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平凡の日々から異世界へ  作者: 琥珀
~第一章~
1/6

プロローグ 俺と幼なじみと悪魔

 あれは、突然のことだった。そう、ほんと突然のこと。あの頃は何もかもが平凡で、そんな日常が何よりも幸せなものだとは思わなかった。いつの日か鬱陶しいと思っていた幼なじみの存在も、こんなに大切ものだったとはな。


 なあ里香、お前は今でも楽しそうに笑っているか?


 そう、ほんと突然だった。幼なじみが――俺の恋人の里香が事故にあうとは思いもしなかった。今だからわかる。失ってからわかる大切さってやつを。


 ☆ ☆ ☆


 高校生活に入ってもうそれなりに経ち、ある程度慣れてきてからは、ごく普通にだらだらと過ごしてきたある日のこと。俺はただ平凡な毎日を送り、何の変わり映えのない生活を過ごしてきた。まあこんなことを言っても、まだ十六年しか生きてきてないが、俺には長く思えた。そして冷めていた。なんで俺は生きているんだろうと思うほどに。

「晴樹!」

 部活も入らないで、いつもの通り家に帰ろうとしていたら、後ろから大声を出してきた里香に呼び止められた。

 里香というのは綾瀬里香。俺の幼なじみであり、年齢ももちろん同じ。身長は俺の肩に届くくらいで、髪型は腰あたりにかかる程度のロングへアーである。スレンダーな肢体で、顔立ちはまだ幼さが残るもののかなり整っている。まあ、とある生徒十人中九人はかわいいというと思う。残り一人は最初にホがついて最後にモがつく人でもいたのだろう。要するに美少女と呼べる人種だと思ってくれればいい。

 まあ、里香とは一般的には《幼なじみ》と呼べるものなんだろうが、実際には、里香だけが付きまとってきて、俺は別にいつまでも仲良しだ何だと言って遊んでもいないし、朝一緒に登校もしていない。まあ俺的には《幼なじみ》というよりは、いつまでも付きまとってくるやかましい奴としか認識していていなかったりする。最初は結構抵抗していたんだが、あまりにもしつこいことに降参。それ以降なにかと帰ろうとすると里香がこうやって呼びとめようとするのだ。まあ、いつものことなのでスルーの方向で。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

 構わず帰ろうと足を運ぶと、少し慌てた里香が小走りで俺の腕をつかまれた。

「なに、なんか用? なんもないんだろう、それじゃ」

 なにぶん構わずつかまれた腕を振り払って、颯爽と歩き始める。里香は勉強スポーツ料理その他色々なんでもできる。まあ、完璧人間…いや、ちがうな。一つだけ苦手物があったっけ。まあ、これはまた機会があったときでも語るか。

 そんななんでもできる里香であったが、何故かいつまでも俺にかまってくる。まあ、俺もこんな性格になる前までは一緒に仲良くしていたわけだが、そんな昔は過去にすでに置いてきた。おお、なんか今のって、なんかの伏線っぽいか? っま、わざとだけど。

 そんなことを考えながら歩くのは、もはや癖だ。こうして歩くと結構暇つぶしになるからお勧めだぞ、俺的には。そんなこんな語っているとまた里香に掴まれた。

「ちょっと晴樹、ちょっと話があるからついてきて」

 そんなことをいってグイっと力いっぱい腕を引っ張られて、おとなしくついていく俺。いっとくがこれは、けして同意したわけではない。先ほども言ったが里香はハイスペックな人間なのだ。当然と言っていいのかわからないが、男の俺よりも握力腕力瞬発力などのどの面に置いても優れているので、ついていくということしか選択肢がない。もし、今ここで振り払おうとしても絶対払えないだろうし、実際やったところで俺の腕が悲惨なことになるだだけだと思う。

「どこ行くんだ?」

「屋上」

 てなことで、俺は屋上に行くことになったらしい。

 とてとてと歩いていく里香に、おとなしくついていく俺。そんな俺達を見て、冷やかしの目を向けていく女子生徒の目に、羨ましそうに見てくる男子生徒の目。っていうか、羨ましそうならば変わってほしい! ……命の保障は出来ませんが。


