第二話 学院と俺と悪魔
ある者は常に孤独だった。
それは、まだ光も何もないころの話。
闇の世界の中で、ある者は願った。
『もっと俺のような意志のあるものがほしい』と。そしてその者は光を創った、大規模による大爆発を起こして。光を、世界を、そして生き物でさえも創った。
そしてその者は、のちに創造神と崇められた。
世界にはその世界の生き物がいて、生き物は独自の文化を育てて生きてきた。
魔法がある世界、科学が進んでる世界、まだ恐竜が滅びてない世界、そんな世界などがいろんな星で、いろんな場所で、さまざまの文化を広げている。
そして、その世界の場所には神がいる。その世界を管理する神が数々の世界にいる。でも、けして管理しているからといって、その世界のことに手を出したり、滅びそうだからといって手助けをしたりなどはしない。あくまで神たちは、その世界を見届ける。
それは、つまりまだその者は孤独だったっということ。せっかく創った世界なのに、孤独になりたくないから創った世界なのに、干渉することを次々と神々に止められる。
『うるさい! お前らは俺が創った者だろ、だまれ!』
そいつは叫んだ。自分の寂しさ、孤独を訴えかけるかのように――。
叫んで、吠えて、狂ったかのように。神々は止めようとするが、止められるはずもない。なにせ、その者が我々を創ったのだから。親に勝てる子がいるのだろうか? いや、いるのであろう。いるのであろうが、創った主は構築したのだ。けして、自分に勝てないように、自分よりも強い力を持たないように……。
そして、創造神は世界に降りた。自分が今まで長い年月をかけて望んだ世界、その世界に、たった一人で神は世界に降り立ったのだ。
☆ ☆ ☆
あれからというもの、俺はリリアに連れられて広い一室に来ていた。
そこにいるのは、ふくよかでやさしそうな目をした女性。その女性が俺を一瞥すると、リリアを見てちょっと困ったような表情で頭を掻いていた。
「それで、リリアさんはこの男性をこの学院に入学させたいというのですか?」
「はい、学院長。確かに入学式はもう終わっており、手続きなどが難しいと分かっておりますが、無理を承知でお願いします」
「まあ、そんなに難しいことではないのですがねえ。幸いまだ学院が始まって一週間も経ってないことですし、そこのところは問題ないのですが」
まあ、それが当然だろう。どこから来たか分からない得体の知れないものが学校に入りたいと言っているようなものなのだから。
そこで、学院長と呼ばれた女性が立ち俺の方へとゆっくりと近寄ってくる。
「ハルキ・イチハラさんでしたっけ。この方がどうもCランクのモンスターを倒したとは思えませんが、リリアさんがそう仰るんですからね。間違いはないのでしょうが……」
俺の脚先から頭まで、じっくりと見ながらすこし苦笑気味に笑っている。確かに俺は細い肉体だし、魔法が使えるとは見えないだろう。おまけにそんな男がリリアが証言しているといっても、Cランクのモンスターを倒したと言っているのだから、学院長にとっては俄かに信じがたい話だろう。そんな渋っている学院長に見かねてかリリアが口を開く。
「まあ、学院長。そんな難しく考えずに、まずは魔力を図ればいいじゃないですか。この学院は魔力があって望むのであれば入れる学院なのですから」
「………まあ、いいでしょう。他でもないリリアさんの推薦ですし、そんな難しく考えなくてもいいのでしょうか。ただし、魔力がちゃんとあったらの話ですからね」
眉間にシワをよせて難しそうな顔をしていた学院長であったが、リリアの説得(?)に負けて、やれやれという表情をしながら手を仰いでいる。
学院長を屈せさせるリリアって一体……。
そんなことも思わなくもなかったが、そこは気にしたら負けなのだと思う。
「それでは、ハルキさん。この石を強く握ってください」
「これはいったい?」
そこに渡されたのは、ひとつの赤い石だった。奥まで見えるその純粋で燃え上がるようなその色は、俺がいた世界でたとえるとルビーが近いのかもしれない。
「これは魔法適正、身体能力など、つまりあなたのステータスを測るものであり、それに加えてこれから自分に見合った武器や魔法具などになる石でもあります」
「ちなみにわたしのはこの杖、それに魔法適正はSクラス、身体能力はCクラスくらいかな。まあこれはあくまで潜在能力であり、いまのわたしの実力とは関係ないんだけどね」
はあ、肩を竦めて首を横に振るリリアが目に映る一方、いったいいつ出したんだと問いたくなるようなリリアと同じ背丈並みの杖が左手に持ち出されている。
……それに魔法適正Sクラスって。
この世界のこと――いやそれ以前に、その基準とかなんもわからない俺であったが、クラスとして最高のSクラスというとこは一体何人に一人いるのだろうかと思ったりもしなくもないが、学院長の苦笑いしている表情を見ると規格外であるのだろうと目にもわかるような気がする。
はは、と俺も苦笑しつつ「ほら、はやく」と、リリアに急かされながら握ろうとする俺の光景は、傍から見るときっと情けないとかそんな風に移っているに違いないと思う。
これが俺がこの世界での一歩目なんだなぁ。
その思いを胸に、強く握り締める。
すると、光が輝き始める、自分の存在を強く主張するような輝き。その光は、強く輝いているのに全然眩しくなんかなくて――なぜか凄く暖かかった。
☆ ☆ ☆
そこは、何もない真っ白な世界。
あたりを見渡しても、その白い世界の果ては見えず、その先には何も存在などしていない。存在などしていないのだ。
そしてこの感じは――
『よう、また会ったな』
そう、この頭に直接話をかけてきていると感じるこの感じは……。
「まさかまた会うとはな、悪魔」
『おいおい連れないこというなよ』
突然俺の前に出現してくるその声の主は、俺と同世代の小年と思わせながらも、背中に黒い翼が幾多にもあり、その姿は悪魔と呼べるものだった。
『どうだ、異世界ライフはとても愉快なものだろう。見たこともない世界に、化物と呼ばれるにふさわしい魔物などなど。退屈などはしないんじゃないのか?』
クスクスと笑いながらいう小年。
その姿に俺はなにか癪に障るのだが、その原因がわからない。
暫くすると、突如笑いが消え――、
『……なぁ、人間この世は退屈だ』
背筋が凍るような声だった。
今までいたずらが成功した子供のように笑っていた小年。
それがこんなにも怖いと思うのは……。
身体がうまく動けない、呼吸が乱れて息が苦しい。これがこの悪魔ということを実感させるような……、そうこのものには一生叶わないという身体の警告してるように頭が鳴る。
『おれはお前に力を与えた、そしてお前は覚えていないが望みも叶えた。お前の望んでいた願いはちゃんと叶えたはずだ』
そう、俺と悪魔は契約をした。
ある日を出来事を境に、俺は自分の罪悪感を無くすためにこの悪魔と契約をしたんだ。今は名前も、人柄も、性別も、なにもかも覚えていないが。あいつを助けるためにこの悪魔と契約を結んでこの世界に飛ばされた。
『さて、力も望みも叶えたおれを失望させるなよ』