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だから彼女を騙した(3)

「サディアス様は、ラティアーナが南のテハーラの村の出身であるのはご存知ですか?」

「ええ。あそこは、とてものんびりとした村のようですね。足を運んだことはありませんが……」


 アイニスから話を聞き、サディアスはテハーラの村についてすぐに調べた。ラティアーナの故郷と知り、この村を調べなければならないと、そう思ったのだ。

 衝動的な気持ちと、義務的な思いからくる行動でもあった。


「ラティアーナを聖女にと望んだのは竜王様です。彼女は、誰よりも聖女に相応しい女性でした。だから、わざわざテハーラの村から、こちらへと来てもらったのです」


 神殿に仕える者は、庇護する竜を竜王様と呼んでいる。その言葉に、サディアスには引っかかるものがあった。

 竜様では響きが寂しいかもしれないが、竜王様と王がつくとニュアンスは異なる。王とは支配する者であったり、同族の中でもっとも優れた者であったりする。となれば、この国を庇護する竜は、竜の中でももっとも優れている竜なのだろうか。とはいえ、この国に竜は神殿にいる竜しかいない。


「我々だって、彼女の両親から彼女をさらってきたわけではないのですよ。きちんと話をして、説得して、名誉あることだと。この国を救えるのはラティアーナだけだと、そう伝えたのです」


 やはりラティアーナは、ここに望まれて聖女になったのだ。


「ですが、サディアス様。ラティアーナとの婚約を王族側だって認めましたよね? むしろ、喜ばれたのではないですか?」


 神官長の言葉は正しい。

 婚約の提案をしてきたのは神殿側であるが、それを喜んで受け入れたのは王族側である。それに、この話を聞いたキンバリーは、どこか嬉しそうで恥ずかしそうにも見えた。


 対等にあると言われている王族と神殿の関係だが、国を庇護する竜と聖女がいるかぎり、国は神殿に逆らえない。だが、国には金がある。その金をちらつかせることで、神殿と対等な関係を築いているのだ。


 つまり力があるか、金があるか。

 力があるのが神殿で、金があるのが国。それで均衡を保っている。


 その関係をさらに友好的なものであると国民に見せつけるために、王太子と聖女の婚約を心から喜んだのは国王なのだ。


「ええ。神官長のおっしゃる通りです」

「別に、この神殿は神官や巫女の結婚を禁じているわけではありませんから。もちろん、聖女の結婚も許されております。王太子殿下と婚約したことで、ラティアーナが幸せであるなら、それでいいと思っておりました。ですが、現実とは非情なものですね」


 その言葉に、サディアスもひくっとこめかみを震わせる。


「どういう意味、でしょうか?」


 一際低く、尋ねた。目を狭めて、神官長を鋭く睨みつける。


「サディアス様もご存知でしょう。陛下の即位二十周年記念パーティーでの茶番劇を。王太子殿下がラティアーナに婚約破棄を突きつけ、ラティアーナは自らの意思で聖女を辞めた。本来であれば、これはあってはならないのです」


 聖女が次の聖女を指名するときには、相手もそれを受け入れる覚悟が必要だと神官長は言った。そうでなければ『聖女の証』が次期聖女にふさわしくないと反応するらしい。


 だが、あのときのアイニスは聖女になりたがっていた。したがって、難なくアイニスが次期聖女となったのだ。


「先ほども申し上げましたが、ラティアーナ様は聖女だったから兄と婚約したと。本人はそう思っていたようですね。婚約者でなくなれば、必然と聖女でなくなる。だから、アイニス様が兄の婚約者として指名されたことで『聖女の証』を託した。ようは、王太子の婚約者が聖女であると、そう判断したのでしょう」


 その通りですと、神官長も首肯する。


「我々としては、勝手に婚約を破棄した王太子殿下に腹立たしい思いはあります。ラティアーナは忙しい時間の合間をぬって、王太子妃の教育を受けるために王城へも通っておりました」

「はい。それは重々承知しております。ですが、兄はこちらの神殿に個人的に援助をしていたという認識です。その援助が適切に使われなかったため、今回の婚約を破棄したと。神殿とのつながりを断ち切ろうとしたわけです」

「王太子殿下の寄付は受け取りました。ありがたいことです」


 神官長は目を細くした。少し穏やかな表情になったのは、心からの感謝の表れだろうか。


「その寄付は、神殿での食事改善のために使ってほしいと寄付したものであると、認識しております」

「はい、王太子殿下のおかげで、食事は少しずつ改善されております」

「ですが、ラティアーナ様は……。まともな食事をとられていなかったようですが?」


 そこでサディアスは視線を鋭くする。キンバリーの寄付がどのように使われていたのか、それを把握したいのだ。


「ラティアーナは食が細いのです。こちらが食べるようにと食事をすすめても、彼女は少しばかりのパンとスープで十分だと、そう言っておりましたね。もし、神殿内での食事を疑うのであれば、あとで食堂も見学していってください。やましいところなどありませんから」

「わかりました。あとで、確認させていただきます」


 そうサディアスが返事をすると、神官長も満足そうに頷いた。


「ところで。もう一つ確認したいことがあるのですが」

「なんなりとどうぞ。我々に、やましいことなどございませんから」

「兄からの寄付金で、ラティアーナ様がドレスを仕立てられたというのは事実ですか?」


 神官長の目は、ぐりぐりと大きく見開いた。


「ええ。ラティアーナが王城へ行くのに、巫女姿のみすぼらしい服ではかわいそうだと思いましてね。王太子殿下の婚約者としてふさわしい服を仕立てるようにと、彼女には言ったのです。ですが、彼女もそういったことには疎いようでしたので、ドレスはすべて仕立て屋にまかせました」


 神官長が嘘をついている様子はみられない。


 神殿がけして裕福ではないこともわかっている。

 聖女のドレスを仕立てる。そしてその婚約者が寄付金を出した。となれば、その金から出すのが妥当なのかもしれない。


 ――この金でドレスを仕立てろ。


 渡された寄付金を、そういった意味でとらえたのだろうか。

 サディアスは話題を変える。


「アイニス様は、こちらではどのような様子でしょう」


 ラティアーナのドレスの件は、なんとなく話がみえた。となれば次は、アイニスのことを聞いておきたい。

 サディアスの問いに、神官長は大げさに息を吐くと、頭を左右に振る。


「本来であれば、神殿で生活をしていただきたいのです。竜王様の側にいることで、竜王様と共にその聖なる力が高められるのです。アイニスは竜王様に認められた聖女ではありませんから、こちらでの生活には抵抗があるかもしれません。ですが、せめて王太子殿下と結婚するまではこちらに来ていただけないでしょうか」


 アイニスが三日に一度の神殿での務めを嫌がっているため、彼女の様子のさぐりをいれたかった。だが、やはり神殿側としては、聖女を神殿におきたいようだ。むしろ、竜の側にいてほしいのか。


「その件は僕の一存ではどうしようもできませんので、兄とアイニス様にはそれとなく伝えるようにします。神殿からの希望ということで」

「希望ではなく、慣例であると伝えていただけますか?」

「承知しました……ところで、竜と会うことはできますか?」


 キンバリーからも、竜の現状を確認してほしいと言われた。


 サディアスが神殿を訪れたのも、ラティアーナの居場所、アイニスの現状、そして竜についてと、すべてが神殿とかかわるものである。


「ええ、問題ありません。ですが、アイニスが側にいないので、多少は目をつむっていただきたい点もありますが、よろしいですか?」

「はい。問題ありません」


 アイニスがいないことで、竜にどのような変化があるのかも知りたかった。


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