 おくじょう【屋上】<名>屋根の上。また、見物の上に造った、人の出れられる平らのところ。「――庭園」 ※国語辞典より。


 まあ、屋上とはこんなところだ。放課後に屋上と聞いて甘い響きと思うやつらはテレビドラマや映画の見すぎだろう。あ、小説や漫画も追加で。

 今時、屋上に呼び出して告白とかするのかは微妙だし、最近はメールなどでする人もいるらしいから、屋上で告白は安直なのだろう。……多分。まあ所詮、人目に付かない所だったらどこでもいいのかな。

 そんなことはさて置き。いま大切なのは、放課後に何故こんな人目につかない場所に連れ出したもとい連行されたかが問題だ。まあ、俺が予想できるのは大きく二つ。一つ目はさっきもいった通り『告白』。だが、こんな今の俺は最低だと自覚しているからその可能性は低いだろう。昔だったらわからないが、とりあえず除外だ。二つ目は……まあ、あれだ。よく自分が気に入らないやつを人目につかない場所で――ってやつだ。俺的にはこれが最有力候補だったりするのだがいかんせん。いまの俺にとってはどちらとも困るのだが、できれば俺の予想のできないような三つ目があるといいな~、と儚い希望を持ってみる。………アーメン。

「どうしたの晴樹、そんな泣きそうな顔になって?」

「いや、なんでもない。……ところで里香、いきなり何なんだ、俺は忙しいんだが」

「どうせいつも早く帰ってからも何にもすることがないじゃん」

 いまこいつ、俺のこれからの予定を全否定しやがったな。実際その通りなんだけど。流石は幼なじみパワーといったもの何のだろうか、俺のこれらの日程を把握しているとは……ストーカーか?

「おいコラ! さりげなく私をストーカー扱いしない!」

 おお、みなさん。長年長く付き合っていると相手の考えていることが分かるらしい。でも、俺には里香の考えていることは分からないが、里香だからってことで納得しとくか。

「いや、しなくていいから。ただ晴樹の考えていることが顔に出ているだけだから」

 しまった、どうやら考えていたことが顔に出ていたらしい。……俺としたことが。まあ気を取り直して、もう一度里香にここに連れ出した意味を尋ねる。俺的には三つ目を希望する。

「……ああ、その事なんだけどね……。…えーと、なんていうのかな……あはは、ちょっと待てね、息を整えるから」

 急に里香が赤くなって深呼吸を始める。なんていうか、これじゃあこれから告白でもされるみたいな雰囲気だな。心なしか体もじもじしているし。俺的には二番目だと思ったが、どうやら違うらしい。しばらく経ってから、落ち着いたらしい里香がよしっと気合いを入れる。人の夢は儚い、よくいうものだよ。

「……それでね、晴樹。急にこんなところに連れ出して悪いと思っている、……ごめん。…でもさ、晴樹だって悪いんだよ。私が話しかけても無視してどっか行っちゃうし、それが私のせいだって分かっていても……正直つらい。……でも…でも! やっぱり諦めたくないから! 私のせいで晴樹がこんなにもなってしまったんだったら、どうしても自分が許せないから……。だからさ、晴樹。こんな、こんな私でいいなら……」

 そこで里香が一拍あける。その表情は見ている方がつらいものだった、自分の犯した罪をかみしめるような表情をしていたのだ。昔にあった五年前の出来事が俺の中のものをすべてを奪っていた。むしろ里香は被害者なのに、あの頃のまだまだガキだった自分のせいで、里香をこんなにも傷つけ、そして自分をも蝕んだ。

 ―――それなのに俺は。

「私と付き合ってくだ――「……いいから」……え?」

「……もう、いいから。…頼むから俺に構わないでくれ………」

 そう、彼女のせいではない、それは分かっている。分かってはいるが、どこかで許せない自分がいる。でも、理解していることもあり、彼女を鬱陶しいと思っても、拒絶はしなかったし。どことなく彼女と過ごしてきて悪い気っではなかった。

 だけど、心のどこかで彼女を否定してる。

「……あは、あはは。………そうだよね、やっぱり私なんかじゃ駄目だよね……。ほんと、迷惑だよね……ごめんね、もう晴樹に付きまとわないから……。余計な時間遣わしちゃったね……。………ほんとに、ごめん」

 今にも泣きそうな里香に表情に、俺は心を痛めた。ほんと、今でも泣きそうなのに堪えていて、なんとか笑顔で振舞おうとしていて、それでも痛々しそうで……。ほんとは俺が悪いのに、里香は何も悪くないって分かっているのにさ。。

