「俺を追放して欲しい」
全文会話文のみ
「…………なんて?」
「俺を追放して欲しい」
「もう一度」
「俺を追放して欲しい」
「…………ハァ」
「おや、相棒。溜め息を吐くと幸せが逃げるぞ?」
「言いたいことはままあるけど……なんで?」
「男もすなる追放といふ物を女もしてみむとてするなり」
「あれ? いきなり世界観変わった?」
「冗談はさておき」
「どこまでが冗談?」
「追放されると大抵は強くなれるじゃん?」
「あ、追放のくだりは本気なんだ」
「俺は強くなりたいんだ!」
「真っ当な努力で強さを掴み取れよ」
「相棒の言いたいことは分かる」
「お?」
「弱い俺はこのパーティーに不要という事だろう?」
「おかしいな? 何も伝わってないぞ?」
「まあ、一先ずは俺の考えを聞いてからにしてくれ」
「そこまで言うなら……」
「追放されるとな」
「うん」
「俺の伴侶か俺をパパと呼ぶ子と出逢えるんだよ」
「夢物語かな?」
「いやさ、一応窮地に陥って覚醒パターンも考えたんだけど、どう見ても俺ってそう言う特殊な要項を満たせなさそうじゃん?」
「平々凡々ではあるからね」
「だから、外部の可能性に賭けた」
「清々しい程の皮算用だ……!」
「窮地の女の子を助けるべく死地に飛び込む俺! だが、奮戦虚しくその命を散らしてしまう。『ああ。最期くらいは胸を張れる人生だったな』なんて辞世の句を詠んでいると突然眩い光が」
「いや、長い長い。しかも、命散らした筈なのに、ばっちり意識残ってるし」
「ここからが良いところなんだが」
「盛り上がりに欠ける要素しかなかったよ?」
「ふむ?」
「あ、分かってないやつだ、これ」
「なあ、頼むよ。俺の未来を想って追放してくれ」
「一文の間に矛盾を孕ませないでくれる?」
「……待てよ」
「?」
「そう言えば、俺達って二人パーティなんだから、このまま行くと追放ではなく解散にならないか?」
「そうだね」
「これは一刻も早く仲間を見つけるべきだな!」
「仲間集めの動機が不純すぎる」
「新しい仲間が出来たのなら仕方ない。足手纏いの俺は潔く身を引くよ」
「こいつ、円満的追放を演出しようと……!」
「不満ならギスギスした方もやるか」
「そこに不満を感じている訳ではないんだよね……」
「戦闘では役に立たなくても俺だって……! 雑務は率先してやってきただろ!」
「勝手に始まった! しかも、堂々と嘘をついている!」
「それでも俺の事はもう必要ないって言うのかよ! 代わりが入ったから用済みなのか!」
「無視して進めてるけど、雑用は折半だし、家事に至ってはこちらが請け負ってるから」
「お前がそう思うのならそうなんだろう。お前ん中ではな」
「紛れもない事実なんだけど」
「なっ! 俺の居場所だけでは飽き足らず、功績まで奪い取ろうと言うのか!」
「功績と言い張るには過言かなあ……」
「くっ! 相棒がそこまで俺を邪魔だと思っていたなんて!」
「被害妄想が凄い」
「こんなパーティ、こちらから願い下げだ! お望み通り出て行ってやる!」
「無理矢理展開を持っていくじゃん」
「くそっ! 覚えていろよ! 俺を追放した事、いつか後悔する事になるぞ!」
「三下臭が凄くて強くなる未来が微塵も見えない」
「ほんまか」
「急に落ち着くのはやめて」
「もしかして、これだと俺だけのヒロインと出会えない?」
「うーん。仮に会えたとしても、そのまま何も起きなさそうだね」
「ピンチに駆けつけるとか」
「そのまま蹴散らされるモブ役が関の山かな」
「扱いが酷くないか?」
「強くなりたいから追放してくれって言う奴のセリフじゃないよ」
「一理ある」
「納得するんだ……」
「だが、俺は諦めない。たとえ、これが修羅の道であろうと、いずれは追放されてみせる!」
「熱意の方向がおかしい」
「そして、会ってみせるぞ、俺だけのヒロインに!」
「……一応なんだけど」
「ん? どうした相棒」
「君の伴侶なら心当たりもない事もない」
「なに!? それは本当か!」
「……うん」
「どこだ!? どこに居る!?」
「……どうしてこんな奴を好きになっちゃったのかなあ」
「俺を旦那様♡とかダーリン♡とか呼んでくれて、年がら年中甘やかしてくれた上で夜は夜で濃密な時間を過ごせる相手はどこだ!」
「うわあ……。で、でも! 君が望むなら!」
「相棒! 呑気に雑談している場合では無いぞ! 今すぐその子の元へ案内してくれ!」
「…………は?」
「いや、やはり少し時間をくれ。一度身嗜みを整える必要がある。念の為、シャワーも浴びておこうか」
「…………」
「おや。急に立ち上がってどうした、相棒。うん? 何故、俺の腕を掴むんだ?」
「……れ」
「はっはっはっ。どうしたのかな、相棒よ。人間の可動域の限界でも調べているのか? ならば、一つ言うが人の腕はそちらには曲がらなあぁぁぁぁっ!!!」
「くたばれっ! この朴念仁がぁっ!」
「何か知らないけど、ごめんなさいいぃぃぃっ!」