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第四話 闘門

張は伏籠街を探索することにした。

時間的には深夜だが、まだまだ人通りが絶える様子はない。

改めて周りを見渡すと、様々な建物が混雑しあっていた。

 麻雀、丁半、花札など種類は様々だ。

正確な建築をしていないせいか、建設されて間もないであろう建物も寂れた雰囲気が出ている。


どこか異常な雰囲気を感じる街だ。

どこからともなく聞こえてくる声は、叱責、怒号、失笑など様々だ。

許しを乞う声も聞こえてくる。

「この街で眠るのは負け犬だけだぜ」

 張が散策しながら歩いていると、建物の壁に寄りかかる男性が話しかけてきた。

今にも消えそうな煙草を口に咥えていた。

「兄ちゃん、見ない顔だな。新入りか?」

張は一瞬その男を見つめる。

鋭い眼差しの中には、挑戦的な雰囲気を醸し出していた。

「どうだろうな。そう思うかは、お前の判断に任せる」

 張は挑発的な態度をその男に向ける。

「ほう。気の利いた返しするじゃねえか、兄ちゃん」

 男はそう言うと、煙草を地面に捨てて靴で踏み潰した。

「あそこに行ってみな」

 男は近くにある建物を指差す。

張は男の指差す方向を見やる。

 寂れた建物の看板には『雀荘 闘千とうせん』と書いてあった。

「『新入り』にはちょうどいいと思うぜ」

小馬鹿にされているように感じるが、歓迎もされている雰囲気も感じる。

「ちょうどいいってわけか」

 張は腕試しのために、その寂れた建物へ向かう。


「ちょっと待ちな」

 張が足を進めようとすると、さっきの男が話しかけてきた。

「文無しだろ」

 張は困惑の表情を男に向ける。

「ああ、そうだが何か問題が?」

「大アリだ」


「この街で負けたらどうなるか知らないなんて、本当に新人ルーキーらしいな」

 男はそう言ってポケットから札を取り出した。

「ほらよ」

 男は手の中にある数枚の札を張に手渡してきた。

 だが、それを張は拒否するように男の手を跳ね除ける。

「はあ…」

 男は目線を下に落とす。

落胆したように見えたが、男は負けじと張の手に強引に札を渡してくる。

「意地張るなっての」

 張はその気迫にやられ、男の札を受け取る。

手元を見やると、ざっと6万ほどはあるだろうか。

「いいか。そいつはタダでやるもんじゃねえ」

「あの雀荘で生き残って、勝ってこい」

 張は頷くことなく、その足で雀荘へ向かう。


雀荘の近くまで行くと、中の熱気が外まで伝わっている。

薄暗く光る中はあまり鮮明には見えないが、人で賑わっているのは感じ取れる。

張は雀荘の扉をゆっくりと開く。

「ガチャン」

 中は鳴きの発声や打牌する音が鳴り響いている。

「客かい?」

 カウンターにいる店員が張の方を見てそう話しかけてくる。

「ああ」

 張は暗い声でそう言った。

「じゃあ場代3000円な」

 張はさっき貰った金を渡す。

「釣りは7000円だな」

 張は店員から7000円を貰う。

「今は満卓だから、そこにある椅子に座ってな」

張は言われるがまま、空いている椅子に座る。


「お客人、あそこ空いたぜ」

 張はボーッと店内を見ていると、店員に話しかけられた。

店員の方を見ると、奥の卓を指さしていた。

 張は無言で立ち上がり、奥の卓まで歩いて行った。


「…よろしくな」

 張は卓に座る。

「よお、見ねえ顔だな」

 短髪で顔に傷がある同卓者が話しかけてくる。

「新入りか?どっから来たんだ?」

 男の隣に座る、細身で眼鏡をかけた中年の男が興味深げに口を開く。

その声色には挑発というよりは好奇心が滲んでいた。

「関係ないだろ」

 張は淡々と答える。

無駄な会話を避けるように、卓上に散らばる字牌を集めた。

「まあまあ、固いこと言うなよ」

 最初に話しかけてきた短髪の男が、笑いながら腕を肩に乗せようとしてくる。

その笑顔の裏には、相手を値踏みするような冷たさが隠れている。

張はその手をキッパリと跳ね除ける。

「俺はここに“勝負まーじゃん“をしにきているんだ。無駄な会話はいらん」

 張はキッパリと言った。

(チッ…)

