駄菓子と頑固少女
「えーと、補充する物はと・・・・」
『カランカラン』
「ん、いらっしゃい!」
「「「こんにちはー!」」」
「何だ、チビ達か・・・」
「何だとは何だよ。おいら達お客だぞ!」
「そうだぁー、お客だぞー!」
「おきゃきゅ、おきゃきゅ」
やって来たのは、マーサさんの子供達。チビ三兄弟?
「店主の兄ちゃん! お菓子!」
このガキ大将みたいな男の子は、長男のモル。見た目と違って、とても面倒見のいい子だ。
「店主のお兄ちゃん。お菓子ちょうだい」
この子は、長女でモルの妹のメル。活発で元気の女の子だ。
「にいしゃん、おかちゅ」
最後にこの子は、末っ子のミルだ。二人の弟で、小さいので、まだ片言だ。
「はいはい。それで、どれにする?」
「えーとな・・・・俺はコレ!」
モルが選んだのは、顔くらいの大きさの、少し厚めに作った海老煎餅だ。
「私はコレ!」
メルが選んだのは、渦巻きのペロペロキャンディー。
「えとーコレ」
末っ子のミルが選んだのは、甘くサクッと焼きあげた、たまごボーロ。
「それじゃあ、小銅貨3枚な」
「「「はーーい」」」
モルがポケットから小銅貨を3枚取り出して、カウンターに置いた。お金を払うと、それぞれ選んだお菓子を手に取り、食べ始めた。
「やっぱり海老煎うめぇー」
「キャンディー甘ーい」
「もぐもぐもぐもぐ」
「そいつは良かった」
駄菓子を売り始めたのは、開店当初からだが。あまり認知されてなかった。駄菓子について知られる様になったのは、マーサさんが、初めて子供達と一緒に来たおりの事だ。末っ子のミルが、置いていた駄菓子を食べしまったのだ。マーサさんは顔を真っ青にして、平謝り。しかし、駄菓子の値段を聞いて、キョトンとしていた。こちらの世界、と言うかこのくらいの時代では、お菓子自体がとても高価な物で、一般の人には出回らないらしい。それが、子供の小遣い程度で買えると知って、凄く驚いていた。
それから、近所の子供達だけでなく、この街に住む沢山の子供がやって来るようになった。しかも、最近は大人が大人買いして行く始末。人気なのは嬉しいが、俺の忙しさに拍車がかかっている。かと言って、駄菓子の販売を辞めたりすれば、暴動になりかねないしな。
さすがに、大袈裟か。
「なあ、店長の兄ちゃん」
「ん? 何だモル」
「この値段でやっていけるのか? 安くて俺達助かってるけどさ。
このせいで潰れたりしたら、食えなくなっちまうから」
「安心しろ、元は十分に取れてるから」
「そうか。なら良かった。ほら、メルミル、帰るぞ」
「はーい」「ひゃーい」
「じゃあな、店長の兄ちゃん」
「おう、またな」
「バイバーイ」「バイバイ」
軽く手を振って、チビ達を見送る。「さて、在庫の確認でも」と思った時、『カランカラン』お客がやって来た。
「いらっしゃいませ」
「・・・・・・・・」
「?」
ドアの前で、仁王立ちにこちらを睨む少女。年は15.6歳くらいで、髪を三つ編みにした少女が、只々、睨んでいた。
「あのー、何か御用でしょうか?」
声をかけると、少女は店内の商品を、ホコリやチリを探す姑の如く見ていた。手に取っては、元の棚に直し、また手に取っては直す。それを二十回程繰り返すと・・・・。
「あの・・」
「はい・・・・」
少女が、俺の目の前にやって来たと思ったら。いきなり俺に人差し指をビシッと差して・・・・「あんたがお爺ちゃんを騙したのね!」
と言い放った。
「騙した? 騙した覚えは無いのですが?」
「嘘おっしゃい! お爺ちゃんを騙して、この店を騙し盗ったくせに!」
「このお店を・・・・あぁー! もしかして、サキロさんのお孫さんですか?!」
「そうよ! あなたが騙したお爺ちゃんの孫、リィーサよ!」
「あの、騙して無いですよ」
「いえ、あなたはお爺ちゃんを騙して、お店を騙し盗ったのよ!」
「いえ、譲り受けただけです」
「いーえ! あたは!」
「もういいです」
何なんだこの子。人の話を、まったく聞きやしない。
「衛兵に突き出してやるわ!」
「おや、どうかしたのかい? あれ? もしかしてリィーサちゃんかい?」
「あっ! もしかしてマーサさん! 久しぶり!」
「久しぶりだねぇー! 元気してたかい? それより、大きな声なんか出して、どうしたんだい? 店の外まで聞こえて来たよ?」
「それは!」
「マーサさんが来てくれて、ちょうどよかった。俺の代わりに説明して下さい。この子、まったく人の話を聞かなくて・・・・」
「何ですって!」
「うん? 一体・・・・」
マーサさんに間に入ってもらい、サキロさんのお孫さんのリィーサに、俺が騙し盗ってなどいないと、説明をしてもらった。
「・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・」」
