リンスインシャンプーと護衛
リィーサが泊まった次の日の朝。
「ふんふんふーーん♪ んーよし! うまい!」
俺は、朝食を作っていた。いつもは一人前しか作らないが、今日は二人分だ。ちょっと、楽しい。
「おはよう・・・・ござい・・ます」
上機嫌で料理をしていたら、寝ぼけた顔でリィーサが起きてきた。
「おはよう、リィーサ。良く眠れた?」
「はい・・・・ベットが・・・・フカフカで・・グッスリ眠れました」
「その割に眠そうだな? 顔でも洗ってきたら?」
「はぃ・・・・」
顔は眠そう、髪は寝癖が。これ、絶対後で恥ずかしくて顔も見れないとかになる奴なんじゃ・・・・。
『ドタドタドタ・・ガタッ』
「す、すいません! えっと、あの、手伝います!」
「目がちゃんと覚めたな。もう直ぐ朝食は出来るから、座ってていいぞ」
「あうーー」
リィーサは席に着き、顔を真っ赤にして俯いた。
「はいどうぞ」
「わぁーーー!」
今日の朝食は、フレンチトーストとコーンスープ。うん、うまそうだ。
「では、いただきます。さて、まずはフレンチトーストから・・・・どうかした? リィーサ」
「いえ、いただきますとは?」
そうか、いただきますは日本式だから、気になったのか。えーと、何ていえば・・・・。
「えっと、俺の出身地では、食事の前に手を合わせてそう言うんだ。お祈りみたいなものだよ」
「そうなんですね。うちの家でも、食事前にお祈りをしますが・・・・エルさんは、この辺りの出身では無いんですね」
「まあね。とても遠くから来たから」
「へぇーー」
「あの、リィーサの家のお祈りでやり直そうか?」
「いえ、大丈夫です。ここはエルさんの家なんですから、エルさんに合わせます。えっと、こうですか?」
そう言うと、リィーサは手を合わせ「いただきます」と言って、食事を始めた。
「んーー! 美味しい!」
「そりゃあ良かった。所で・・・・リィーサは何時、街を立つ予定何だ?」
「えっ? 私、帰りませんよ?」
「えっ?」
リィーサの帰らない発言に、スプーンを落としてしまった。
「えっ? リィーサ、帰らないってどう言う・・・・」
「あの・・・・勘違いして押し掛けた挙句、泊まらせてもらって・・・・その、だから恩返しさせて下さい!」
「えぇーー!」
そうきたか。何でそうなる、血が成せる技なのか? あの爺さんあってこの子ありか。気持ちは嬉しいが、さすがになぁー。ちゃんと断ろう。
「えっと、リィーサ」
「はい!」
「さすがにそれはちょっと」
「あの、私じゃ役にたたないですか?」
「いや、そうじゃなくてさ。そもそも、リィーサは家を飛び出してきたんだろ? それに、若い娘が男と一つ屋根下ってのは・・・・」
「エルさんて、私と年変わらないと思うのですが・・・・何か年寄りくさいですね」
「うっ、そうかな?」
「はい」
そりゃあ、中身は27才だからな。15才のリィーサからしたら、オッサンではあるな。言葉のいい回しを気をつけ・・・・って! そんな話じゃ無いだろう!
「あのなリィーサ。やっぱりその・・・ダメだと思う訳で・・・・」
「ダメですか?」
「気持ちは嬉しいけど。家をら飛び出して来てる訳だし」
「なら、両親の許可があればいいんですね!」
「いや、あの、えーと」
「なら、今日一旦戻って、許可を貰ってきます!」
あぁーー。これ、もうダメな奴な気がする。正直、これ以上強い断り方だと。間違いなく、リィーサを傷つけちゃう気がするし。
・・・・諦めるか。そもそも、両親から許可が出るとは限らないし。
「分かった。そうしなさい。あっ、帰る時は冒険者に護衛を頼むから」
「い、いいです! 来る時は大丈夫でしたから」
「来る時大丈夫でも、帰る時は分からんだろう? 何かあったら、どうするんだ?」
「ですが・・・・」
「そうしなさい! お金はだすから」
「は、はい。すいません。また、迷惑かけてしまって」
「はあ、迷惑だなんて思ってないよ。さあ、ご飯を食べよう」
「はい」
取り敢えずの話は終わり。さっさと朝食を終わらせる。台所に、皿などを片付けていると。『ドンドン』とドアを叩く音が。
「店の方か?」
「もしかして、お客さんでしょうか?」
「おかしいな? うちは、朝の二つ目の鐘で開店だって事は、お客は知ってる筈だしな。一体誰だ?」
まあ、見に行って確かめる以外に無いけど。
『ドンドン』
「はいはい、今行きますよー」
ドアの小窓のカーテンを開け、誰かを確認すると。それは・・・・マーサさんだった。
「って、マーサさんかい」
「私で悪かったねぇー」
「どうしたんですか? こんな朝早くに」
「そりゃあねぇ・・・・」
チラッと、俺の後ろにいたリィーサを、マーサさんはニヤニヤしながら見ていた。
「一体、何を期待してるんですか。はあーー」
マーサさんに呆れて、深い溜め息が出てしまう。
「なーんだ、何も無かったのかい? つまらない」
