古竜と蜜柑缶
「おい、何か食い物を寄越せ」
「・・・・お前の腹はどうなってるんだ? 縮んだのにどれだけ食べるんだ?」
「そんな事はどうでもいい。何かないのか?」
「ほれ、これでも食ってろ」
俺は再び缶詰めを渡す。今度のは蜜柑の缶詰めだ。
「おぉー! まだあったのか! よし、全部寄越せ!」
「・・・・もう、古竜に見えないな。ただの、食い物をたかる少女だな」
「なんだとう! どう見ても、我は誇り高き古竜だ!」
「誇り高き古竜は、食い物寄越せとか言わないと思う」
「むむぅ!」
頬を膨らませ、抗議するララウ。
かわいいので、まあ、許す。・・・・そんな事より。
「街では、実は古竜ですって事を、言うんじゃないぞ」
「何故だ?」
「大騒ぎになるからだ。頼んだぞ。もし何か騒動をおこしたら・・・・・」
「おこしたら?」
「もう、何も食わしてやらんからな」
「むっ・・・・ぬう、分かった。言う通りにしてやる」
ララウは「それは困る」と、納得した様子。そんなに果物缶を気に入ったのだろうか? まあいい。大人しくしてくれれば。
「よし、じゃあ行くぞ」
「うむ」
ララウと二人。日が落ちる前に、街へと帰る。ララウは俺の横で、蜜柑缶を美味しそうに味わいながら歩いていた。
「はぁーむ! はむはむ。うむ、美味! 美味である!」
蜜柑缶の蜜柑を、摘みながら歩く姿は、とてもシュールだ。
スナック菓子を食べるかのように、一個ずつ、指で摘んで口入れるララウ。
「これもまた美味いのぉー!」
「はいはい。シロップは飲むなよ」
「コレが美味なのだが・・・・」
「糖尿病になるぞ。・・・・いや、古竜はなるのか? 古竜とは言え生き物、病気にだってなるよな? しかし古竜だしなぁ」
「何をぶつぶつ言っておるのだ? さっさと行くぞ」
「ん? あぁ」
ララウから、シロップだけになった蜜柑缶を受け取る。ララウは二個目を自分で開け、また蜜柑を摘みだした。
「おっ、街が見えて来た」
歩く事15分。街を守る城壁が見えた。夕日に照らされて、とても美しい光景だ。ただ・・・・。チラッと、横を歩くララウを見つめる。
「大丈夫だよな? ララウ。頼むから大人しくしていてくれよ」
「あーーはむ。はむはむ。ん? あーうむ。・・・分かった」
本当に分かっているのだろうか? 頼むから何事も起こさないでくれよ。
不安になりつつも、街の門まで、後少しの所まで来た時だった。
「ん? エルではないか? どうしたこんな所で」
「あっ、ナヴィアナさん。仕事帰りですか?」
冒険者の依頼をこなし、ちょうど帰って来たところのナヴィアナさんに、たまたま会った。
「ピクニックの帰りです」
「そう言えば、そんな事を言っていたな。休めたか?」
「えー、まあー。その、それなりには・・・・」
「そうか。休めたなら良かった。所で・・・・その子は誰なのだ?」
ナヴィアナさんが、視線を俺から、横にいるララウに移す。
「何やらただならぬ気配がするのだが?」
さすがナヴィアナさん。なんとなく分かるのか。うん、教えた方がいいかな?
「えーと。ララウです。・・・・古竜の」
「そうか。ララウと言うのか。古竜の・・・・・・ん? 古竜?
古竜?! 今、古竜と言ったか!!」
「はい。こんな姿してますが、前に会った古竜のララウです」
「・・・・・・・・」
ナヴィアナさんは・・・・絶句していた。一方ララウは・・・・・。
「はむ。はむはむ。美味であるなぁーー。
しかし、後これだけしか・・・・ぐぬぅ」
「ナヴィアナさん? 大丈夫ですか?」
ララウを見つめ、パクパクと口を動かしている。言葉にならない状態のようだ。
「え、エル! 冗談はよせ! 古竜が人の姿などに・・・・」
「まあ、普通はそう思いますよね?」などと、ナヴィアナさんと話していると。ララウが急に、ナヴィアナさんを睨みつける
「ぬ? なんだ貴様? うるさい奴め? ・・・・ん? 貴様、この間のダークエルフか?」
ララウが一瞬、イラッとした様子でナヴィアナさんを睨みつる。睨まれたナヴィアナさんは、そのまま地面にへたり込んでしまう。
どうやら、蛇に睨まれた蛙の様になってしまったようだ。
「コラ! ララウ! 威嚇するな!」
「別に威嚇などしておらん。ただ、睨んだだけだ。・・・・はむはむ」
ララウは、そんな言い訳をすると。口に蜜柑を放り込んで味わっていた。
「お主に合わせた所為でもある」
「俺の所為?」
「うむ。お主はこれくらい平気だろ?」
「まあ、確かに平気だが・・・・・はあーー。兎に角、気をつけてくれよ」
「分かった分かった。面倒だが・・・・仕方ない。お主の、エルの言う事は、取り敢えず聞いてやる」
食い物のためとは言え、やけに素直に聞くな? なんでだろ?
まあいい。それよりも・・・・。
「大丈夫ですかナヴィアナさん?」
「あ、あぁ。だ、大丈夫だ」
震える声で、大丈夫と言われても・・・・。全然大丈夫そうには見えませんから。
「立てます?」
「・・・・・・す、すまん。無理そうだ」
「・・・・・・・・」・・・・腰が抜けたらしい。仕方がない。
「ナヴィアナさん。どうぞ」
ナヴィアナさんに背中を向けて、腰を下ろす。「おんぶします」
とナヴィアナさんに言うと「すまない」と言って背中におぶさる。
・・・・・・・・ナヴィアナさん。そんなに押し付けたら・・・・あぁ!
あぁぁぁぁぁ!!
「どうかしたか? 顔が赤いぞ?」
「な、なんでもないからララウ。それじゃあ行きます」
「・・・・あぁ。た、頼む」
「ダークエルフまで顔を赤くして・・・・もしかして其方ら?
発情期か?」
「「ぶほぉっーーーー!!」」
ララウの思わぬぶっ込みに、俺とナヴィアナさんは吹いた。
おんぶしてて良かった。だって今、ナヴィアナさんの顔、まともに見れないから。それとララウ。お前、後で説教してやる。