エンドロールはどんな味
「人生のエンドロールに流す主題歌は何がいい?」
唐突に賢木からそんな質問を投げられて、俺はなんて返答したらいいのかわからなくなった。
「……なんだそれ、どういう意味? ってか、唐突すぎ。いきなりなに?」
戸惑う俺の顔を見て、賢木は微笑んでいた。
「唐突だったかな、ごめん。矢野はさぁ、考えたことない? 自分の人生の終わりに相応しい主題歌。あ、葬式で流したい曲とかじゃなくて。そういうの考えるのも楽しそうだけどさ」
「……楽しいか? ソレ」
「楽しいよ! 矢野にはわかんないかー」
戸惑ってばかりの俺に対して、賢木はただ楽しそうに笑っていた。
「……まあ、でも、エンドロールには、楽しげなダンスポップみたいなのがいいかな」
俺がそう言うと、賢木は嬉しそうに顔を上げた。
「その心は?」
「……いや、なんとなく、だよ。悪いか?」
「悪くないって! 真剣に考えてくれて嬉しいよ、俺は! やっぱり矢野はわかるやつだな!」
俺は心の中で(わかってねーけど)と呟きながら、賢木の嬉しそうな顔を眺めていた。
「賢木は? エンドロール、どんな曲を流したいんだ?」
「俺か? 俺はなー、壮大で優雅なクラシックみたいな曲もいいし……厳かって言うのか? そういうのも悪くないけど、派手にパーッと楽しく騒いで踊れるような……ダンスポップも悪くないよな! 悩むぜ……! でも、エンドロールだからな、曲だけじゃなくエンドロールとして流れるモノにも注目したいよな……文字だけなのかとか、映像も流すのか……」
「……なぁ、賢木、この話っていわゆる走馬灯のことじゃないよな?」
賢木は一瞬キョトンとした。
「いやいや、違うって! 俺が言いたいのは、人生にエンドロールがあったら、って話! ……いや待てよ? 矢野が言うように、走馬灯ってそういうモノなのかもしれないな? いや、違うんだよ。走馬灯って死の間際に見るなんかなんだろ? 俺が言いたい人生のエンドロールはさ、死んで、全部が終わって、その後になんか流れるとしたらー、みたいな……?」
「……わかんねーけど、わかったわ」
「……そうか? なら、まあ、いいけど。矢野はどんなエンドロールがいい?」
「俺は、そうだな、文字だけじゃなくて写真も流れてほしいかな。賢木はどうなんだよ?」
「俺はー……」
そうして、そんなくだらない話を延々しながら、俺たちの夜は更けていった。
〈了〉
「エンドロール」をテーマになにか短文を書きたかった話です。