ポーション
「エル店長、これは何処に置きます?」
「リィーサ、それはそっちの棚に陳列してくれ」
リィーサが来てから数日が経過した。リィーサは、とても良く働いてくれている。呼び方もエルさんから、エル店長になった。まだちょっと、呼ばれるとこそばゆい感じがする。
それから、リィーサには俺の力の事を話した。一緒に暮らせば、何時かはバレる。なら、早めに明かそうとなった。大変驚いていたが、驚き方が思っていたのとは、ちょっと違った。俺の力を教えた時、何て言ったかと言えば・・・・「そんな力反則です! 利益出し放題じゃないですか」だ。他に色々あると思うが・・まあ、怖がられるよりマシだろう。
『カランカラン』
「いらっしゃい」「いらっしゃいませー」
棚卸しの最中、店に女性のお客がやって来た。女性と言うより少女だが。小さいな身長が。
「・・・・・・・・」
「エル店長、あのお客様がどうかしましたか?」
「いや、ちょっとね」
また来たのか、あの客。リィーサが来る前から、よくうちに来るようになったお客で。何と言うか、変わった客なのだ。話しかけても、何も言わないし。クレームを言ってくる訳でも無い。只々、買い物して帰るだけなのだが・・・・。
格好からして変何だよなぁー。眼鏡をかけ、服は大きめの白衣を纏い。髪はロングでボサボサ。うん、・・・・怪しい。
けど、何かした訳じゃ無いからなぁー。買うものも、お菓子に日用品、それと・・・・何故かポーションを一つ買っていく。怪我してる訳でも、冒険者でも無い筈なのに・・。
「・・・・・・・・」
謎の客は、無言のまま、買い物カゴをカウンターに置いた。そして、カウンターのこっち側。つまり、俺の立っている内側にある棚を指さす。その指の先には、ポーションが置いてある。
毎回だが、どうしてそんなにポーションがいるんだ? ポーションジャンキーとか? まさかな。
「ポーションですね。お一つでいいですか?」
「・・・・コクリ」
小さく頷く謎の客。
「ありがとうございます。えっと、合計で銀貨3枚と中銅貨1枚、になります」
「・・・・・・・・」
「はい、ちょうどですね。ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「・・・・・・・・」
『カランカラン』
「はあ。結局、一言も喋らなかった」
「恥ずかしがり屋なんですかね、エル店長」
「さあ?」
『カランカラン』
「いらっしゃい」「いらっしゃいませ」
その日は、特に何も起きなかったが。次の日・・・・昼。彼女はまた現れた。今度は一人ではなく、連れがいた。
「いらっしゃい」「いらっしゃいませ」
「・・・・・・・・」
この人はいつも通りか。所で一緒に来たのこの女性は・・・・。
チラッと、もう一人の女性の方を見ると、目が合ってしまった。
凄く綺麗な人で、美人教師みたいな人だった。女性は、目が合った瞬間に、ニコッと微笑んだ。
「こんにちは」
「あっ、こんにちは。初めての方ですよね?」
「えぇ、まあ。・・・・・・ふう、面倒だから担当直入に言うわね。ここのポーションの作り方を教えて!」
「ポーションですか?」
「えぇ。実は私達、錬金ギルドの職員なの。この店で販売されていたポーションについて、調査していたのよ」
錬金ギルド・・・・確か冒険者ギルドに、ポーションを卸していたな。けど何でうちのポーションを? うちで販売しているポーションは、回復小だけど? 値段か? そこまで安くは無いよな? 一本銀貨三枚だし・・・・じゃあー何? 量だって、一日二十本しか販売してないのに。他の商店何かと、既得権益でぶつかると面倒だから。量は抑えてる、何故?
「あのぉー、うちのポーションに問題でも?」
「問題・・・・あると言えばあるけど、無いと言えば無いわ」
「はい?」
どう言う事?
