古竜が居る日常
ララウがウチに来てから、五日が経過した。
「・・・・・・・・」
「すぴぃーー・・・・くがーー。すぴぃーー・・・・くがぁーー」
この惰竜、ますます惰眠を貪るようになりやがった。
基本、食ってるか寝てるかしかない。
「やっぱり・・・・山に捨ててくるか?」
もう本気で、そう思い始めてきていた。
「何言ってるです店長。ララウちゃんを捨てちゃダメですよ」
「リィーサ・・・・」
リィーサはララウと仲良くなり、今ではララウちゃん呼びに。
可愛い可愛いと、凄く可愛いがっている。
一応、古竜だぞ? こんなのでも。
「けどなリィーサ。現状を見てくれ」
ララウの寝るソファーの周りには、食い散らかしたお菓子の包装紙や、食った缶詰めの缶などが転がっていた。
「まあまあまあー。店長、私が掃除しますから」
「リィーサは甘やかし過ぎ」
「そうでしょうか?」
最早、古竜に対する扱いでは無い。リィーサからすると、可愛い妹が出来たような感じだろうか。
「あのな、リィーサ。アレ、一応だけど竜だからな?」
「はあー・・・・。店長が言うならそうなんでしょうけど。正直、そう見えなくて・・・・」
魔法で人化していて、竜には見えない。角も尻尾も無い。
なのでリィーサは、ララウが竜なのか疑っているようなのだ。だからララウに「角と尻尾だけを竜化出来ないか?」と聞いたら「そんな細い事出来るか!」と言われた。
異世界あるあるの、ケモ耳ケモ尻尾ならぬ、竜角、竜尻尾は出来ないとの事だ。
本当の姿なんて見せらないからな。見たらリィーサは・・・・。
うん。大変な事になるということは分かる。
「ぐがぁーーー・・・・すぴすぴすぴ」
ララウは気持ち良さそうに寝ている。
「やっぱり・・・・山にでも捨て「店長!」・・・・分かったよ。捨てないから。今の所は・・・・」
「本当にダメですよ?」
「捨ても、直ぐに戻ってくると思うが・・・・」
「店長!」
「はいはい」
******
「いらっしゃいませーー!」
「エル店長! 在庫が!」
「はいはい」
「エル店長! お客様がコレを取ってほしいとの事です」
「はいはい」
「エル店長!」
「あーもうー! 忙しい!」
今日も、お店は大繁盛。朝から目が回る忙しさだ。
なのに・・・・。
「エルよ。コレのお代わりをくれ」
この惰竜は本当に・・・・。マジで捨ててこよう! リィーサは怒るかもしれないが。その前に、俺が怒ってララウとバトリそうだ。
「あのなララウ・・」
「店長! 落ち着いて・・・・」
リィーサも、さすがに俺が怒っているのを察し。宥めてくる。
そんな中ララウは「何を怒っているのだ? さっさとお代わりを出せ」
漫画なら、俺の背後からズゴゴゴオォォと言う表現がおこなわれているだろう。それくらい俺は怒っている。この惰竜に!
「ララウ! お前いい加減に!「て、店長!」
『ガランガラン』
ララウに説教しようとしたその時。お店のドアのベルが鳴る。
お客が来たようだ。しかも、そのお客は!
