世界樹の種 その五 種から芽が!編
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
一同「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
重くるしい空気の中、俺は杖を調べていた。
-世界樹の杖 version2.0-
ん? version2.0? えっ? version2.0? ‥‥‥‥ん?
どうなってるのコレ? パワーアップ? いや、バージョンアップ? 兎に角、どうなってんの?
鑑定して出てきた名称に、異世界には似つかわしくない単語が並ぶ。そもそも、ただの棒きれと化した世界樹の杖は、version1.0だったのだろうか? そう考えるが、そんな単語は無かった。
俺の作った杖の影響なのか、はたまたもう一つの杖の影響かはよく分からない。
「んーーー〜、どうなってんだコレ?」と呟いて、顔を顰める俺を見て、俺と杖を見守るみんなは‥‥‥‥更に凝視している。
あの、みなさん。顔、怖いよ。瞬きくらいしたら?
ララウ「ぬ? おい、エルよ。この杖‥‥‥‥」
みんなの視線に、オドオドしていると。膝に座るララウが、急に話しかけてきた。
「えっ、何?」とララウの方に視線を下ろす‥‥‥「ごへっ?!」
急に動くララウの頭が鼻に直撃した。ギリ鼻血は出ずにすんだが、鼻がキーンとした。
「痛たたた。急に動くなララウ」
ララウ「ん? すまぬ。それよりエルよ」
そう言うと、ララウは世界樹の杖version2.0を俺の手から奪い取った。
「ちょっ、ララウ?!」
ララウ「安心しろ。壊したりせぬ。ふむふむ、成る程、むう‥‥‥ココがこうなって‥‥‥‥ほほう‥‥‥‥」
ララウは杖と睨めっこし始め。「むむむう」と唸りながら、杖の事を詳しく調べ始めた。
「あの、ララウ? 俺が調べてる最ぢゅっ?!」『ゴン!!』
ララウ「ぬほっーーー?! エルよ! この杖は凄いぞ?!
直ぐに外へ行くぞ!! 誰ぞ、世界樹の種を持ってまいれ!!」
何か分かったのですかララウさん? それよりあなた。俺に言う事ありませんか? 顎にあなたの頭がクリティカルヒットしたんですが?!
ララウ「ぬっ? どうしたエル?」
「‥‥‥‥別に。それより、何がわかったんだ?」
ララウ「ぬっふっふっ。外に出てからのお楽しみじゃ」
ん?
そして、ララウに連れられみんな外に出る。一体何事か? と集まった面々は互いにキョロキョロと顔を伺う。そこに、ダークエルフの一人が祀っていた世界樹の種を持ってきて、ララウはそれを受け取ると‥‥‥‥大きな世界樹の種が入る程の穴を、ワンパンで開けて種を放り込む。
そんな事をすれば、ダークエルフ達は驚き慌てたが。さすがに、古竜に何か言う者もいない訳で、ララウが土を被せて種を埋めるのを静かに見守っていた。
ララウ「うむ。コレでやっと『ゴン!』 い、痛い! 何をするエル!」
「それはこっちのセリフだ。いきなり何やってんだ」
ララウ「何って‥‥‥‥種を埋めただけでわないか?」
「説明も無しに、急に埋めたから。ダークエルフのみんなが戸惑ってるだろうが」
ララウが土を被せている間、みんな俺を見ていた。ナヴィアナさんやナターリアさんの二人の眼は「エル! なんとかせよ!」
「ちょっと! 止めなさいよ!」と訴えていた。
オルターニャさんは「えっ? ちょ、ちょっと何して‥‥‥え、エルちゃん! 早く止めて!」と言った感じで、何度も俺とララウ
を見返していた。ナターシャさんに至っては「やってしまっていいか?」と殺気を放つしまつ。
更にオリガさんは‥‥‥‥死んだ魚のような眼で、遠くを見ていた。
ララウ「ふん、安心せい。よーーーく、見ておれよ」
「「「「「「一体、何を?」」」」」」
ララウの言葉に、思わず皆そう口にした。ララウは杖を構え、杖の先を埋めた世界樹の種に向けて魔力を込める。さすがは古竜。
ララウの魔力量はかなりのもので。その圧に、ダークエルフのみんなは思わず後ずさる。
「一体何をするつもり‥‥‥‥ん? おいララウ。もしかして!」
ララウ「うむ。そのまさかじゃ!」
えぇーー? マジか。マジなのか?