「私から説明しよう」
「えっ?!」
考え込む俺に、突如話しかけて来たのは、今の今まで無言だった女性。もとい、少女だ。見た目が。
「・・・・何だ? 何を驚いている?」
「いえ、喋れたんだなと思いまして」
「・・・・喋れる。普段は、面倒だから喋らないだけだ」
「はあ、そうなんですか」
「・・・・さて、説明するとだな「ちょっと、フレンダ。その前に自己紹介よ。私は、錬金ギルドの職員でエリッサ。それで、こっちの小さいのが・・・・「フレンダ」
「えっとどうも、俺はこの、なんでもあるのなんでも屋の店長のエルと言います。こっちは従業員の「リィーサです」
「エル君にリィーサちゃんね。どうぞよろしくね」
美人教師みたいなエリッサさんが、ウィンクして微笑む。その姿は、マジでエロい。店長としての立場が無ければ、鼻の下を伸ばしてしまっただろう。
「さて、ポーションについてだが・・」
「まったくフレンダは・・・・せっかちね」
「このポーション。どうやって作っている。あるいは何処から仕入れている?」
・・・・さて、どう説明しよう。俺が作っているが、あくまでレシピはカオスフロンティアのレシピだ。こっちの世界と、違いがあるのかは分からない。けど、嘘は良くないよな。
「俺が作っています」
「ほう、君がか」
「へぇー、貴方若いのに相当やるわね。本当ならだけど」
「嘘じゃないです! エル店長は凄いんです!」
リィーサ・・・・そのホローは今いらない。二人が俺を見てるじゃんか。ジロジロと品定めするように、見てるじゃんか。
「ふうん。なら、教えてくれる? このポーションの作り方」
「・・・・うん、嫌です」
「えっ? 何て言ったの?」
「嫌だと言ったんです」
「ちょっと貴方ねぇ!」
「エリッサ落ち着け。何故ダメなのだ?」
「・・・・何故って、逆に何で教えないといけないのですか?」
「そ、それは・・・・」
「・・・・・・・・」
「わざわざ聞きに来たって事は、錬金ギルドが作っているポーションとは、違うと言う事です。だったら、知りたいと言うなら、頭を下げてお願いすべき事でしょう? それとも錬金ギルドでは、聞き出して作る事が一般的なのですか?」
「いえ、あの・・・・」
「すまない」
白衣の少女は素直に頭を下げた。
「確かに、製法を他人に喋るなど、愚の骨頂だ。研究してもまったく分からず、答えが分からないからと、その答えを聞き出そうなど、錬金術師として、いや研究者としても失格だ。すまない」
「フレンダ・・・・。私もごめんなさい。無理に聞こうとして」
二人は頭を下げて謝った。正直言えば、教えても別に構わない。だって、俺が考えた製法じゃないかな。
「だが、勘違いしないで欲しい。別に製法を知って、儲けたいとかではない」
「えぇ、いち研究者としての興味よ」
興味からか・・・・なら別にいいのかな?
「分かりました」
「本当か!」
「はい。ただ・・・・」
「あぁ、分かっている。誰にも製法は漏らさない」
「えぇ。心配なら、契約魔術を使ってもいいわ!」
「そこまでしなくてもいいです。たいした物じゃないし」
「いや、たいした物だぞ! 何を言っている!」
「そうよ!」
二人はカウンターに詰め寄り、抗議してきた。カオスフロンティアでは、当たり前の物だし。それに・・・・初心者向けのポーションなんだがな?
「えっと、お二人が作ってるポーションて、材料はいくつ使います?」
「ん、そうだな・・・・全部で六種類だな」
えっ、六種類?
「えぇ、薬草のイヤシミドリクサとイヤシシロハナクサ。後、薬茸のヒーリングマッシュルームに、冬虫夏草。それから・・・・「ちょっと待って、そんなにですか?」
「変か? これは、広く一般的なものだが?」
根本的に違うと言う訳じゃない。イヤシミドリクサとか、イヤシシロハナクサとかは、カオスフロンティアにも生えていたし、ポーションや、その他の魔法薬には使っていた。ただ、ポーション回復小程度の物に、そんな多くの種類は入れない。
「エル君のレシピは違うのかしら?」
「はい、イヤシミドリクサは入れます」
「ふむふむ」
「それではそうよね」
「次に、蜂蜜と・・・」
「「はい?」
「魔力水の三つだけです」
「「・・・・・・・・」」
「・・・・・・・・」
「馬鹿を言うな! そんなレシピで、あのポーションが作れるか!」
「そうよ! もしそうだとしても、他に何か秘密が・・・・」
「別に秘密何て無いですよ」
「見せろ」
「えっ?」
「材料と作るところを見せろ!」
「材料を見せるのはいいですけど、作る所は遠慮します」
「やっぱり秘密が!」
「無いですよ。兎に角、材料持ってきますから」
納得しない二人に、材料を見せた。それで納得はしないかもと思ったが、何故が納得した。
「この魔力水、何て純度なのだ! それに、このイヤシミドリクサ。これほどのものは中々無いぞ!」
「この蜂蜜もよ! これ、ただの蜂蜜じゃないわ! 内包している魔力が、凄く豊富よ!」
・・・・ふむ、どちらも俺が魔法で生み出してるんだが・・・・言わない方がいいだろう。きっと、ろくな事にならないと思う。
「成る程、確かにこれなら・・・・」
「えぇ、出来るかも」
「これを売ってくれ!」
「えぇ、売って頂戴!」
「えーと、蜂蜜はいいですけど、魔力水は売り物じゃ無いです」
「なっ! そこを何とか!」
「そうよ! お金は払うから!」
「エル店長! 売れる物は売りましょう! あらたな商機ですよ!」
「リ、リィーサ?!」
何故リィーサがノリノリなんだ。最近、リィーサの事が少し分かってきたつもりだが。この子、根っからの商人だな。大阪生まれのおばちゃんの転生とかじゃないだろうな。
結局根負けし。ポーションの材料を金貨5枚で販売した。さすがに高いかと思ったが「や、安い!」「これが金貨5枚!」と言っていた。
どうやら、破格値段のだったらしい。因みにリィーサは「ふっふっふっ、金貨5枚・・・・店長も悪ですねぇ」と言っていた、お前は悪代官に賄賂を送る、越後屋か!