 そんな里香を見て居られず、後ずさりをしたその時、足元に石でもあったのだろうか? 俺はその石に躓き、後ろのフェンスに体重がかかった瞬間。ガシャンッとフェンスと一緒に落ちて行きそうになる俺。どうやらフェンスのボルトが緩んでいたらしい。しかもここは学校の屋上であり、下にでっかい木が一本あるが、それでも俺は助からないだろう。ははは、やっぱり罰でも当たったのかな。

 そう思い目をつむる俺、そんな時。

「晴樹危ない!」

 里香が落ちそうな俺の腕を引っ張った。反射的にこちらからも腕に力を籠める。――だが、何がいけなかったのだろうか? 俺が強く里香の手を強く引っ張ったのかいけなかったのだろうか? 俺と里香の体の位置が反転し、屋上から下へ落ちて行くように見える。

 里香の体が、大木の茂みに吸い込まれていく。ものすごい音がする。木が折れていく音。骨が、肉が切れて行く音。――そしてガゴンッと、里香の頭が強く打ちつけられた。


 俺が急いで屋上から駆け下りてくると、そこには当然と言っていいべきか、人だかりができていた。そのものの中には、悲鳴を上げるものや、泣きだすもの。ただただ面白がって見ているものがいた。だが、誰ひとりとも里香に近づこうともしない。

「……ちょっと除けよ」

 前にいた男子生徒を引っ張り、里香のもとへ駆けつけていく。

「…………里香」

 それはもう、酷いものだった。足がありえない方向に曲がっており、わき腹の辺りからは内臓らしきものが見えている。そしてその辺り一面は、真っ赤な血で染められていた。その中を俺は、里香のもとへ歩いていく。ピチャッピチャッと血が跳ねる音が鮮明に聞こえた。

「……里香。……どうして、どうしてお前は俺を助けたんだよ! 里香にはあんな酷いことしてきたじゃないか! どうして! ………どう…して」

 里香を抱きかかえながら、どうして俺を助けた真似をしたのかと感謝というよりは、恨み事に近い感情で叫ぶ俺であったが、しだいに泣そうになって、堪えていたが、そのうちにただ泣くことだけになっていた。後悔と罪悪感で、俺の心を支配していく。

 どのくらいの時間がたったのだろうか。一分、十分、あるいは一時間だろうか? いや、はたまた、まだ三十秒にも満たなかったのかもしれない。ただ泣いているだけの俺の頬に、すぅーっと手が触れた。

「………晴樹? 泣いて、いるの? ……ま、た、誰かに、いじめられたんでしょう。まってて、すぐに、私が……たすけ、るから、晴樹は、だい、じょうぶだから……。泣か、なくて、いい、から。………あれ? …おか、しいな。体が、うごかないや……」

 途切れ途切れに聞こえてくる、里香の言葉に絶句する。どうやら里香は、幼かったころの俺と重ねているらしい。

「……晴樹、大丈夫、だよ。私は…いつ、でも、晴樹の、み、かた、だから……。……どんな、酷いことされても……私が、守って、あげるから………。…いつま、でも、一緒、だから……。………そしてね、晴樹…」


 ―――大好きだよ。


 里香がそう告げると、頬にあたっていた手が力なく落ちた。里香は喋っている最中、俺は一言も喋れなかった。里香との仲が良かった日々が鮮明に思い出し、今の自分に激しく後悔をした。里香が死んだ瞬間ただ一つだけ分かったことは、俺も里香のことが大好きだったということだった。


☆ ☆ ☆


『おい少年、少女を生き返えさせたいか』

 突然聞こえてきた声に、俺は周りを見てみると真っ白な世界。奥を見通しても間にも見えない。そこには何も存在していない――そう俺は《理解》した。

『少年、少女を生き返えさせたいか』

 再度声が頭に響いてくる。――ダガ、コトバノイミヲリカイデキナイ。

「誰だ!」

 周りを再度見渡す。だが、誰もいない。

『ここだよ、ここ!』

 目の前に現れたのは、俺と同じ位の年の少年だった。ただ違うのは、背中に漆黒と思わせる程に黒い翼が幾多にもあり、少し嬉しそうに顔に笑みを浮かべながら腕を組んでいた。

「悪魔か?」

『そうだよ。でも、あんまし驚かねーのなお前』

「生憎だが、俺はそんな所じゃないし」

『ん。それは、あの少女が死んだからか?』

「ああ、その通りだよ」

『好きだったのか?』

「死んだ瞬間に『ああ、俺って里香が好きだったんだ』って思ったよ。これが失われないと分からない大切さってやつか」

 その悪魔の問いに自嘲気味に嘲笑う俺がいた。そう、どうやったって里香は戻ってこない。生き返ってこない。その現実に目をそむけたくなるが、そうできない俺がいた。まだ、現実として受け入れたくない自分がいる。

