ポーション再び
「あの、フレンダさんにエリッサさん。うちの店は、カフェじゃないので入り浸るの辞めくれません?」
「「カフェって何?」なんだ?」
あれ? この世界って、カフェは無いのか?
「店長、カフェってなんです? 食べ物か何かですか?」
「いや、食べ物じゃないから。えーと、簡単に説明すると飲食店かな?」
「飲食店ですか?」
「カフェの話はいいから。それより・・・・なんで最近、二人はうちに入り浸るんです? 正直、邪魔です」
「そう、はっきりと言わんでも・・・・よいではないか」
「そうよ、フレンダの言う通り。私達はお客様よ」
「買い物してくれて嬉しいですけど。入り浸られると、他のお客様に迷惑です。客はお二人だけじゃないんですから」
「うん。確かにそうだが・・・・」
「私達だって、居たくて居る訳じゃ・・・・」
「いや、居たくて居る訳じゃないなら帰って下さい!」
「あーん、エル君の意地悪!」
「変な声出さないで下さいよ」
エリッサさんの声に、店内にいた他のお客が、こちらを振り向いていた。
変な目で見られるからやめてください!
「すまない、迷惑かけて・・・・実は今、ちょっとした悩みがあってだな」
「さらっと、相談を始めないで下さいよ」
「店長の言う通りですよ。他のお客様のご迷惑に・・・・」
「いいから聞きなさい! エル君! リィーサちゃん!」
「「あっ、はい・・」」
エリッサさんの剣幕に押され、思わず二人して返事をしてしまう。そして、フレンダさんは話を淡々と続けた。
「実はだな・・とある薬の研究で・・・・ちょっと、行き詰まっていてな」
「はあ。ですが、それと店に入り浸るのとどう関係が?」
「・・・・息抜き」
「えっ? なんて言っ「息抜きだ! 別によかろう?! 毎日、毎日! 上司のアホが進捗を聞いてくる! だったらお前がやれって言う話だ! にも関わらず、あーだこーだと・・」
フレンダさんがキレた。
「はあー。そろそろ。こうなるかと思ったのよね。はあーー」
フレンダさんの事を、よく知るエリッサさんは、頭を押さえつつ、ブチギレフレンダさんの様子に溜め息をついた。
「あの、止めてもらえます? エリッサさん」
「無理。取り敢えず、スッキリするまで止まらないから。そのつもりでね」
「「はあーー」」
「聞いてあるのか?! 店主?!」
「はいぃぃ!」
それから小一時間ほど、愚痴は止まらなかった。だいぶストレスが溜まっていたらしい。
「スッキリしました?」
「すまぬ店主」
「ようやく・・・・終わった」
「大丈夫かリィーサ?」
「はい・・・・」
一緒に聞かされていたリィーサは、ぐったりとしていた。正直俺も、ぐったりだよ。愚痴を小一時間って、拷問に近いと思う。
「それで結局、何を作ろうと?」
「「解毒のポーションだ」よ」
フレンダさんとエリッサさんは、互いの顔を見ると、俺に向き直りそう言った。
「解毒のポーションですか? そんなありふれた物が、なんで大変なんです?」
「ただの解毒のポーションなら、なんの問題なく作れる」
「えぇ、フレンダの言う通り。ただ、私達の上司が頼んで来た仕事と言うのが・・・・ブラックデスコブラの猛毒を、解毒出来る解毒ポーションなのよ」
「あのクソ上司、無茶を言いおって!」
「フレンダさん、その見た目でクソとか言わないで」
「すまない。少し汚い言葉を使ってしまった。しかし、見た目とどう関係が?」
「いえ、別に」
フレンダさんは小さい。見た目は少女に近い。しかも美少女だ。そんな人が、クソとか言うのはちょっと・・・・。
「兎に角、そんな無理難題を押し付けられたのよ。そりゃ、息抜きも必要でしょ?」
「だからって、うちの店に入り浸るのはやめて下さい」
それにしても・・・・ブラックデスコブラの猛毒を解毒するポーションねえ。うーーーーん、ゲームには居無いモンスターだから、ゲームの解毒ポーションが効くのかな? どうだろう・・・・うーーん。
ゲーム、カオスフロンティアでは、毒の強さによって数種類の解毒ポーションが存在した。なかには、一体の特殊なモンスターのためだけに使用する、特別な解毒ポーションも存在する。
蛇タイプの魔物に使用する解毒ポーションで、一番強力なだった奴は・・・・確か、ニーズヘッグとかヨルムンガンドの討伐に使った解毒ポーションかな? あれって、レア素材を大量に使う結構な代物なんだよな。この世界で作るのは厳しそう。
だったら・・・・うーーーん。
「「じーーーーー」」
「うわっ、なんですか?!」
「「いや、やけに考え込んでいるから」」
二人が覗き込む様に、俺に視線を向けていた。考えるのに夢中で、気づかなかった。
「店主よ、何か良い案でも浮かんだのか?」
「良い案て、特に何か浮かんでませんけど・・・・まだ」
「そうか・・・・」
凄く残念そうに俯くフレンダさん。見た目は少女なので、悪い事した気分になってしまう。
「はあーー。エル君にもどうしようもないなら。もう、諦めるほかないわね」
「致し方ない。あのアホクソ上司に、目に物見せたかったが・・」
「口が悪いわよ、フレンダ」
「すまない」
うーーん、どうにかして力になりたいのだが・・・・そもそも、普通の解毒ポーションで効くのでは? 下級のポーションでも驚かれたし。でも、毒だしなぁー。傷の回復と毒は違う気が・・・・。
毒、毒? あっ! あの方法で作ればいけるか?
