コーラ
「ありがとうございましたー!」
「ふう、今日も忙しいですね、エル店長」
「そうだな」
異世界に来てから、二ヶ月が経過した。最近は、街の多くの人に認知され、目まぐるしい忙しさが続いている。
「ちょっと休憩しようリィーサ」
「はい、お茶あえれますね」
「あっ、うん今日は、そうだな。別なのにしよう」
「別?」
「兎に角、休憩しよう」
「はい」
*****
「・・・・あの、店長。これなんですか?」
目の前に出された物に、リィーサは戸惑っていた。何故なら・・。
「あの、何かシュワシュワ言ってますよ。それに・・それに黒いです! エル店長がこの前、料理に使った醤油に似てますけど・・・・」
「あはははっ、醤油じゃないよ。これは飲み物、コーラって言うんだよ」
「コーラ? ですか。飲み物って事は・・・・果物のジュースと同じですか?」
「確かにジュースだけど、フルーツジュースとはちょっと違うかな? まあいいや、兎に角美味しいよ。飲んでみて」
「はい」
瓶コーラをコップに移し、リィーサに進める。リィーサはそのコップを、恐る恐る手に取り。思い切ってグイと口に入れた。
「あっ、そんな一気に飲んだら!」
「ぶほっ!! ゴホッ、ゴホッゴホッ! な、何ですこれ! 口にふくんだ瞬間、ぶわって、ブワッてなりましたよ!」
初めてコーラを飲んだ人って・・・・こうなるんだな。リィーサが吹いたコーラを拭きながら。初めてコーラを目にし、口にする人を見た感触は、感動とも言えるものだった。
「店長! 何笑ってるんです!」
「わ、笑ってないよ。一気に飲むからだよ。少しずつ飲んでみて。味は悪く無かったでしょ?」
「味が分かる前に、吹いちゃいましたよ」
「あはは、ちゃんと言っとくべきだったな。ほらもう一杯」
「むー、騙してません?」
「騙してないない。ほら」
もう一度コップに注ぎ、リィーサにコーラを進める。リィーサは
完全に疑った目で見ていた。
「んーん、ゴク・・・・んーーーー?! ゴクゴクぷはーー・・・・」
「どう?」
「美味しいです! シュワシュワにはびっくりしたけど。甘くて美味しいです!」
「でしょ? ゴクゴクぷはーー。うまい」
コーラ最高。因みに俺は、ダイエット派。太ってたとか、糖質気にする程鍛えてたとか、健康意識高い系? とかではまったく無い。単に、ダイエットの方がおいしい気がする。それだけだ。
「・・・・エル店長! これ、売りましょう! 絶対売れますよ!」
「うーーん、直ぐには無理」
「えっ、何でですか!」
「いや、既に売れる商品があるから・・・・これ以上、商品が増えるのはちょっと」
「無理そうですか?」
「うーん、十本くらいなら何とか・・・・なるかな?」
「じゃあ、そうしましょう! 早速今日からでも!」
「ちょ、ちょっと! リィーサ?」
コーラを抱えて、早速陳列に向かったリィーサ。
「本当に商売根性が逞しいな」
と言う事で、コーラの販売が決定した。これが波乱を呼ぶとは知らずに。
コーラ販売が決まった数日後。
『カランカラン』
「いらっしゃい」「いらっしゃいませー」
「何だ、小汚い店だな」
こ、小汚い?! 何だコイツ! いきなりやって来て、小汚いとはなんだ!
突如やって来た謎の客。顔からして怪しい奴だ。鼻の下に、ナマズのような髭を生やし、紳士服を着用し、手には杖と頭にはシルクハットを被っていた。
客商売である以上、顔には出さず、笑顔で対応している。でも内心では、小汚い発言した客の顔を、頭の中ではボコボコに殴っている。
「あのぉー、こぎた「いらっしゃいませ! 何をお探しでしょうか?」
リィーサが何か言おうとしたので、声を被せて客の対応をした。
「ふん。我輩は、シャルパチーノと申す者。東に西へ北に南へと、美食を求めてさすらう旅人である!」
「「・・・・・・・・」」
「ふむ、驚いて声も出せぬか。まあよい、我輩に美食を!」
「店長・・・・この人変です」
「ちょっと、リィーサ」
まあ、俺も変人だと思ったけど。声に出したらダメ!
「あのぉー、それでどのような品をお求めで?」
「聞いていなかったのか。ではもう一度、我輩は・・「いえ、そこはもういいですから」
「では何だ?」
「ここはお店です」
「そうだな」
「あなたはお客」
「うむ」
「それで、何が欲しいのですか?」
「美食である!」
「・・・・あの、ここは品物を売るお店です。料理をお出しする店ではありません」
「・・・・噂を聞いて来たのだ」
「噂?」
「うむ。携帯保存食とやらに、駄菓子とか言うお菓子。我の食べた事の無い物が溢れておる! さあ! 我に美食を!」
「「・・・・・・・・」」
「店長、やっぱりこの人」
「うん、変わった人だな」
最早、声に出す事を躊躇わない。だって、この人変だもん。
「携帯保存食はこちらです。駄菓子はそこにあります。買ってさっさと帰って下さい」
「店主よ、客に対して失礼だぞ」
「店にも、お客を選ぶ権利がありますので」
「ふむ、成る程。面白い返しだな。まあよい、我の求める物は・・・・ん? 何だこの黒い液体は? 店主よ、腐っておるぞ」
「腐ってないです。そう言う物なんです」
「ほう」
変人紳士が、コーラに目をつける。真っ黒な液体、イコール腐った物って認識なのか。
「黒い液体。ふむ、我輩の食への探究心がコレを買えと言っている。店主、これを貰うぞ! それとコレとアレとソレもだ」
「はい。全部で銀貨五枚と小銅貨八枚になります」
「うむ。では銀貨六枚で。釣りはいい。それではな・・・・」
変人紳士は帰っていった。大量の駄菓子と携帯保存食、それにコーラを持って。
「何だったんですかねあの人」
「さあ? あっ、リィーサ。そろそろいつも配達頼める?」
「あっ、はい!」
そして、暫くし経過したある日。
「コーラと言うのは、ここにあるのか?」
「コーラと言う飲み物を売ってくれ」
何か似たような人が訪れるようになった。あの変人紳士、只者では無かったのだ。美食家として、相当有名な人だったらしい。彼はコーラを飲み、勿論盛大に吹いたらしいが。味は素晴らしいと絶賛したらしい。それを方々で美食家達に伝えたとか。
それでこんな事態になっている訳で・・・・。
「申し訳ございません。売り切れでーーす!」
リィーサの声が店内に響くが、客達は怒り、今にも暴動になりそうだった。これは、増産決定だな。
「店長ーー! 助けてーー!」
「これ以上忙しく、ならないでよーーー」