

「なあ張さんよ」

張が思考を巡らせていると、高点狙い(ハイポイント)が話し出す。

「まだ本気じゃねえだろ」

ドスの聞いた声が卓上に響き渡る。

「見てりゃあわかんだよ」

張はその声を無視する。

今までの挑発的な声色とは違い、玄人として見ているような様子だ。

「観察だけじゃ勝てない」

「よく知ってることなんじゃねえのか?」

高点狙い(ハイポイント)がさらに続けて話す。

「それが、落ちぶれた理由だ」

高点狙い(ハイポイント)はそう言い放ち、予想だにしない発声が飛び出る。

「ツモ」

高点狙い(ハイポイント)が手牌を倒す。

「純チャン 三色 ドラドラ」

「2000 4000」

高点狙い(ハイポイント)がそう申告する。

完全に場は高点狙い(ハイポイント)に支配されている。


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