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忌憚なき意見
AIが人間のよきパートナーになってはや数年。
日常の会話、議題の検討、論文の添削、あらゆる言葉を交わす相手に人はAIを選んだ。
感情を持つ人間に訊くよりもより正確に、AIはあらゆる情報から最適な回答を示す。
男もまた、自身の書いた小説について意見を交わすべくPCの向こうにいる相手に
向かって言葉を打つ。
「この小説について意見を聞かせてほしい」
字数は3000字ほどの短編小説だ。
データを読み込んでいるのか、すぐには返事がなく男はしばらく画面をじっと見つめて待った。
画面から言葉が返ってくる。
「はい。この作品は人間の矛盾した感情が機微に描かれており、ミステリーでありながら
人の心を揺さぶる描写が美しい小説です」
あらゆるデータから弾き出されたかのような温度のない回答。画面の向こう側の存在は、男がどんな反応を示すのか、試している。
違うよ、と男は困ったように笑う。
「人間の君の忌憚なき意見が聞きたいんだ」