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広島さっき隊  作者: 成実 恵梨
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さつき、初勤務

 翌朝、さつきは研究所内部へと案内された。研究所内部は無機質な感じだった。まさに研究所という感じだ。さつきが配属されたのは第4班と呼ばれる部署だった。ここでは病原菌に関する抗体の研究が行われていた。さつきはここで勤務する研究チームのサポートをする係だった。部署の責任者は黒石と言う男性だった。40代だろうか?少しエリートのような感じがするタイプだ。研究者とはこういう雰囲気なのだろうか?とさつきは考えた。


 さつきの勤務時間は9時から12時、13時から16時。午前と午後に別れていた。研究所内部は様々な薬品が置かれていた。顕微鏡、ビーカー、テーブルの上には様々な資料。全て淡々と作業が行われていた。さつきは呼ばれて資料を運んだり、研究後のテーブルを拭いたりと言った単純作業がメインだった。事前の担当者の説明通り、特段複雑な作業は求められなかった。さつきは気になり、スタッフの一人に「これは何の薬品なんですか?」と質問をした。しかし、スタッフは何も答えなかった。どうやらおしゃべりは駄目らしい。


 そのうち休憩時間になった。スタッフたちは一斉に持ち場を離れた。そして休憩室へ向かう。さつきも昼食の為に向かった。そこにはたくさんの研究員たちがいた。それぞれ自由におしゃべりをしながら食事をしている。さつきは空いている席に座った。今日のランチは牛焼き定食だった。誰かが言った。「ここの牛肉、最高級の肉なんだよ」という言葉がさつきの耳に入って来た。最高級の牛肉?それって・・さつきはゴクッと唾を飲み込んだ。さつきは牛焼き定食を注文した。ステーキ6切れとポテト、サラダ、みそ汁、ライスである。食費は会社が全額負担なので無料だった。さつきは「こんな豪華なランチ、本当にいいの?」と思い申し訳なさそうに食べるのだった。


 午後1時から仕事が再開された。午前と同じく資料整理やテーブルや床の清掃をする。黒石チーフは不在だった。さつきが資料の1つを手に持ってみると数式や薬品名が書かれていた。もちろんさつきには何も理解できない。「一体どんな研究が行われているのだろう?」と首をひねるさつきだった。


 16時になり、本日の勤務はここまでだった。仕事が終わった職員たちは研究所から足早に去っていく。さつきも部屋に戻ろうとした。さつきはスタッフの一人に話しかけた。「ここでは一体どんな研究が行われているんですか?」スタッフの一人が答える。「なんだい、君。何も教えてもらってないのかい?」と言われ、さつきは「はい」と素直に答えた。「そっかあ、君は新人さんなんだね。ここは秘密の研究所だよ。」さつきは思わず「秘密の研究所ですか?」と質問し返していた。秘密の研究所?何それ?疑問が生まれる。彼は続けて答えた。「そう、ここは秘密の研究所だ。政府のね。」「政府の秘密の研究所がこんな広島県にあるんですか?」とさつき。「そう、政府の極秘の研究所だ。政府の極秘研究所は他にもあると訊いているけど、ここは重要な研究所だよ」と彼は言った。


 さつきは驚いた。政府の極秘の研究所ならなぜ午前一時に集合したのか、電車が真っ黒で外が見えなかったのか、移動する黒い車とナンバープレートの件も納得できる。事前の身元調査もここから出るのに許可が必要なのも、全て合点が行った。ここは政府が極秘で管理する施設だったのだ。さつきは何も知らなかった。父はそのことを知っていたのだろうか?と思った。そしてさつきはきっと父は事前に聞かされていたのだと確信した。もちろん証拠はない。


 さつきは続けて質問した。一体、ここでどのような研究が行われているのかを。彼は答える。「ここでは生物の細胞から摘出したDNAの研究と、細胞を組み合わせたクローン生物の再生。各動物の遺伝子配列の操作とニューヒューマノイドの生成だ」と言った。さつきは目の前が真っ黒にはならずポカーンとしていた。意味が理解できなかったのだ。そんなさつきに彼は笑って言った。「ああ、ごめん。難しすぎたね。簡単に言えば細胞の研究と、新しいタイプの人類を造るんだよ。地球だけじゃなくて、宇宙でも生きていける生物を創造することを目指しているんだ。未知の生物を造る過程で病気にもなるから、病原体と抗体を検査しているわけ。ここ第4班はそういう部署だよ。」彼の説明にようやくさつきの頭が追いついた。さつきは何となくここでの状況を把握した。しかし、さつきにはショックが大きかった。


 彼は言う。「ほら、戦争中に存在した研究部隊ってあったじゃない?あれは戦争中という敵対する国家が存在したから出来た事なんだよね。それって特殊な時代でしょ?でも今はそういう状況じゃない。敵対する国家なんて存在してないじゃん。だから細菌兵器なんて作る時代遅れの事はしないよ。だけど、人間の進歩って誰にも止められない。遺伝子操作で生物を造る、いずれは宇宙へ進出した時に必ず役に立つはずだからね。」政府はすごいことをやっているんだって、僕たちはその先端を行くエリートなんだよ。さつきはエリートという言葉にピンと来なかった。


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