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3.そして事件は起こった


 結論から言おう。


 失敗しました。


 ラノベ、マンガ、アニメはいわゆる娯楽だ。残念ながら鍛えることはできない。人より読書の速度は速いし、語彙力も同世代の平均よりはマシだと思う。でもそれくらいだ。生来のドジな性格は変わっていないらしい。それは俺の右手人差し指が今まさに証明している。





 残り四分を切り、落ち着きを失っていた俺は自販機の値段表記、つまり寿命が書かれているあたりを指差しながら加護と寿命を猛スピードでチェックしていた。

 確認した限りではあるが、寿命は数ヶ月取られるだけで済むものから、最大だと五百年取られるものがあることがわかった。五百年とかもう普通の生き物は無理だろ。御神木とか、名前忘れたけど無限に生きられるクラゲとかに転移してこないと押せないレベルだ。


 また、全体の8割くらいは売り切れだった。どれだけ人気なんだよ。同時にふと、ある不安が頭をよぎったが、すぐにかき消す。


 今は能力を選ばないと。


 時間がないので全部に目を通してはいないが、残っているもので比較的使えそうな加護をふたつ見つけた。

 ひとつは『糸マスター』で『糸を自在に操れる』というもの。糸使いって強そうなイメージだし、寿命も『3年』でお買い得な気がする。

 もうひとつは『超回復』で『自分の怪我が早く治る。四肢欠損も再生する』という、どんな世界かわからない場所には役立ちそうな回復の能力。引き換えになる寿命は『7年』でやや多いとは思うが、それでも回復できるなら安い。



 そして事件は起こった。

 あと一個くらい候補を探そうと思って、再度指差し確認をしながら能力を探していたときだ。


 ピッ、という本当に現実世界の自販機でジュースを買ったときのような音がした。



 そうだね。


 もうわかるね。



 うっかり押しちゃった。



「え?」


 血の気が引くとはこのことだ。こんなことは人生で初めてだった。部長のパソコンにコーヒーをかけたときだって俺は堂々としていた。「なんで堂々としてるの? お前おかしいよ」と言われたのも今となってはいい思い出だ。そのときよりもだいぶヤバい。


 よくわからないけど自分の意志とは無関係に振り返って時間を確認する。タイマーはあと1分程度残っていた。





 というわけだ。


 運が悪い。いや、運じゃないな、完全に俺が悪い。


 どんなに知識を持っていても、こういうドジを踏むだけで台無しになるという話でした! おわり!


 ってわけにはいかない。何を俺は押したんだ? 寿命が百年とか取られるやつだったらもうここで終了だ。


 視線を自販機の方へ戻す。俺の右手人差し指ががっつりひとつのボタンを押している。少しだけ上を見る。


『寿命1ヶ月』


 まずは一安心。いきなり死ぬということにはならないらしい。だが安心と同時に『1ヶ月』に引っかかる。


 安すぎないか?


 もちろん寿命を取られるのに「安い」なんてありえない。おかしいこと言っているのはわかる。わかるけど加護のレベル的には、取られる寿命が長いほど強い能力、短いほど弱い能力という傾向は間違いなくあった。


 恐る恐る目線を上へ運ぶ。


「トーキングフェアリー」、おしゃべりする妖精ってことか。続きを読む。「妖精が話し相手になってくれる。寂しくない」


 話し相手? 寂しくない?


 い、い、いやだあああ!!


 もっと実用的な能力がほしかった! 話し相手って! 元々俺はひとりでいることの方が好きだし。ひとりでラーメン屋も映画館も焼肉店だって入れるのに! 寂しくても死なないよ。

 話し相手なんて無駄以外の何者でもなくないか?



 いや待て。


 もしかしたらその妖精がかわいい女の子かもしれない。人間サイズまで大きくなって一緒に冒険できるかもしれない。大体一緒に旅する転生者や転移者のことを好きになってくれるだろうから、その妖精も俺に惚れてくれるかもしれない。毎日の旅が楽しいものになるはず。それならがんばれる気がする。


 あるいはその妖精がとんでもない魔力を秘めている可能性もある。俺がピンチのときに覚醒して、「実は大魔法使いでした」みたいなパターンもどこかで読んだことあるぞ。そしたらラノベ界でよくある「外れスキルが覚醒したから無双します」ってルートに入れる。


 なんか大丈夫な予感がしてきた。マンガとかアニメとか観てなければこういう結論には辿り着けないだろうな。


 落ち着いて考えたら、外れスキルこそ実は最強ってこと多いもんな。むしろ中途半端に強いスキルを選ばなくて良かったかもしれない。妖精ちゃんと一緒に世界を救うなんて悪くないな。いや、辺境でスローライフも捨てがたい。妖精ちゃんの能力で立派な建物を造って、俺の現代の知恵で商売で大儲けして。


 ピピピッ、と電子目覚まし時計のような音が鳴る。妄想しているうちにタイマーが0になっていた。


 大丈夫。異世界で俺は世界を救えるしハーレムも作れる。


 音が鳴りやんだ直後、急に頭痛がしてきた。自分の部屋にいたときと同じような猛烈な痛みだ。徐々に遠くなる意識の中で思ったのは、なぜか無限に生きるクラゲの名前だった。


「あ、ベニクラゲだった。なんでこう今はどうでもいいってことばかり思い出すんだろうな」



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TIPS

 女神様の部屋にある貼り紙などはすべて日本語で書かれています。異世界転移のゲートを設置したのが女神様で、ゲートの範囲が日本全域だったのです。転移者のほとんどが日本人になるため、日本語で準備したというわけです。


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