同窓会のとあるお話 ー恋バナが始まって空気になるー
この物語はフィクションです。実際の人物・団体等には一切関係ありません。
成人式を終えた日の夕方。
俺、日暮亮吾はとある居酒屋に来ていた。中学の同窓会に参加するためである。
かつて仲の良かった友人たちと同じテーブルで会話を楽しんでいた時、一人の友人が唐突に切り出した。
「踏み込んだ話をしていい?みんなは今恋人いる?」
その質問に「いるよ~」と軽く答えた人は少なく、ほとんどが言葉を詰まらせた。
無論、俺もその内の一人である。
「今はいないなー。」
酒の入ったグラスを手に取りながら、井村はそう呟いた。
井村は俺と中学生時代に仲が良かった友人の一人である。昔はぽっちゃりとした体形をよくいじられていたものだが、今はすらりとした手足と整った顔立ちが目を引く美形である。再会した時には、声を聞くまで誰だか分からなかった。この数年で何があったのか。
井村は続けてこう言う。
「職場が同じ人と付き合ってたんだけど、この間別れてさ。」
「どうして別れたの?」
恋人の有無を尋ねた友人が聞いた。こいつ切り込むなぁ。
「付き合って一か月くらいで、相手に合わないって言われた。」
井村は気にしているそぶりもなく、淡々と答えた。
「一か月で何が分かるの…?」
井村の向かい側に座っていた友人が、驚愕しながらぼそりと呟いた。俺も同意見である。
それに対して、井村は表情を崩さずに言う。
「わかるんじゃない?職場での自分しか相手は知らないし。そういうギャップ感じたんだと思う。」
お、お前…。いつの間にそんな大人になっちまったんだ。
同じテーブルにいる友人たちの中で、最も達観した恋愛観を持っているのは間違いなく井村であろう。
同じ月日を経ているはずなのに、ここまで俺と違うのか。少し寂しい気持ちになる。
「付き合うのも大変だけどさ、相手を見つけるのも大変じゃない?」
井村の隣に座っていた坂東が言った。坂東も中学時代に仲の良かった友人である。
坂東の言葉にその場にいた大半の友人が頷く。俺の向かいにいる斎藤に至っては、頭が取れるのではないかと心配になるほど何度も頷いている。
「斎藤とか、昔からモテてたから出会い多そうだけど。」
井村の言葉を受けて、斎藤は「全くない」と悔しさを噛みしめて言った。
「あまりにも出会いがないから二次元に走ったけど、最近は二次元にときめくのも虚しくなってきた。」
え、二次元にときめくのって虚しいことなん?
俺は生粋のオタクである。昔も今も二次元にときめきっぱなしである。
そっか…。虚しいのか……。
ダメージを受けている俺に気づいた人は誰もおらず、斎藤の「あー、恋人欲しい――」という声だけが響く。
かつて気が合った友人たちも、時間が経てば価値観も考え方も成長して、合わない部分も生まれてくる。それを受け入れて、自分の中のその人のイメージを刷新することも、大人になるために必要な事なのだろう。
俺はウーロン茶を飲みながらそう思った。