マーサの話を聞いて、リィーサは顔を真っ赤にして沈黙した。
店内は、どうしようもない空気に包まれた。
「ご、ごめんなさい! わ、私勘違いしちゃって!」
「誤解が解けたなら良かったです。と言うか、何で勘違いしたんです?」
「えーと、お爺ちゃんがいきなり来て・・・・あ、あの、私・・隣り街に両親と住んでいて・・父がお爺ちゃんの息子何ですけど。急に訪ねて来て、どうしたのか聞いたら。店はタダで譲ったと言われまして、それでうちにやって来たと。聞けば聞く程、何と言いますか・・・・胡散臭くて・・・・」
「それで、ひとりでここまでやって来たと」
「はい・・・・」
お爺ちゃんが騙されたと思って、隣り街からくるなんて・・・・。お爺ちゃん思いのいい子だな。でも・・・・。
「リィーサちゃん! ひとりで何て危ないでしょ! キサロさんが譲った相手が、エル君だったから良かったものの。もし、本当に詐欺師とか危ない奴だったら、奴隷商に売られてたかもしれないよ!」
「す、すみません」
「はあ、こんな事になるんじゃないかと思ったから、お店の代金は払うって、キサロさんに言ったんだけどなぁ」
「そ、そうなんですか?!」
「うん」
「私もその時、立ち会ってたから本当だよ。なのにキサロさんときたら、本当に頑固なんだから・・・・」
「あははは、お爺ちゃん断ったんですね」
「命を助けられた事に比べれば、店ぐらい安い物だって言ってね。
まったく、あの頑固じじぃ。決めると首を縦に振らないんだから」
「すいません。お爺ちゃんが・・・・」
まあ、済んだ事なのでもういいけど。一つ気になるんだが?
「えーと、リィーサって呼んでも?」
「あっ、はい」
「君、これからどうするんだ?」
「どうとは?」
「もう、夕方だぞ。門も閉まる。それに、いくら近い隣り街とは言え、夜出歩いたりしたら・・・・魔物や盗賊に襲われるぞ」
「だ、大丈夫です。その辺の宿で泊ま・・・・あれ? サイフが無い? そんな! ちゃんとバックに・・・・」
「あー、こりゃやられたね」
「ですね。最近多いですねスリ」
どうやら、巷で増えているスリに、サイフをすられたらしい。さて、どうしたものか。
「あっ、マーサさんの家に・・・・」
「無茶言わんでおくれよ。うちは狭いうえに、二世帯で住んでるんだよ? 冷たいようだけど、リィーサちゃんを泊める程の余裕は、うちにはないよ」
「はあ、なら「あの、大丈夫です。その辺の路地で・・・・」
「馬鹿な事言うなよ。拐かしてって、言ってるようなもんだよ。それ? 俺が宿賃だすから、それで・・・・」
「・・・・ダメです! 勘違いして迷惑かけたのに、さらにお金までなんて・・・・絶対に嫌です!」
「はあ・・・・」
キサロさんに似て、この子も頑固だ。
「あら、だったらこの店に泊めてもらえば?」
「「はいぃぃぃぃぃ?!」」
「ちょ、ちょっとマーサさん! いくら何でもそれは・・・・」
「別にいいじゃないか。取って食う訳じゃないんだからさ」
「ととと、取って食う・・・・」
「ちょっと! マーサさん!」
リィーサは、顔を真っ赤にしていた。いくら何でも、若い女性に言う事じゃないと思う。真っ赤な顔のリィーサを見て、はっはっはと大声で笑うマーサさん。おばさんパワー全開だ。
「えっと、その・・・わ、私、食べられちゃうんですか?」
「食わねぇーよ! もう、マーサさん!」
「ごめんごめん。リィーサちゃんの反応が面白いからつい」
まったくもう。それにしても、どうしたもんか。部屋は・・・・余っちゃいるが・・・・さすがになぁー。
「えっと、リィーサ?」
「・・・・はい」
「はあ、仕方ないからうちに泊まりなさい。余ってる部屋があるから。それに、部屋に鍵を直ぐつけるから安心してくれ」
「えと、あの・・・・」
「エル君、大胆だねぇー。私の前で口説くなんてさ」
「もう、マーサさんは黙っていて下さい。と言うか、帰って下さい! 話がややこしくなるので」
「はいよ。お邪魔虫は消えるとするよ」
「「マーサさん!!」」
「逃げろー、あはははっ!」
はあー。チラッとリィーサの方を見ると、気まずいのかモジモジしていた。それを見て俺も、凄く気まずくなっていく。
「ふう、取り敢えず、中で待っていてくれ。店を閉めるから」
「あ、あの! 手伝います!」
「あ、うん・・・・それじゃあ荷物を運ぶの手伝ってくれるかな?」
「は、はい!」
・・・・・・・。
「あの、こっちですが?」
「えっと・・・・その左の方に置いて」
「はい」
・・・・何だろ、悪くないな。お店が華やかになっと言うか、むさ苦しさが消えたと言うか。まあ、一晩だけだし。明日には帰るだろ。
俺はこの時、そう軽く考えていた。明日には、隣り街に帰るだろうと。だが、甘く見てはいけなかったのだ。頑固じじいの孫の頑固さを・・・・。