 短髪の男の舌打ちが小さく聞こえた。

「ここは腕っぷしだけじゃやっていけねえ街だ。話くらいして場を和ませねえとな」

 眼鏡の男が続けた。

「そういうのは勝ってからにしてくれ」

 張は鋭く言い返し、牌をじっと見つめる。

その瞬間、卓を囲む空気がわずかに張り詰めた。

「気合い入ってるじゃねえか。面白い」

 短髪の男が肩をすくめながら、手の中にある賽をコロコロと回す。


「まあいい。勝負でお前の“素性”を見せてもらうとするか」

 眼鏡の男が静かに微笑みながら言った。

「じゃあ、始めよか」

 短髪の男がそう言った。

そうして対局が始まって行った。


場決めと山積み、親決めが終わる。

卓上のヒリついた雰囲気が身体中を駆け巡る。

『東一局 0本場 親:短髪の男 ドラ:八索』

 張は西家スタートと言うかなり微妙な滑り出しだ。

イカサマはおそらくバレないだろう

 だが、それは同卓者であるこいつらも同じだ。

友希の説明をそのまま解釈すると、こいつらも玄人とゆうことになる。

 十分気をつけて対局していかなければならない。


張の第一ツモがやってきた。

「こつっ」

山牌同士がぶつかる音が、張には聞こえる。

 張は静かな所作で牌を山からとる。

『九萬』

第一ツモは九萬だった。

手牌はまだまだ先が見えない。

 だが、これは無限の可能性を秘めていることの裏返しだ。

張は北を手牌から出し、九萬を手牌に組み込む。


数巡後、まだまだ卓上で何か起こる気配はない。

その間に、張は着々と和了までの駒を進めている。

すでに二向聴だ。

 イカサマを使えば、すぐにでも聴牌ができる形だ。

だが、卓上には同卓者の睨みが効いている。

 安易に山や河に手は出せないだろう。

『運は確実に追い風に来ている。このままいけば…!』

 張は山に手をかける。

ツモ牌をそっと置く。

 持ってきた牌は八索。

これで手が進んだ。

『断么九 ドラドラ 一向聴』

 チーやポンの鳴きでも完成できそうな手牌だ。

張は九萬を河に捨て、八索を手牌に入れる。

 その瞬間、卓上で動きが見える。

「ポン」

 対面である短髪の男が鳴いた。

おそらく、張の表情を見ての行動だろう。

「ちっ…」

 張はそれにいち早く気づき、舌打ちを漏らす。

「お前も早いのかもしれんが、俺はその上を行かせてもらう」

 短髪の男はそう言い放ち、卓上に牌を叩きつける。

出てきた牌は四筒。

 張はその捨て牌で短髪の男が狙う役が分かった。

おそらく、純チャンだ。

 短髪の男の河には中張牌や字牌が多く並んでおり、么九牌が一切出ていない。

しかも九萬の鳴き。

 警戒していかなければいけない。


短髪の男の鳴きから数巡。

特に卓上に動きがなく、安易に聴牌をすることができた。

『二、五萬待ち 断么九 ドラドラ』

あまりにも静かすぎる。

立直をかけるのが億劫になる程だ。

だが、この場の静寂は嵐の前の静けさと妙に似通っていた。


短髪の男の手出しと捨て牌は相変わらず一貫していて、純チャン狙いの形が濃厚だった。

しかし、攻撃に転じるタイミングを見計らっているようにも見える。

一方、眼鏡の男は捨て牌が防御的で、明らかに安全策を取っている様子だった。

張はリーチをかける選択肢を頭に浮かべたが、この場の緊張感を考慮し、敢えて口を閉じたまま静かに様子を伺うことにした。

そして、不要牌を河に捨てる。


そのとき、短髪の男がようやく動きを見せた。

「ポン!」

再び大きな声で宣言し、場の空気を変えるように勢いよく牌を叩きつけた。

鳴かれた牌は一索。


張はその動きを冷静に見る。

「さあ、ココからが“ゲーム《しあい》“だ」

 短髪の男がそう言う。

卓上の静寂は、じわじわと緊張感に包まれていった。



短髪の男の二度目の鳴きから、場は徐々に熱を帯びてきた。

張は静かに呼吸を整えながら、卓上と手元を見つめている。


短髪の男がツモ牌を手に取る仕草には焦りが滲み始めている。

「ッチ…」

短髪の男は八索を卓に叩きつけるように捨てた。


その捨て牌を見た張は心の中で密かに笑みを浮かべた。

「何笑ってんだよ。あ?」

 短髪の男がガンを飛ばしてくる。

一色触発な雰囲気が出る。

張は冷静に男の方を見る。

「こんなんでキレてたら、体力持たないぜ」

 張は煽りとも取れる言葉を言い放つ。

その瞬間、卓上には冷酷な空気が流れこむ。

「てめえ、この卓でぶっ飛ばしてやる」


数巡が過ぎ、眼鏡の男が口を開いた。

「さて、私もそろそろ動いてみるかね」

軽い調子で「チー」を宣言し、場を掻き乱すように牌を並べる。

この男もただの観客ではないはのは確かだ。

だが、今更もう遅い。


張は再び静かに山に手を伸ばした。ツモ牌を指でそっと滑らせて取り上げる。

手の内にある牌はニ萬。

その瞬間、張の心は静かに燃え上がった。

『…来た! 』

張はツモった牌を卓上に置くと、静かに口を開いた。

「ツモだ」

短い言葉が卓上に響く。

その言葉と共に手牌を倒す。

「はあっ!?」

短髪の男が驚愕の声を上げる。

眼鏡の男も興味深げに眉を上げた。


「断么九、ツモ、ドラドラ、――満貫だ」

短髪の男はしばらく張の手牌を凝視していたが、やがて忌々しそうに舌打ちをした。

「くそっ…こんな手で…!」

眼鏡の男は薄く笑みを浮かべながら拍手をするように両手を叩いた。

「いやいや、大したものだ。見事な腕前だよ」

そんな言葉をかき消すように、短髪の男が眼鏡の男に睨みを効かせる。

「黙ってろっ!」


張は表情を崩すことなく、淡々と点棒を受け取った。

「…これが俺の勝負だ。無駄口を叩く暇はない」

短髪の男は悔しげに拳を握りしめたが、それ以上何も言わなかった。

張は次の局に備え、静かに牌を整える。

『今のを連続で出すことが玄人としての力だ』

『ここからどう勝ち抜くかが本当の腕の見せ所だ』

卓上には再び緊張感が漂い始める。

張は微かに笑みを浮かべながら、新たな戦いへの準備を整えた。


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