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遭遇


――


「……」


「ぐあーっ!ぜえ、ぜえ、お姉ちゃん速いなぁー。ボク生きてる頃はかけっこで負けたことないのに」


「はあ、はあ。当たり前じゃん。あたしこう見えて生きてる頃は陸上部だったんだから」


「えー、ずりー!」


「あははは。ずるいもなにもないもん。勝負挑んできたのはそっちでしょ」


 私の目の前で、幽霊二匹……いや、二人が地面から離れた脚で短距離走をし終わり談笑をしている。ポニーテールの女学生と、スポーツ刈りの小さな少年の霊だ。少年の方は見知らぬ霊だが、ポニーテールの方は知り合いの幽霊。恐怖もなにもない、幽霊達の平和な光景を私は校庭の地面に座り込んで頬杖をつきながら眺めていた。


「ねえ、そっちの座ってるお姉ちゃん。一緒にかけっこしようよ」


「誰が幽霊とするか。他人に見られたら通報されるわ」


「えー。たまには生きてる人間と競争したいのにー。脅かして逃げてく人追いかけてくのも面白いけどさ、やっぱ真剣勝負が一番楽しいや」


「そりゃ良かったな」


 ……噂の真相だ。

 この少年の幽霊はこの場所を通るウチの学校の生徒を狙い、追いかけて逃げていく様を楽しんでいたというわけだ。害といえば害なのだろうが……正直、どうでもいい。

 

 そもそも私は霊媒師でもないし除霊を生業としているわけでもない。たまたま幽霊がこんな風に見えて、会話ができるだけ。なのに……どうして私は、コイツらの遊び相手にならなければいけないのだ。


「美月、運動苦手だもんね。学生なのに健康的じゃないんだから」


「幽霊に健康を説かれたら人間として終わりだな」


 腕組みをして偉そうに言ってくる陽花を睨み付けて私は言った。続けて、私はスポーツ刈りのガキ幽霊の方を見る。


「で、お前はいつまでこの場所にいるんだ」


「え?」


「ここを通る生徒を脅かす悪霊は、どうやったら成仏するんだと聞いてるんだ」


「んー、でもまだまだ遊びたいかなあ。お姉ちゃん達みたいに、ボクが見える人がたまに来るのが面白いんだよね。……でも初めてだな。ボクと話ができる人と会うのも、ボクと同じお化けと会うのも」


「そりゃ良かった。満足してあの世に逝ってくれると素晴らしいお化けとして語り継いでやるぞ」


「やだよー。ポニテのお姉ちゃんにかけっこ勝てるようになるまで特訓するんだから」


「幽霊が特訓して速くなるものか。……はあ」


 なんだか、疲れた。幽霊とはいえ、結局は子どもと会話しているだけだ。欲望のままに人を脅かして楽しみ、久々の運動を楽しんでいる、それだけ。……ある意味、羨ましい存在かもしれないが。

 ため息をついて俯く私から少年幽霊は離れ、陽花の方へと彼はふよふよと歩み寄っていった。両手を腰に当ててニコニコしている陽花に、少年は少し気恥ずかしそうに言う。


「ね、またボクに逢いにきてくれる?」


 陽花は、笑顔のまま少年の目線まで腰を落とし、頷く。


「もちろん。あたしも久々に走れて、楽しかったしね」


「ホント?絶対だよ」


「うん、約束約束」


 二人は透けた右手の小指同士で、指切りをした。私はぼんやりとそれを見つめながら、呟く。


「……幽霊同士の友情、ねえ」


 こんな光景を見ることができるこのチカラ。人によっては、羨ましくも感じられるのだろうが……私にとっては、どうでもいい普通の光景なのだ。


 見える美月(わたし)と、見えない陽花。

 これが、私達の日常だった。


――


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