 だが、次の悪魔が発した言葉に俺は絶句した。

『そ。じゃあ生き返えさせてやろうか』

 悪魔がニヤリと微笑んで俺に告げた。――思考が停止する。いま、コイツは何を言った? 里香を生き返させる、コイツはいま、そう言ったか? 

「出来るのか!」

 悪魔の肩をつかみ、つい大声を出して悪魔に尋ねる。

『うっせーよ、近くで叫ぶな。――ああ、出来るよ。って言うか、そのためにこの場所にお前を呼んだんだし』

「なら、やってくれ! 俺の出来ることならなんでもする。だから!!」

 その言葉を聴いた瞬間に再び悪魔はニヤリと微笑んだ。

『お前、何でもするって言ったな』

「ああ、魂でも何でもくれてやる。だから、だから里香は生き返させてやってくれ!」

『分かったよ。でも、その代わりお前には異世界に行って貰うぞ』

「…………は?」

『んだよ! なんだ、ダメなのか? だったらこの話は無しだ』

 さっさと行けというかのように、めんどくさそうに悪魔は手をこちらに向けシッシッと用が済んだとばかりにしている。

「いや、だめではないが……何故俺が異世界に行けと? 俺が知っている限りの悪魔だと、願いを三つ叶える代わりにその人の魂を喰うと云うものなんだが……」

『ん、ああ。そういえば昔にそんな悪魔もいたような気がするなー。んま、そんなもんただの娯楽でやっているようなものだし。だいたい、人間の魂を喰うのは結構上手いからなんじゃねーの?』

 ちなみに俺は喰ったことないと笑いながら答える悪魔。あまりにも想像していた悪魔のイメージが、ばらばらに砕け散って、さらにすり潰して粉々になった様なものなのだが、今はそれどころではないことに気づき考えをやめる。それよりも大切なのは里香だ。

『まあ実際、人間の考えるようなことの願いを叶えるにはそんな難しいもんじゃねーんだよ。所詮、人間っていうのは弱いものだ。魂が体という枠にあるからには逆らえないし、耐えられない。どんな意志が強いものでもじっくりといたぶっていけば必ず屈するし、それが体を必要とする生き物に関するものなら共通するものなんだけどな。

 まあ、だから人間は弱い。魂だけで生きていける悪魔や天使。ましてはその上位に立っている死神や神は、そんな弱い人間の考えるようなことの願いを叶えるのは簡単なんだ。例としてお前の願いは、あの少女を生き返させること。まあ、幸いまだ死んだばかりだから魂を捕獲するのは簡単だった。あとは、あの体を修復させて魂と合体させればなんてことはない。ああ、不老不死にもできるぞ。実際生き物が死ぬのってその臓器が機能しなくなったからだし、その臓器やその他を腐敗しないようにすればいいことだ。世界滅亡なんて造作のないことだし、世界征服はちょっと魂を弄れば簡単だしなー。後の願いなども大抵は同じだ』

 そこで悪魔が一拍置く。気だるそうに腕を組みながら、こちらをジッと見つめながら何かを感じったかのように口を吊り上げてさらに続ける。

『まあ、そこでだ。悪魔や天使、死神や神にとっては、人間のひとりやふたりの死なんてどうでもいいことなんだ。所詮この世は弱肉強食の世界。まあ、その点に置いては、人間は可笑しいんだがな。まあつまり、人間のひとり生き返させるくらい余裕だってことだ。でも、無償でやるほど俺たちもやさしくはない。っていうことでお前が言うように、願いを三つ叶えてから魂を貰うってことが出てきたんだろうがな。おっと話が逸れたな。年がら年中暇な俺が偶々ここら辺を飛んでいるとお前たちを見つけて、面白い魂の色をしてたんでしばらく見てたんだが、お前たちに興味を持ったんだよ。お前たち人間に、どれほどの力があるか。そこであの少女を生き返させる代わりに、お前に異世界に行ってもらおうという魂胆だ。なに、俺とて鬼ではない。あの少女を生き返させて、お前を異世界に飛ばして、はいお終いなんてことはしない。それじゃあ俺がつまらないからな。なに、異世界に行くものほんの一時的なものだ。まあ、異世界に行くにあたって、色々と細工をさせてもらうがな。お前がこの世界に戻るまでの間、お前はただ自分を見失なわなければいい。ただ、お前がお前でなくなったらどうなるか分からないがな。ほら、簡単だろう? どうだ、この話を受けるか否か決めるがいい。』