「「つまらなくないです!!」」
「息はピッタリじゃないか」
「「・・・・はあーー」」
リィーサと二人して溜め息が・・。この人はほんと・・・・おばさんてどうしてこう・・・・「おや? 珍しいな。もう開店しているのか?」
マーサさんの後ろから、突然声が。この声は・・・・。
「ナヴィアナさん?」
「うぬ」
「ナヴィアナさんこそ、こんな朝早くにどうしたんですか?」
「実はな・・・・友人に会うので、何かいい土産をと思ってな。店主なら、相談に乗ってもらえる時思って・・・・」
「成る程。でも、こんな朝早くに来なくても」
「友人の住む街の近くに、依頼で行くのだ。ついでに会いに行こうと思ったんだが・・・・迷惑だったなら詫びる」
「いえ、迷惑だ何でそんな事無いですよ。兎に角、店内にどうぞ」
「うむ」
「あらあら、こんな美人と知り合いかい。エル君もすみにおけないねぇー」
マーサさんが何か言ってるが、無視する。それにつっこめば、また面倒になるからだ。
「えっと、いっらしゃいませ」
「うむ? 誰だ?」
「リィーサと言います」
「この店の、前の持ち主のお孫さんです」
「ほう・・・・ナヴィアナだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「それで・・・・どんな物がいいですか? あっ、まずご友人がどんな人かお聞きしても?」
「そうだな・・・・性別は女性、身長170セルチ「地球でのセンチ]体重53キリ[地球でのキロ]スリーサイズは・・・「ちょっとナヴィアナさん! それ個人情報ですよ」
「ん? 店主が聞くから」
「いや、体型とかそう言うのじゃなくて・・・・えっと、得意な事とか、好きな物とか」
「うむ、成る程。では、彼女は魔法使いだ。得意な魔法は風と土魔法、杖術も嗜んでいる。後・・・・」
ナヴィアナさんが語りだしたのは、友人の能力についてだった?聞きたいのはそう言うのじゃ・・。
「後・・・・後そうだな。私はそこまででは無いが、美容に気にかけているな」
「美容ですか?」
「うむ」
「だったら・・・・これがいいかな?」
「これは?」
「リンスインシャンプーです」
「何だそれは?」
「髪を洗う物です」
「ほう、そんな物が」
「俺も使ってますよ。あっ・・・・リィーサ、ちょっと」
「はい?」
「昨日、使って見たでしょ?」
「は、はい」
昨夜、リィーサがお風呂を使用するさいに、シャンプーについて教えた。使う前は、少しごわっとしていた髪が。今ではサラサラになり、艶がでていた。リィーサ自身、かなり驚き喜んでいた。やっぱり。女の子だなと思った出来事だった。
「どうだったか説明してあげて。使用した、女性の声の方が分かりやすいだろうし」
「は、はい! 頑張りましゅ」
「・・・・・・・・うん。頑張って」
「あうーー」
リィーサは、身振り手振りでリンスインシャンプーの良さを語りだした。ナヴィアナさんは「ほう」とか「成る程」しか言わない。その横で聞いていた、マーサさんの方がリアクションが良かった。
「へぇーーー、こんないい物があったなんて! そう言えば、エル君の髪は綺麗だなぁーって、ずっと思ってたのよ」
「ふむ、これなら友人も喜ぶだろう。幾らだ?」
「あっ、お金はいいです。そのかわりにお願いが」
「何だ?」
「実は・・・・リィーサを隣り街まで、送ってもらいたいのですが?」
「えっ、エルさん?」
「何だそんな事か。隣り街ならちょうど通る、問題無い」
「良かった。リィーサ、ナヴィアナさんは実力のある冒険者だから、送ってもらいなさい」
「は、はい。・・・・あの」
「どうかした、リィーサ?」
「両親を説得して、必ず戻って来ます。だからここで働かせて下さい!」
「あらあら、エル君は本当に・・・・」
「それはいいからマーサさん」
リィーサの目をジッと見つめる。その目は、本気そのものだった。
「はあーー」
まあ最近、忙しくなって来たから。人を雇おうかなって思ってはいたしな。
「うん、分かった。いいよ。でも、ちゃんとご両親に了解を得る事、いいね」
「はい!」
「それじゃあ、ナヴィアナさん。頼んでも宜しいですか?」
「あぁ、勿論だ。必ず送り届ける。何だったら、帰る時にもう一度寄ろう。そうすれは、こちらに来る時も安心だろ?」
「いいんですか?」
「あぁ、構わない。店主には世話になっているからな」
「ありがとうございます。それじゃあお願いします」
「えっと、ナヴィアナさん。よろしくお願いします」
「任せろ」
こうして、リィーサはナヴィアナさんに護衛され、隣り街に帰った。数日後、両親と祖父キサロさんの許しを得て、この店で働く事となる。ただ、問題がある。それは・・・・。
「エル君は、どっちが本命なんだい?」
マーサさんがうるさい事・・・・。
「マーサさん。仕事の邪魔だから、いい加減帰って下さいよ」