商人ギルド
「順調ですね。エル君」
「まあ、今の所は・・・・です。リビィーさん」
「何言ってるの、エル君? これだけやれたらもう大丈夫よ」
「それで・・・・今日はどんな御用なんです? 一カ月毎の経営報告が、来週にはあるのに。わざわざ訪ねて来るなんて・・」
「えーとね、エル君・・・・」
何か言い難い事なのか。リビィーさんは口籠もる。
「・・・・実は・・商人ギルドから、色々と話しが来ていて」
「商人ギルド・・・・」
「えぇ。エル君のお店は、商人ギルドに入るべきだって、商人ギルドがうるさくて・・」
「そろそろかな? とは思ってましたが。でも、入会するかは自由ですよね?」
「そうなんだけど・・・・兎に角、伝えたから。それじゃあ私はこれで失礼するわね」
「はい、すみませんわざわざ」
「うんうん、仕事だから・・・・それじゃあねエル君」
「はい、ありがとうございました」
商人ギルドか・・・・うちで売り出した商品に狙いをつけたな。
まったく、血の匂いを嗅ぎつける、サメみたいな奴等だな。
「それにしても、どう対処すべきか・・・なんかして来てから考えるか」
とか言っていたら・・・・。
「ゴホン・・・・私は商人ギルドのギルドマスター、オースである。今日は貴殿に、ギルド入会を進めにきました」
昨日の今日で、商人ギルドの方からやって来た。目の前に、二人の取り巻きを連れた、くるんとした口髭を生やした、小太りのオッサンが。後ろに腕を組んで、偉そうにふんぞりかえっていた。
「はあー。あの、商人ギルド加入は・・・・個人の自由ですよね?」
「確かにそうだが・・・・君の所は、かなりの売り上げを出している。 そう言った商店は、商人ギルドに加入すべきである。おい」
「はい」
商人ギルドの小太りギルマスが、手で合図をすると。後ろで控えていた男の一人が、前に出て来た。
「こちらをあらためよ」
「ん?」
渡された紙には、商人ギルドの加盟及び、商人ギルドへの上納金などについて書いてあった。
なんとまあー、あから様に金を要求してくるとはと、そのがめつさに、少し苦笑いしてしまう。ギルドに加盟して運営する場合、幾らかのお金を納めるのは当たり前だが・・・・渡された紙に書かれた額は、法外とも言えた。基本は1割が良いとこだが、商人ギルドはなんと、4割を要求して来ていた。それだけではなく、店で販売している商品の一部権利までだ。がめついにも程がある。
「さあー、さっさとサインしたまえ」
「・・・・はあーー。お断りします」『ビリリリ』
「「「なっ!!」」」
余りにも馬鹿らしいので、破って捨てた。それを見たギルマス以下、下っ端二人は、どう言うつもりだと言う顔で睨んでいた。
「き、貴様! 私が誰か分かっているのか?!」
「誰って.商人ギルドのギルマスでしょ? 金にがめつい」
「き、貴様ーー!! お前達!! やってしまいなさい!!」
「「へい!!」」
はあーー。リィーサがパメラさんの所に行って時で良かった。
さて、どうして・・やるか
『カランカラン』
しまった! こんな時にお客が来た!
「なんでも屋ー! また来たのじゃーー!」
って! しかも、よりによってシスティーナかい!
最近、屋敷を抜け出して、やって来るようになったシスティーナが、店の入り口でふんぞり返っていた。
「ん? なんじゃお主等は? 邪魔じゃ、道を開けよ!」
「ん? システィーナ、お供はどうした?」
「今日は妾一人じゃ」
「はあーー。また怒られるぞ」
「む・・・・そこは、なんでも屋がとりなしてじゃな」
「いや無理だから」
「むうー!」
「無視するなーー!!」
俺とシスティーナが話ていると、商人ギルドのギルマスが、突然キレた。
あっ、忘れてた。
「なんだ! この小娘は! 今大事な話をしているのだ! 邪魔するな!」
「・・・・・・・・。なんでも屋の店主よ。なんじゃ、この・・・・うすらハゲデブは?」
「おい、システィーナ」お嬢様なら口に気をつけなさい。いくらシスティーナの方が偉いからと言って・・。
「このぉー、小娘ー! 捕まえろ!」
「うっす!」
「おい! やめろ!」
怒ったギルマスが、下っ端に命令してシスティーナを捕まえようとする。さすがに、ただ見ている訳にはいかないので、間に割って入る。
「ふん、まあいい。そいつから痛めつけてやれ」
「「うっす!」」
指をポキポキ鳴らしながら、下っ端の二人が近づいて来る。
「なんじゃ貴様達! 妾を誰と思っているのじゃ!」
システィーナの言葉など、気にも留めず。下っ端の二人が、殴りかかろうとして来ようとしたその時!