 悪魔が提案した内容が、俺の頭の中を支配する。つまり、こいつ提案は、何も俺へのデメリットがないってことだ。だってそうだろ? 里香が死んだ。俺が殺した。そう思ってもいいだろう。間接的にも、物理的にも。昔から、里香の気持ちを気づかなかった。いや、気づかないふりをしていた。それを知ってしまった瞬間、俺の中の何かが崩れてしまいそうで。里香のこと、何もかも許してしまいそうで。怖かった。唯でさえ失ったものが、さらに失いそうで……。だが、こいつは俺にチャンスを与えた。里香は蘇る、それは間違いない。俺が、どんなに努力しようとも取り戻せないものを、こいつは俺にくれるというのだ。これが里香に対する唯一の罪滅ぼし。

 

だからおれは、この提案を受け入れた。


 体が光で包まれる。だが、その瞬間頭に痛みが走った。声にならないぐらいの激痛。その痛みに俺は必死に耐える。頭の中に何かが失う感じ。そのなかの光が失っていく感じ。

 いやだ――。

『お前が異世界に行っている間、俺の力を使いお前とあの少女の記憶を封じさせてもらおう。なに、案ずるな。その代わり、あちらの世界の言葉と文字、あとお前の力を最大限まで上げてやるからな。まあ、お前たちの言葉でいうとチートってやつだな。聞こえていないようだな。まあ、せいぜい頑張るがいい』

 悪魔が何かを言っているようだが、俺はそれどころの問題ではない。必死に激痛と闘いながら、これ以上、俺の中で失わないようにもがく。突如光が見える。自分の頭から光が抜けていく、この感じはとても大切なものがなくなっていくような感じ。

 手を伸ばす。これ以上大切なものを失わないように、だが、次々と光は消えていく。意識が遠退いて行く。だが、俺はできるだけ光をつかみ取ろうとする。

 最後に見える小さな光、あれに向かって手を伸ばす。つかもうとする。でも、高く舞い上がって遠退いて行く。もっと手を伸ばす。高く、高く、高く。


 ――だが、そんな努力は虚しく光は一つ残らず消え去った。

 

 



 ~ちょっとした光景~


『ふむ、やっと行ったか』

『探しましたよ。まったく、勝手に出歩かないで下さいっていつも行ってるじゃないですか。まったくあなたのせいで私がどれほど大変な目に逢っているか……』

 ぽつりと呟く悪魔の声に、もうひとりの少年が現れる。その姿は、悪魔の姿とは正反対で、背中には、数え切れないほどの白い翼がついている。

『ああ、何だ神か。いや、ちょうどよさそうな人間がいたからな。ついさっきまで話してて、別な世界へ飛ばしたところだ』

『またいつものあれですか。どうせ今回のだって力に溺れてしまうに決まってる。まあ、私がいったところであなたが止めるとはおもわないが』

 やれやれといった表情で肩をすくめる神。その姿に悪魔は諭すように神にいう。

『まあまあ、今回のはちょっとまた違うんだよ。なんかよくわかんねーがそう感じたんだ。もしかしたら元の世界に戻れるかもしれないな』

『まったく、すべての頂点に立つお方がこの様では付いてくるものもついてこないですよ。しかも、また悪魔の格好になんか変わっていないで、もとの姿に戻ってください』

『えー、だってつまんねーじゃん。この姿は結構面白いぞ。どうだ、お前もやってみないか?』

『そんな芸当できるのはあなただけです。そんな規格外と一緒にしないでください。精々できて外見年齢を変えるくらいです。ほら、さっさと帰りましょうねー』

『おい、こら、ちょっと、俺は一番偉いんだぞ。そんな俺をそんな扱いしていいのか? おい、きいてるか? おーい』

『はいはい、聞いてますよー。ですから早く帰りましょうねー』

『お、おざなりだー!』




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