「エル、来たぞ」
「な、ナヴィアナさん」
「うむ」
「ナヴィアナさん! ちょうど良かったです! 今にも店長とララウちゃんが!」
「何・・・・・・・・エルよ、街を火の海にする気か?」
ナヴィアナさんが、リィーサから話しを聞いて出た言葉は、まるで俺が街を破壊する悪者のような言い方だった。
「エル、落ち着け。其方と古竜がぶつかったら、この街はただではすまぬ」
「いえ、心配いりません。いざとなったら、何処か世界の果てに飛ばす魔道具で・・・・」
「なっ! 貴様そんな物を我に使うつもりか」
「遠くに飛ばすだけだ。怪我はしない。封印や討伐しないだけ、ありがたいと思え!」
「ぬぬぅー! 我は古竜だぞ! そんな物通用せぬ! そもそも、エルは我に勝てるとでも!」
「・・・・多分勝てる。ここ最近、ララウを観察して思った。ララウには勝てる気がする」
「うぬぬぬ! ならばやるか!」
「いいだろう。惰竜に負ける訳ないからな」
「我は古竜だ! 惰竜などでは無い!」
「・・・・・・そう言うなら、ここ最近何をしていたか言ってみろ」
「ぬっ? ここ最近? うむ。美味なる物を食べたな」
「それで?」
「気持ち良い巣で寝た」(巣=フカフカソファー)
「次の日は?」
「美味なる物を食べて・・・・気持ち良い巣で・・・・む?」
「・・・・分かったか? つまりララウは、ここに来てから食って寝て食って寝て食って寝て食って寝て食って寝てるだけだ。
それを惰竜と言わずなんと言う?」
「ぐぬぬぬぬっ! リィーサよ!」
さすがに言い返さず、ララウはリィーサに助けを求めた。
「えーと、ララウちゃん」
「うむ!」
「私も・・・・店長の言う通りだと思う」
「な、なぬ」
「だって・・・・さすがに・・・・」
自堕落に過ごすララウを、さすがに庇えないリィーサ。
「むむむ、ならそこのダークエルフ!」
「えっ! 私か?!」
まさかの、ララウから助けを乞われ。ナヴィアナは驚いた。
「うむ! 我は古竜! ならば、我が正義だ。そう思うであろう?」
「えぇ? あの、その」とナヴィアナさんは困り果てた。俺の方をチラチラと見て、助けを求める。
そんなナヴィアナさんに俺は「はっきり言ってやって下さい」とナヴィアナさんに目で伝える。それをナヴィアナさんは察したのか、益々困っていた。
「うぐ、そもそも私は、大事な用で来たと言うのに何故こうなる」
「はっきりせぬか! ダークエルフよ!」
「ナヴィアナさん! 惰竜に言ってやって下さい!」
「また惰竜と言ったな!」
「惰竜じゃなかったらなんだ? トカゲか? 俺はそんなペットを飼った覚えは無いぞ」
「言うに事欠いてトカゲじゃと! 更にペット?! ぐぬぬぬっ!
許すまじ! エル!」
「店長?! ララウちゃん?!」
リィーサは、今にも喧嘩が始まりそうで慌てだす。ナヴィアナさんも、この状況にナヴィアナさんは頭を抱えた。
「あーーもう! 姉上達が会いに来るって言うのに! それを伝えに来ただけで、どうしてこうなるんだ!」
「姉上?」
ナヴィアナさんの言葉に、俺は一瞬にして頭が冷えた。
姉上って・・・・姉上?
「姉上ってナヴィアナさんの?」
「そうだ。何か大事な話しがあるとかで・・・・兎に角、来るのだ!」
「だからどうした! ダークエルフの話し何ぞどうでもよい!
エル! 覚悟ぉぉぉ!!」
俺は、飛びかかって来るララウの口に、近くにあったお菓子を放り込む。
「がぶっ! うむ? もぐもぐもぐもぐ。うぬーー! 美味である! もっとだ! もっと寄越すのだ!」
「分かったから、少し静かにしてろ」
「分かったのだー!」
やはりこの惰竜、チョロい。
「えーと、ナヴィアナさん?」
「うむ」
「ナヴィアナさんのお姉さんは何しに来るんです?」
「さあ、それは分からない。しかし、姉上達が受けた依頼と関係しているとは思うが・・・・」
「ナヴィアナさんのお姉さんって・・・・ダークエルフですよね?」
「当然であろう。私の血の繋がった姉だからな。あー因みにだが、
姉上の相棒と言うか仲間は、ナターリアの姉だ」
「二人のお姉さん??! それが来るんですか? 何時ですか!」
「恐らく・・・・今日の昼すぎには街に到着するのでは?」
「・・・・・・・・」
なんだろ。会ってはみたいが・・・・会わない方が良い気がするのは、なんでだろうか? でも、二人のお姉さんだしな。
多分大丈夫・・・・だよな?
「すまんなエル。迷惑をかける」そう言うと、ナヴィアナさんは、深々と頭を下げた。
あっ、これは・・・・間違いなく面倒事だ。俺はそう確信した。