『カランカラン』
「何をしている貴様達!」
颯爽と現れたのは・・・・システィーナの姉、ティファリーゼさんだった。その登場に、驚いた者が二人いた。それは・・・・。
「あ、姉上!」
「ティ、ティファリーゼ様ぁーー!!」
妹システィーナと、商人ギルドのギルマスだった。
「システィーナよ! また、屋敷を抜け出してなんでも屋に・・・ん? 其方は確か・・・・商人ギルドのギルドマスター、何故ここに?」
ティファリーゼさんの出現に、ギルマスは驚き、顔が真っ青に。
と言うか、姉のティファリーゼさんは知ってるのに、妹のシスティーナは何故知らん?
「ティ、ティファリーゼ様、お久しぶりでございます。商人ギルドのギルドマスター、オースでございます」
「うむ、それでオースよ。何故貴様はここに?」
ギルマスは、手揉みしながらモジモジし。バツの悪そうな顔で、
「あの、えと、それはですね」と説明に困っていた。
まあ、そりゃあー説明できないだろう。システィーナや、ティファリーゼさんが贔屓にしているお店に、ちょっかいを出しに来たとは言えんし。更に、ティファリーゼさんの妹に、危害を加えようとしたなど、そりゃあー言えないだろう。
「姉上! 此奴等が妾を襲おうとして来たのじゃ!」
「なんだと!」
「ひゃっ、そ、そそそれは、ちが」
「どう違うのだ? オース。貴様は、妾の妹システィーナが、嘘をついてるとでも?」
これは・・・・詰んだな。
「いえ、その、あの・・・・ぴぎゃぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
『バタン!!』
追い込まれたギルマスは、謎の悲鳴と共に、泡を噴いて気絶した。下っ端二人はそれを見て、観念したのか床に座り込んだ。
そんな三人を、ティファリーゼさんの連れて来た護衛の騎士達に連行されていく。心の中で、ざまあーと思いつつも、哀れだなとも思ってしまう。まあ、自業自得だよな。
「やっと静かになったのじゃ。では店主、何かお菓子を・・」
「・・シースーーティーーナーー」
「ひゃい! ・・・・なんでしょうか姉上?!」
底冷えする様な声で、ティファリーゼさんがシスティーナの名を呼ぶ。システィーナは思わず、姿勢を正し、気をつけ状態で立っていた。
「システィーナ」
「ひゃい・・・・姉上」
さすがに、お供も連れずに出歩いた事に怒っているようだ。
うーん、助けてもらったし・・(ティファリーゼさんに)
ここは・・・・助け船を出すか?
「あの、ティファリーゼさん。その辺で・・・・」
「おぉ! なんでも屋の店主よ!」
助け船を出され、システィーナは歓喜の声をあげた。別にシスティーナを助けたいからじゃないんだが・・。
「なんでも屋の店主、これは家族の問題。口出し無用だ」
「まあ、そうなんですけど」チラッ
「なんとかするのじゃ!」と、システィーナの目が訴えてくる。
「はあーー。それは店じゃなくて、家でやって下さい」
「うむ・・・・それもそうかの?」
「ほっ・・・・」
「取り敢えず、これでも食べて下さい」
二人にソフトクリームを渡す。アイスクリームは作ったが、ソフトクリームはまだ作っていなかった。二人は「なんだコレは?」と恐る恐る受け取るが、ペロっと舐めると・・・・「美味しい!!」と大騒ぎしていた。
因みに、商人ギルドのギルドマスター、オースは。今回の事がキッカケで、色々な不正が明るみに。商人ギルドのギルドマスターを辞めさせられ、不正に蓄財した財産の没収と、20年間の鉱山労働の刑になったとか。
ご愁傷様です。