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第1話 開始前-1

殺さなきゃ生き残れない。それだけのゲームじゃつまらないだろ?

 桐生 蓮が目を開いた時、最初に映ったのは無機質なコンクリートの床だった。

 夢心地の中で中途半端に覚醒した頭が状況を把握していく。自分の意思とは関係なく眼球がごろごろと動き身近に危険が迫っていないかを探していた。

 濃灰色の床材は五メートル程で終わり、同じ色の壁へと続いている。そのまま視線を上に向けて行けばやはり同じ色の天井に繋がる。そこには電球がいくつか埋め込まれていて淡い乳白色の光が降り注いでいた。

 ……何処かな、ここは。

 ぶれる思考で最初に浮かんだのはそんな疑問であった。記憶を呼び起こして推理するも一致する景色はなく、混乱を助長するだけだった。

 その混乱も次第に薄暗い恐怖に変わる。忍び寄る幻聴から逃げるために身体を持ち上げようとするが腕に力が入らない。アルコールによる酩酊にも似た浮遊感が全身を包み、指先の感覚を酷く鈍らせていた。

 薬物。試したことは無いが状況としてはその言葉がしっくりとくる。ともすればさざ波のような恐怖は明確にその姿を現して、

 

「えっ、何!?」


 誰かの声が響いて、思考が前を向く。

 女性、いや少女を思わせる青い声色だった。

 持病のせいで満足に動かない体に鞭を打ち、小さく呻き声をあげながら声の主を探す。

 それは首を少し振るだけで事が済んだ。小柄な、穏やかな雰囲気の少女がそこにいた。

 学生なのだろう、少し皺のついた制服に身を包み、上体を起こして周囲に目を向けている。不安を張り付けた表情は固く、少しの衝撃で崩れてしまいそうだった。

 彼女の声に反応したのは蓮一人ではなく、周囲に同じように横たわる人の数々が顔や身体を持ち上げて状況の把握に勤しんでいた。

 意外と多い、か。

 徐々に神経が伝わる感覚と共に蓮も身体を起こす。急に動く訳にもいかず、這うようにして全体が見える位置まで壁に近づいていく。

 何も無い部屋だった。机も椅子も置かれていない。ただ執拗なまでに窓に打ち付けられた木板から微かに漏れる陽の光がおおよその時間を伝えていた。

 部屋には蓮を含め、七人。年齢、性別ともに差があり共通点があるようには見えない。何かしら目的があったにしては歪で、無作為に連れてきたといったほうが正しいように思える。

 それともう一つ、人以外に気になるものを見つけ、


『おはようございます』


 気の抜けたチャイムに続いて響く音にその場にいた全員が視線を向ける。

 無機質な女性の声だ。人のものとは似て非なる音はボイスチェンジャー等で変化させていると容易に理解出来る。

 ……これは、まさか。

 蓮の脳裏に浮かんだのは正しく期待であった。現状考える限りで最悪なのは単純に人攫いに拉致されたというもの。ただ売られるまで何もできず、どこへ連れていかれるか、その後の境遇すらも不明。抗う術を持たぬ以上詰みの状況から抜け出すことは叶わない。

 ただそれならば放送で何かを告げるという行為は不自然だ。武装した数人が監視していればいい。そうでないならばそうでない理由があるということだ。

 それが淡い願望であることは理解していた。それでも今はそれに縋る以外に道がなかった。

 正しく状況を掴めていない面々から不安、怯えが雑音となって立ち上る。それを断ち切るように天井近くに設置されたスピーカーからは放送が続いていた。


『これから皆様には参加していただくゲームのルールを説明します。一度しか説明しませんので聴き逃しのないようにお願いします』


 二拍ほど置いて空気が失せたように静まる。国民性を思わせる行動に蓮は場違いとわかっていながらも口角を小さく持ち上げていた。


『皆様、参加者には生き残りを賭けたゲームをしていただきます。賞金は十億、ゲームをクリアし最後まで生き残っていた参加者で山分けとなります』


 淡々と事務的に話が進められていく。


『開始時刻はこの後正午から、終了時刻は二日後の正午まで。その他詳しい内容につきましては近くにありますスマートフォンでご確認ください』


 なるほど、と放送の区切れとともに蓮は考えていた。

 予測が正しければと、全身が震える。

 抑えのきかない感情が爆発を繰り返し体内を跳ねていた。

 ただそれは恐怖ではなく、叫びだしてしまいそうなほどの歓喜であった。

  

『では開始時間までしばらくお待ちください』


 放送はその言葉で締めくくられていた。

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