オリガ「ぐっ‥‥‥‥ララウ様! 一体何をなさるおつもりですか! エルさんも止めて!」
そう訴えるオリガさん。しかし、ララウは止めるつもりは無い。そして俺も‥‥‥‥。どうなるのか、見てみたい!
とは言え、さすがにこのままだと‥‥‥‥古竜の魔力の圧で、被害が出かねないな。
ララウ「おっ! エル! 反応が出始めたぞ!」
「おっ、マジで?」とララウの声に視線を杖の先は向ける。
すると、ララウの言う通り、何やら種を埋めた所の地面がモコとしてきた。
オリガ「ほへっ? えっ? まさか? 嘘でしょ? えっ? そうなの? 本当に?」
オルターニャ「どうしたのですかお母様? ん? えっ? えぇ?」
ナターシャ「なんだオルターニャ。変な声を出し‥‥‥‥」
ナターリア「ナターシャ姉様? ‥‥‥‥」
ナヴィアナ「‥‥‥‥‥‥‥‥なあ、エル。あれはもしかて」
トトリ「おい、見えない。私にも見せろ! ‥‥‥‥んあ? へっ?」
ララウ「どうやら上手くいったようじゃの」
上手くいったとかの話しじゃねぇーよ。まあ、俺も止めなかったけど。
杖に魔力を込めるのをやめ、視線を屈んで低くし、とあるモノを見るララウの目の前に、大きな芽が‥‥‥‥ヒョコっと出ていた。
それを見るダークエルフ達の目には、涙が溢れていた。
「鑑定っと‥‥‥‥」
ー世界樹の芽ー
*芽が出たてのホヤホヤ。成長にはかなりの時間がかかる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥間違いなく世界樹の芽だな。つまり、世界樹の杖version2.0は‥‥‥‥芽を出させる力があるって事か」
ララウ「そうじゃ。またとんでもない物を作ったのエル」
「いや、俺が作ったという訳じゃ‥‥‥」
そう、言い訳をララウに言おうとしたその時。大きな歓声が上がった。ダークエルフ達の歓喜の声だ。泣く者。叫ぶ者。抱き合う者。呆然と立ち尽くす者、と反応はそれぞれだ。
「すんごーーーく、嬉しそうだな」
ララウ「それはそうだろう。我は世界樹の信奉者では無いが、それでも嬉しいぞ?」
「それだけ凄い事って‥‥‥事なんだろうけど。あんまりピンとはこないな」
ララウ「エルはそうなのか?」
「そうなの」
ララウ「そうか。‥‥‥‥‥‥‥‥所でエルよ」
「なんだララウ」
ララウ「嬉しさのあまり、何やらまた宴が始まろうとしているが‥‥‥‥よいのか?」
「あーーうん。まあ、仕方がないだろうな。‥‥‥‥‥‥‥‥数日で帰るつもりだったけど。コレ、そう簡単に帰れない雰囲気じゃないか?」
ララウ「‥‥‥‥多分、そう簡単には帰してくれんだろうな」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はあーー」
着々と宴の準備を始めるダークエルフのみんなに、用が済んだので帰りますとは言えず。ただただ、ため息を漏らしながら宴の準備を見つめていた。
ダークエルフの宴‥‥‥‥二日目が賑やかに始まろうとしていた。
店の方は‥‥‥‥大丈夫だろうか? 多分、大丈夫‥‥‥だよな?