ダークエルフの里 その5
いい加減本題に入ろうよ。杖をどうしてほしい訳?
オリガ「あら、エルさんを退屈させちゃったかしら?」
「そういう訳じゃないですけど。杖をどうしてほしいんですか?
直してほしいとかなら、無理ですよ?」
オルターニャ「えっ! 無理なの?!」
ナターシャ「無理なのか?!」
ナターリア「‥‥まあ、無理ですわよね」
トトリ「ふん、貴様如きには無理にきまっ『ボゴン!!』
ナヴィアナ「エルを舐めるなトトリ!! エルならやれる!!」
「なあ、エル! そうだろう!」と、こちらを見つめるナヴィアナさん。いや、そのー‥‥ごめんなさい。
「いや、無理です。ナヴィアナさん。あと、トトリさんは大丈夫ですか?」
今度は頭に拳骨ではなく、顔面パンチだった。さすがのトトリさんも、悶絶して腰から崩れ、地面に突っ伏していた。
あっ、鼻血‥‥出てますよ。
オリガ「無理なの? 本当に出来ない?」
「無茶言わないでくださいよオリガさん」
ララウ「だから、言ったであろう? それは棒切れだと。
棒切れに、どれだけ手を加えても、棒切れは棒切れじゃ」
ララウのトドメの言葉に、ダークエルフの皆は、絶望したような顔に。ダークエルフ族の宝が、棒切れと断じられたら。まあ、仕方がない気まするが、コッチにまで火の粉が飛んでくるので、少しは考えてものを言ってほしい。
「直すとか以前の問題なんで‥‥」
ナヴィアナ「なら、枯れてはいるが世界樹なのだがら、あれからなんとか‥‥」
ララウ「あの枯れ木など、余計に無理じゃぞ? そもそも、真の世界樹でない上に‥‥力も失い枯れておるのだぞ?」
「ララウの言う通りなんですよね。‥‥杖は無理ですけど。家具を作るのにいいかも」
「「「「「「「家具‥‥」」」」」」」
ララウ「あとは‥‥‥薪くらいにしかならんな」
「「「「「「薪‥‥」」」」」」」
ララウ。さすがに薪はダメだよ。あーーもう。ほら! ララウが薪とか言ったから、ダークエルフのみんなが膝から崩れて‥‥。
里に、ダークエルフ慟哭が響きわたる。呆然と立ち尽くす者。
地面に突っ伏して、泣く者。気がふれたのか、笑う者まで。
「ダークエルフにとって、世界樹は大事な物なんだなぁー」
そう、しみじみ思う。
ララウ「うるさい奴等じゃな。面倒だ。エルよ、なんとかせい」
「なんとかって、なんだよ」
世界樹をか? それとも杖を? ‥‥‥正直、杖はあるんだけど。俺が作ったのが! ただし、世界樹をどうこう出来る訳じゃない。
「うーーーん‥‥‥‥」
ララウ「どうしたのだ? 急に考えこんで?」
「いや、ちょっとな」
世界樹‥‥‥うーーん。実は、世界樹の杖を作ったときに。世界樹に関するアイテムが、世界樹の枝以外にもあったのを思い出した。それは‥‥世界樹の葉と世界樹の花。あと、世界樹の樹液に世界樹の蜜。そして、世界樹の実‥‥‥それと、世界樹の種だ。
そう、世界樹の種! もしかしたら芽が出るかも‥‥‥。
出るかな? というか‥‥‥問題になりそうな気がする。
「なあ、ララウ」
ララウ「なんじゃ? 急に耳元でボソボソと」
「世界樹の種を持ってるんだが、芽がでるかな?」
ララウ「へっ? 今なんと言うた?」
「だから、世界樹の種を持ってるんだが‥‥」
ララウ「なんだってーー!! エル! 種があるなら実もあるのか?! あるなら寄越せ!!」
どうやら俺は、聞く相手を間違えたらしい。
こんの、バカ! アホ! わざわざ耳元で話してるのは、内容を聞かれたくないからだ! あーーもうーー!! みんながコッチを見てるよぉーーー!!
ナヴィアナ「エ、エル? 種? 世界樹の? ど、どどどういう事だ?」
オルターニャ「エ、エルちゃん? 一体なんの話しを‥‥」
ナターシャ「何だ、種って?」
ナターリア「何がどうなって‥‥」
オリガ「あらあらまあまあ。これは‥‥‥私にも予想外だったわ」
トトリ「???」
ダークエルフ一同「はいぃーーーーー!!!???」
こ、これ、どう事態を収拾するんだ?
ララウ「早く、実を寄越せぇーーー!! 食わせろぉーー!!」
この、食いしん坊の惰竜が!
鬱陶しいララウを無視して、俺に視線を向けるダークエルフ達の対処を、どうしようかと悩んでいた。種なんて無いと言っても、面倒になるし。あると言っても‥‥また面倒に事になりそうだ。
だったら、さっさと種を見せて終わろう。
アイテム倉庫から、世界樹の種を取り出して、手のひらに‥‥‥デッカ! あれ? 世界樹の種って、こんなにデカかったっけ?
‥‥‥カボチャくらいの大きさがあるんだが?
手に、カボチャ程の大きさの世界樹の種。種っていうより、ヤシの実だな。色あい的にも‥‥。
ダークエルフ一同「おぉーー!! なんと神々しい!!」
神々しい? ‥‥‥えっ、どこが? 見た目ヤシの実だよ?
ララウ「まさしく世界樹の種! それがあるなら実だって持っとるだろ! 早く出さんかい!!」
‥‥‥‥コイツも、ほんと面倒だな。うるさいので、世界樹の実をアイテム倉庫から取り出す。あれ? 実までデカッ!
あれ、えっ、なんで? いや、種がカボチャくらいなら。実はこれくらいあるか。にしても、デカくね? アイテム倉庫から取り出した世界樹の実は、両手でなんとか抱えられる大きさで。
しかも‥‥‥この形、そして色! ‥‥‥林檎じゃね?
ララウ「うむ! その形! そして色! 間違いない!
かつて食べた世界樹の実だ! 早く寄越すのだ!!」
ララウはデカイ林檎を受け取ると、そのままかぶりつき。
ムッシャムッシャと頬張り始めた。
ララウ「うんまい! うんまいのじゃ!」
この日ほど、ダークエルフ一同。いや、ナヴィアナさん達の目を忘れない。なんとも言えない視線を、俺に送り続けていた。
見んといて、頼むから。