定休日の冒険 パートⅡ その4
「さあ、行くのじゃ! 竜を見に!」
「システィーナお嬢様、危のうございます。お立ちにならないで下さい」
荷馬車の荷台で、仁王立ちの状態のまま、道の先を指差してポーズするシスティーナを、側仕えのアルフレットが諌める。
「おい、静かにしろ。エルが乗せると言うから乗せたのだ」
「静かにしないと、叩き出しますわよ」
「うぐ」
「「申し訳ありません」」
「まあまあ、二人共。その辺で」
「エルは甘い」
「甘いと言うより、お人好しですわね」
「・・・・」申し訳ない。ですが、何かあった時の事を考えるとなぁ。甘かろうが、お人好しであろうと、別にそれで良い。後悔するよりは、いい思う。
「皆さーーん! そろそろ、渓谷近くの森でーす! 準備して下さーーい!」
ノームさんの声と共に、荷馬車は止まる。どうやら、目的地の一歩手前に着いたようだ。
「よし! 妾達も行くのじゃ!」
「「お嬢様! お待ち下さい!」」
「来る気かよ」
「当たり前であろう? 折角ここまで来たのじゃから!」
「システィーナお嬢様! 無茶です! 辞めましょう!」
「えぇい! うるさい! 行くったら行くのじゃ!」
高貴なお嬢様が、地団駄を踏んで抗議する姿は、シュールであった。
「はあー。着いてくるのはいいが、目に届く範囲に居てくれよ」
「分かったのじゃ! さあ、出発なのじゃ!」
*****
森に入って十数分後・・・・。
「疲れたのじゃ」
「ほら、頑張れよ。まだ森に入って、そんなに経ってないだろうが」
「むむむ、妾は高貴なる産まれじゃ! 森を歩くようには出来ておらぬのじゃ!」
「「お嬢様・・・・」」
「なら帰れ」「帰りなさいですわ」
ナヴィアナさんとナターリアさんは、とても辛辣だった。
普通ここは、頑張れと言う所だと思うが・・・・。二人からすれば、この子達は邪魔でしかないのだろう。
「ちょっと休憩しましょうか」
「エルはやはり甘い」
「まったくね。けど、戦闘前に休息は必要ですわ」
二人は文句を言いながらも、休憩に賛同してくれた。なんだかんだ言うけど。子供達の事を、意外と気にかけていると思う。多分。
「お嬢様、こちらに座って下さい」
「うむ、すまぬ、アルフレット。ミレット、其方も休め」
「はい、システィーナお嬢様」
さすがに子供の体力では、この森は厳しいだろう。アルフレットとミレットにも、疲労の様子が見てとれた。
「これを飲むといい」
「なんじゃコレは?」
「スポーツ飲料水だよ」
「「「「「スポーツ飲料水?」」」」」
何故か、子供達だけではなく。ナヴィアナさんと、ナターリアさんも加わって、頭に?を浮かべでいた。
「えーと、汗をかいた時に飲む物だよ。ほら、どうぞ。あっ、ナヴィアナさんと、ナターリアさんも飲みます?」
「うむ、頂こう」
「しょうがないから飲んであげますわ」
皆に、スポーツ飲料水の入った瓶を手渡す。子供三人は、少し疑っていたが。ナヴィアナさんは、迷う事なくそれを飲んだ。
それを、横で見ていたナターリアさんは「大丈夫そうね」と言葉を溢すと、自身もそれを飲んだ。
と言うか、ナヴィアナさんを毒味役にするんかい。それに、俺が何か盛るとでも?!
「う、うまい!」「あら、中々いける味ですわ」
「旨いのか? では妾も・・・・」
「お、お嬢様! ここはアルフレットが毒味を」
「う、うむ!」
「いやいや、毒なんて入ってないから!」
俺の言葉に、三人は意を決して、スポーツ飲料水を口にした。
「「「ゴク・・・・ゴクゴクゴクゴク・・・・ぷはっ! 美味しい!」」」
「だろう? さて俺もゴクゴク、ぷはっ! うん、体を動かした後は、コレだよな」
「エル、コレは売ってるのか? 欲しいのだが」
「まだ、販売はしてないですよ」
「そうなの? コレ、わたくしも欲しいですのに」
「あくまで、まだ販売、してないですから。その内出すつもりです」
「なら買いにいくとしよう」
「わたくしも買いますわ」
二人には、かなり好評のようだ。暑くなる季節には、熱中症対策として、必要だろうし。本格的に販売を考えるかな。
「お主、商人もしておるのか?」
俺とナヴィアナさん達の会話を聞いて、気になったのか。システィーナが聞いてくる。
「えぇ、まあ。店をやってまして・・・・なんでも屋って言うんですけど」
「なんでも屋じゃと?!」
システィーナは、店の名を聞いて驚いた。
「お主がなんでも屋の店主か! 妾は何度か、なんでも屋に行こうとしたのじゃ!」
「らしいですね。お姉さんからそう聞いてます」
行こうとしたって事は・・・・店にはたどり着けなかったか。
「うぬぬ、妾はついているのじゃ! 地竜討伐に向う馬車に会えたうえ、なんでも屋の店主にまで会えようとは!」
「グゴゴオォォォォォォォン」
システィーナが感激していたその時だった。大地を揺らすような、地響く様な咆哮が、辺りに轟いた。
「今のは・・・・」
「エル、どうやら近いぞ」
「近いってまさか」
「地竜に決まってますわ」
いよいよか・・・・。よし!「それでは「出発なのじゃ!!」
・・・・・・・・。
地竜か。あっ、そもそも勝てるのだろうか? 俺・・・・。