第五話 異端児
よく考えたら、あれはこの世界での分岐点だったのではないか? と思う。この世界にきて、熊に襲われて、リリアと出会って、魔法学院に入って、現在に至る。あの時、あの場所、あの時間、あの瞬間、俺が魔法を使えていたら、こういうことにはならなかったのかもしれない。いや、ならなかったのだろう。
クラスのみんなが、リリアが推薦してくれたというだけで、勝手に期待して、そして勝手に失望していく。失望、それは望みが失うと書いて失望。だれかを期待しているからこそ起きるから、失望。俺は、この世界で何を期待されていたんだろう。この世界で、俺は何を期待して胸を高鳴らせたんだろう。
周囲の眼が俺を見ては逸らす。
魔法が使えなかったあの授業。その一瞬の時間で、全てが一瞬にして崩れ落ちた。
あの眼は知っている。軽蔑、いや、侮蔑している眼。自分とは違うと認識して、近くに近づかないように牽制している、そして、近寄らせないためにしている。
この世界、この学院、生徒、授業、ランク、そして魔法。化物が普通に住んでいる世界。科学が発達している世界。魔法が使える世界。科学と魔法。未来と過去。
科学が発達した世界に魔法が何故ないのか? 魔法が発達した世界は何故科学が発達していないのか?
それは、いたって簡単なことだ。人間は空を飛んでみたい、だから最初に気球というものを作った。でも、それでは物足りず、もっと早く飛びたいから飛行機などの物を作り上げてきた。
でも、この魔法がある世界では、魔法を覚えれば空を飛べるし。火だって起こせる。つまりは、何かを作り上げなくても科学が発達する必要が無いというわけだ。
魔法。人々がこうだったらいいな、と作り上げてきた世界観。例えば、火を使う、空を飛ぶ、水を出す、魔法で戦ったり、魔法で生活を便利にしたり、魔法で何でもこなせちゃう世界。そんな世界に俺がいる。この世界にいる。人々の妄想、人々の空想、もしかしたら、俺はこの世界にいるのは夢なんじゃないかと思う。だが、周囲から聴こえてくる声。
「ねえねえ、聴いた? リリア様が推薦してはいった人の話。ファイアーボールの授業でなにもできなかったみたいだよ」
「あ、それ知ってる。まったく、なんでこの学院にはいれたんだろうね。この学院に入ってファイアーボールできない人とかはじめてみたよ。しかもその人Aクラスだったんでしょ? だったら私だってAクラス入れちゃうんじゃないの?」
だよね~と二人の女性徒が笑って談笑している。そんな声の数々、クラスにいたら周囲の目が痛くてすぐ飛び出してきた。その時リリアの声が聴こえた気がしたするけど、なにかの間違いだろう。
人の噂というのは、すぐ広がっていく。人の噂。人から人へ伝わっていく。
「おいおい聴いた? 今日の魔法実習でさあ――」
伝わっていく。
「ねえ、聴いた? なんとあのリリア様が推薦した――」
自分のことを異端児とみなして伝わっていく。
「おい聴いたかよ今日、魔法の実習あったみたいなんだけど、そこでさ――」
みんなに伝わっていく、まるで水の波紋みたいに。
あぁ……。これは悪魔からの試練だったのかも知れない。
あいつを殺して、あいつのためにおれはこの世界にきた。でも、あいつってだれだ? この世界に何で来たか記憶はある。今でも鮮明だ。でも、あいつが思い出せない。思い出そうとすると、頭が拒絶しているみたいに、急に頭痛や吐き気がする。
どこも、かしこも人がいる。その話題となったら俺の話題。俺が魔法を使えなかったという話題。だれもいないところに行きたい。だれも人がいないところに。
そう思いながら歩く、すると階段をみつけた。この上からは声も聴こえてこない。のぼってみる、すると、上に行くにつれて声が聴こえなくなってきた。人がいないということだろうか? もう少し上へ行ってみる。いや、少しといわずいっそのこと一番上まで行こうか。
階段を駆け上がる。自分がだせる最高のスピードで駆け上がる。するとそこには扉がある、邪魔だ。俺を行く手を塞ごうとする扉なんて邪魔。開けよ。そう思うと扉が開いた。よし、このまま突っ切ってやる。
辺りを見渡す。そこに見えるのはこの世界の風景。木々や草花、建物などいろんなものが見える。そこには屋上。そしてそこにはある人物が……。
「やあ。確かハルキ……だったかな?」
金髪の小年がいた。