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――


「ね、知ってる?校庭で出る(・・)って話」


「あー、アレでしょ。男の子の幽霊」


「そうそう、旧校舎の近く。夕方の薄暗い、人気の無い時間にあの辺を通るとね……なんか、どこからともなく男の子の声がするらしいよ」


「噂じゃ、あの近くの道路で交通事故にあった男の子の霊なんだって……」


「それでね。もしその男の子の幽霊を見ちゃうと……あの世に、引きずり込まれちゃうらしいよ」


「え、マジ?死んじゃうってこと?」


「うん。男の子の霊はひとりぼっちで寂しがっているから、もし自分を見つけることが出来る人間がいたら……一緒に遊びたいから……」


「うわー。もうわたし、あそこ通って帰るのやめるわ」



「…………」


 クラス内の雑音の中から、そんな話題がふと私の耳に入ってきた。別に聞くつもりもなかった話だが『出る』やら『幽霊』やらというワードが聞こえるとどうしても意識がそちらに集中してしまう。昔からの、私の悪い癖だ。

 この学校に特段、そういった怪談の類いの話が多いわけではない。だが、よくある『学校の怖い話』というのは飛び交うもので、特に女子達の間では噂が独り歩きし、どんどん雪だるま式に拡大解釈がされていく。なにかの見間違いが、幽霊に。その幽霊が悪霊になり、やがて居もしないそこで亡くなった人間が出てくる……よくある話。


「聞いた?美月」


「……嫌でも聞こえてるよ」


 こんな時、決まって私に話しかけてくるヤツがいる。

 朝木(あさぎ)陽花(はるか)。ポニーテールの髪を前に垂らすようにして、横から私の顔を覗き込んできた。人なつっこい、猫のような大きく丸い瞳がじーっと、私の目を見つめてくる……。私はなるべくそれを視界に入れないように、クラスの窓から外の景色を眺めていた。しかし陽花はお構いなしに私に話をしてくるのだ。


「男の子の霊、だって」


「ああ」


「悪い幽霊なのかな」


「さあ」


「危害が出る前に、止めとかないと。それに、そこに縛り付けられている霊だったりしたら……その子も、可哀想だし」


「別に、私達が止める義務も義理もないだろ」


「でもさ、あたし達は……その子に何かができるチカラ(・・・)があるんだよ。だから」


チカラ(・・・)があるのは私だけだ。お前は、違う理由だろ」


「えー、美月と同じだよー。あたしも、その子と関わることが出来るんだし。ね、人助けだと思って、やってみようよ」


「幽霊助け、な」


「なんだっていいでしょ。ね、美月が……あたしのことを助けてくれたみたいにさ。その子も、きっと困ってるよ」


「……別に、お前を助けたつもりもないし早いところ私から離れてほしいんだけどな」


「えー、本気で言ってるのソレ」


「本気だったらどっかいってくれるのか、陽花」


 ……私の名前は、伴野(ばんの)美月(みつき)。地元の学校に通う、ごく普通……とは、少し遠い女生徒である。

 普通とは少し違う。それは、私自身が自覚しているが表だってそれを主張するような特技や経歴ではない。


 ――見えて、話せる。

 この世に既に存在はしないのに、魂だけが残ってしまったもの(・・)を。……幽霊を、見ることが出来る。そして、意思疎通がとれる状態にあれば、会話もすることができるのだ。

 幼い頃から普通だと思っていたこのチカラ。それが、他の人間には見えもしないし感じることもできていなかったと知った時は……ショックだった。

 そしてこのチカラを気味悪がった両親が私と距離を置き、別居をしているという状況を理解した時も。……おかげですっかり根暗な性格になってしまったし、友達すらまともに作らなくなった。


 ……ただ、一人。私の隣で何故か嬉しそうに話しかけてくる、同い年のコイツに出会うまでは。

 朝木(あさぎ)陽花(はるか)。この女生徒は……。


「いい加減成仏するようにお寺でも一緒にいかないか、陽花」


「やーだよ。少なくとも私は、美月と一緒にまだまだ過ごしたいもん」


 ……れっきとした『幽霊』である。



――


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