「あの、フレンダさん。エリッサさん」
「なんだ?」「何かしら?」
「えーと、ブラックデスコブラでしたっけ? それの毒とかありません?」
「ブラックデスコブラの毒? 一体何に使うのだ? 誰か毒殺でもするのか?」
「しませんから、そんな事」
「だったら、何に使うのエル君? 私達がしたいのは、毒の研究じゃなくて、解毒の研究なのだけど?」
「いえ、それを使えば解毒ポーションができると思うんです」
「「な、なんだってーー!!」」
「いや、そんな驚く事でもないと思うんですけど・・・・作り方教えましょうか?」
「頼む!」「お願い!」
二人に詰め寄られながら、その解毒ポーションの作り方を教えた。
毒から作る解毒ポーションの作り方。
まず用意する物は、錬金鍋とブラックデスコブラの猛毒。ブラックデスコブラの猛毒を、錬金鍋にいれ・・・・次に、錬金術には欠かせない、錬金血石を投入します。更に、魔力水と浄化の力を持つ、聖水を加えてかき混ぜる。最後に、体力回復ポーションと、ドクダミ草に毒消し草を入れれば・・・・・・ジャジャーーン!!
ブラックデスコブラ用解毒ポーションの完成です!
「と、まあ、こんな感じです」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「あの、どうかしました?」
「店主、色々言いたい事がある」
「はい?」
なんか失敗したかな?
「まず、この錬金血石だ! 前の魔力水にも驚いたが、この錬金血石にもだ! ここまで濃い赤の血石なんて見た事無いぞ!」
「それにこの聖水よ! コレ、普段、私達が使ってる聖水とはまるで違うわ! そう! 法皇クラスの人でもないと、生成出来ないほどの物よ!」
あっ、しまった・・・・これ、前に二人の前でやっちゃった奴だ。でも・・・・大袈裟すぎない?
「「なんて物で錬金してるんだ」のよ」
「「いや、でも、コレなら・・・・」」
「あの、兎に角、レシピは教えたので良いですか?」
「あぁ、教えてくれてありがとう。しかし・・・・解毒ポーションの研究より。この錬金血石と、聖水の研究をしたいぞ私は!」
「本当よ、まったく!」
申し訳ないです。でも・・・・この材料や質、そんなに高くないんです。せいぜい、中の下から中の中ぐらいなんです!
「あの、買っていきます? ・・・・錬金血石と聖水」
「我々に破産しろとでも?」
「こんなの、金貨が何枚飛んでいくか。はあーー。エル君には驚かせられてばかりね」
「すいません」
「兎に角、レシピは分かった。ギルドに戻って試しみよう」
「えぇ、そうねフレンダ。エル君、リィーサちゃん、またね」
「はい。えーと、仕事頑張って下さい」
「ありがとうございました」
「うむ、それでは」
「また来るから」
二人は急いで帰って行った。早くレシピを試したいのだろう。ワクワクした気持ちが、背中から読み取れた。
「ようやく帰りましたね・・・・」
「あぁ。ん? ちょっと休憩しようかリィーサ」
「そうですね店長」
その、三日後。目の下に隈を作った二人が、店に押しかけで来た。解毒ポーションの作成に、成功した事の報告のだった。
それで、今回の解毒ポーションのレシピに関して、錬金ギルドに登録するよう促された。俺は、二人の名前で登録して下さいと言ったら、なんか怒られた。研究者として、それはダメなんだそうだ。
正直、どうでも良かったが、二人に強く言われたので登録した。
そうそう、二人にブラックデスコブラの猛毒を解毒する、ポーションの研究を押し付けた上司だが・・・・パワハラが問題になったとかで、地方に飛ばされたらしい。それを語るフレンダさんの笑顔は、満面の笑みであった。
「ざまあ、あのアホ上司、ざまあ。・・・・ふあーーはっはっは!」
「フレンダ、笑い方が下品よ」