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18 王都への報告

 オリバー・フォン・ウェルドは魔獣対策隊長のフミヤーンと共に王宮に参内していた。王宮にはオリバー以外にも主要な領主や大臣が参集されている。ウェルド領を同時多発的に襲った魔獣襲来事件は王国中に広まり、事態を重く見た宰相(さいしょう)が緊急招集したのだ。


緊急会議が始まるまでの間、オリバーは応接室で領軍のまとめた報告書に目を通していた。暖炉の前でドカリと椅子に腰かけてヒソヒソと話し始めた。

「フミヤーン、帝国が魔獣を操っていた証拠は他に見つかったか?」


「いいえ、決め手となるような証拠は残されておりませぬ。魔獣から出てきた謎の金属片、双頭鷲の紋章が刻まれた短剣が全てでしょうな。しかし、帝国は本当に魔獣を操る技を持っておるのでしょうか…」


「わからぬ。魔獣を人が操ることなど聞いたこともないが、この目で魔獣の首から金属片が出てくるのを見た。ヒイログマとアクアウルフから同じ物が出てきたのだ、偶然と呼ぶには不自然に過ぎる。」


「魔獣除けの祠が爆破されていたのも帝国の仕業でしょうなぁ。何年か前にもアーク帝国はパナ共和国の道路を爆破して小競り合いを起こしてますからな…あの国の目的がわかりませんな。」


「アーク帝国は周囲の国に小競り合いを仕掛けてセコセコと領土を拡張している。武力を背景にやりたい放題だ、腹立たしいが今の我々には正面から帝国を打ち負かすだけの力がない。」


二人が話していると、ノックもなしに扉がガチャリと開いた。揃って扉のほうを見ると、橙色の髪をオールバックにした中年の偉丈夫(いじょうふ)が応接室に入ってきた。

二人がハッとした顔で立ち上がろうとすると、その偉丈夫は片手で制した。

「よいよい、そち達が来ていることを聞いて立ち寄ったのだ」


「陛下、そういうわけには参りませぬ」そう言ってオリバーはフミヤーンと共に椅子から立ち上がると片膝立ちになり、右腕を胸に当てる臣下の礼をする。


「ガハハ、久しいなウェルド卿。魔獣に関する速やかな報告と参内、大儀である。」

そう言うとオリバーの背中をバシバシと叩く。この力加減が分かっていない男こそ、ミグ国王イルミナイト3世である。橙色の髪と豊かなアゴ髭を蓄えた、いかにも頑丈そうな中年だ。身長は190cmほどで分厚い胸板に印象的な真紅のマントを羽織っている。国王というよりも剣闘士のような見た目をしている。


「陛下、お久しぶりでございます。ノックもなしに部屋に入ってくるなど…心臓が飛び上がるかと思いました」


「む?この部屋は魔力を遮断する結界が張ってあるのだったな。失念しておったわ!許せ!」

豪快に笑いながら悪びれもなくオリバーの肩に手を置いた。国王は見た目通りの開放的な性格をしていたが、それは全く変わっていないようだった。


王宮の応接室の多くは盗聴を防ぐために魔力遮断の結界が張られているのだ。この部屋も魔力遮断がされているので、中で密談をしても外に漏れることはない。その反面、魔力感知が出来ないため気配察知が困難となっている。


「ウェルド卿、貴殿のおかげで王宮内の虫がハッキリしたからな。まぁ会議の時に分かるだろうから楽しみに待っておれ。」


「穏やかではないですな。領主を全員集めた緊急会議など聞いたことがありませんから、何かお考えなのだろうと思っておりました。」


「まぁ、政治も一筋縄(ひとすじなわ)ではいかぬのよ。ところで貴殿の妻君が懐妊されたそうだな、宮中でも噂になっておる。男児であればウェルド領も安泰であるな!」


「ええ、ありがとうございます。娘が生まれてから13年、思いがけない幸運で妻と喜びを分かち合っております。息子でも娘でも、子宝でありますからどちらでも良うございます。」


「そちはそう言うがな。今年の暦は“火の蛇”である。火蛇(かじゃ)生まれの女子は男を(たぶら)かす悪女になるというではないか。男児のほうが貴殿も安心できるだろう。もし必要なれば宮廷の祈祷師(きとうし)に占いをさせるから、遠慮なく言うがよい!」


「はは…ありがたきこと。」


どうやって国王との会話を切り上げようかと思案していると、開いている応接室の扉がノックされた。

「陛下、こちらにいらしたのですな…探しましたぞ!」

疲れた顔の痩せぎみの男が入ってきた。


「おお、ボイラー卿。どうした?まだ会議は始まらんのだろう?」

「主要な役職の者は全て参内しましたぞ。陛下の準備が整えば会議が始まります」

「ガハハ、そうかそうか。では戻るとしよう、ウェルド卿またな。」そう言うとイルミナイト3世はノシノシと部屋を後にした。


「はぁ…困った国王陛下だ。」

「ボイラー卿も大変ですな。宰相になってから随分とお痩せになったのでは?」

「ウェルド卿、久しぶりですな。陛下にいつも振り回されております…悪気が無いのがなおさら困るのですよ…。はて、ひょっとして陛下が何か失礼なことを言っておりましたかな?」


「あぁ、暦が火蛇の年だから娘が生まれると良くないと言われておったのです。」


「それはそれは申し訳のないことを。陛下に悪気は無いのですが迷信を信じておるのです。陛下の母君が火蛇の生まれでしてな、キツイ性格のお方でしたから、それはそれは苦労されたのですよ。」


「いえ、気にしてはおりませぬ。いまだに火蛇の女の迷信を信じてる者は我が領にもおりますからな。」


「ともかく、もう少ししたら緊急会議を始めますのでウェルド卿も応接の間においでください。領内の事件を卿から皆に話していただきたい。」


「わかりました、我々も向かいましょう。」


そう言うとオリバーとフミヤーンは立ち上がって宰相のボイラー公爵の後についていった。ボイラー公爵は40半ばのはずだが、実年齢よりも20は老けて見える。国王のむちゃぶりに苦労しているのだろう…。

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